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魔力補充剤

 夜、俺は布団の上でゴロゴロしていたが眠れずに、気分を変えるために部屋を出た。

 外は肌寒かったから屋敷に戻り、緑茶を飲むために凍華に割り当てられている部屋へと向かう。凍華も俺と一緒の部屋でいいと言っていたが、断固拒否して別の部屋にしてもらった。

 ちなみに、俺と同じ部屋なのは桜花と寝華といつの間にか自分の部屋から移ってきていた白華だけである。

 桜花は娘だし、白華も今では娘のようだと思っている。寝華に関してはいつも寝ていて刀状態から戻らないから問題ないと判断している。


 それはさておき、凍華が居る部屋の前についてみると扉の隙間から光が漏れているため起きていると判断してノックをする。


「はい」

「俺だけど、入ってもいいか?」

「兄さん……どうぞ」


 返事を聞いて扉を開いてみると、凍華は箱を目の前に置いて周りに服やら小物やらを広げていた。あの箱は俺にも見覚えがある。確か、凍華が折れてから使えるようになった【スキル:凍華の箱】だ。

 中には色々なお茶やら何やらが入っていたと記憶している。

 現に緑茶が入っている筒も凍華の近くに置いてあった。


「整理してたのか?」

「はい。何かと多いですから。あっ、今お茶を淹れますね」


 凍華がトコトコと歩いてお茶を淹れに行くのを横目に改めて広げられている荷物を見る。

 お茶が入っている筒や何に使うのかわからない小物……それと並んで綺麗に畳まれて置かれている凍華の和服や男物の服。

 男物の服はたまに俺も借りて着ているが、恐らくじゅんの物だろう。

 背丈は俺よりも少し大きいくらいで普通に着れるから気にしてはいないが、凍華的に気にしてはいないのだろうか?


「ん? コレは……」


 ふと、服と同じくらいに大事に置かれていた小さな四角い箱が目についた。

 元の世界でも何度か見たことがあるソレを手に持ってみる。触った事はないために初めて持ったソレは思ったよりも軽い。


「どうして、コレがこんな所に……」

「お待たせしました……って、ソレは……」


 丁度そこに凍華がお盆に湯気が立つ湯呑を二つ乗せて持ってきた。

 凍華は俺が持っている物に気づいて、どこか懐かしそうに目を細めた。


「コレこの世界にもあるのか?」


 俺が手に持った物は箱に入ったタバコだった。一般的にはBOXと呼ばれているタイプだ。

 この世界にもタバコがあるのか気になって凍華に聞いてみると、少し考えた後に頷いた。


「ありますよ。と言っても、こちらではチルシと言う名前ですし、兄さんが持っている物とは別物ですけどね」

「コレはまた違うのか?」

「ソレはタバコの形をしていますけど中身は違いますよ」


 言われて開けてみると、そこにはやはり俺が知っている紙巻タバコが入っていた。

 一本取り出してよく見てみると、きちんとフィルターも付いているみたいだ。


「ソレを作った人が付けた名前は【魔力補充剤】です」

「【魔力補充剤】……?」

「使い方はチルシと同じで、加えて火を付けて煙を吸い込むだけですが、効果としては一時的に魔力を補充する事が出来ます。コレは、魔力草と呼ばれる魔王領にしか存在しない草を乾燥させて紙に包んでありますね」

「魔力草……?」

「どこから説明すべきか……まず、魔王領には普通の植物は生えません。ですが、この魔力草はその特徴故に魔王領に群生している植物ですね。特徴としては、空気中に存在している魔素を吸収する事ができます」


 魔素を吸収する……それを使う事で魔力を補充する物が作れるのか?


「魔力草は魔素を最大限吸収すると紫色に発光します。そうなった物を採取して、乾燥させる事で魔力の放出を抑え、逆に使用する事で体内に吸収する事が出来るんです」

「なるほどなぁ……」


 コレがあれば、魔力がない俺でも魔力を補充する事が出来るんだろうか?

 タバコとか吸った事無いけど、この世界じゃ法律とか関係ないし、そもそもコレはタバコではない。


「デメリットとかはあるのか?」

「まず、一時間で効果が切れます。その後、身体が怠くなりますね」

「魔力を無理矢理補充した事による反動か?」

「お兄ちゃん……純さんもそう言っていましたね」


 なるほど……状況によっては重いデメリットだが、使い方を間違えなければ強い味方となるだろう。

 

「中毒とかはないのか?」

「ありませんね」


 なるほどなぁと思いながら魔力補充剤が入った箱を手の中で遊ばせていると、凍華が何かを考えた後に口を開いた。


「よければ、一箱持っておきますか?」

「え? いいのか?」

「はい。使わないのが一番ですけど、もしかしたら必要になる時が来るかもしれませんし……」

「なら、ありがたく一箱貰っておく」


 手に持っていた箱を胸ポケットに入れ、この話はここで終わりとなった。

 そこからは、緑茶を飲みながら凍華が折れてからの事をゆっくりと話したのだった。

 



 朝、龍剣が指笛を吹くと桜の木の傍に黒龍が降りてくる。

 久しぶりに会った黒龍は何を思ったのか、俺に頬づりをしてくる。


「おぉ、久しぶりだな」

「グルル……」


 黒龍の頭を撫でていると、椿さんが近寄ってきて俺に包みを渡してくる。

 てか、この大きさとこの形って重箱じゃないか?


「お弁当です。途中でお腹が空くと思いますから、持って行ってください」

「あ、ありがとう」


 重量感溢れる重箱を受け取って、俺は黒龍に跨る。

 背中に凍華とうか、左腰に白華しろか桜花おうか、右腰に寝華と翠華を差しており完全装備となっている。


 俺が背に乗った事を確認した黒龍が立ちあがり、大きく咆哮した。

 それは、これから飛ぶという事を他の龍に伝えているようで、山のいたるところから咆哮が聞こえて来た。


《応援していますね》

「凍華、龍の言葉がわかるのか……?」

《まぁ、ほんの少しですけど……魔刀も龍もある意味一緒の存在ですしね》

「……?」


 それはどういう事かと聞こうとする前に黒龍の翼が大きく動き、少しだけ宙に浮く。

 バランスを崩さないようにしてから、俺は下に見える龍剣と椿さんに手を上げる。


「それじゃ、行ってきます」

「うむ。しっかりとわからせてこい」

「お気を付けて」


 二人にしっかりと頷いた所で黒龍が大きく空へと飛びあがった。

 勢いが強すぎて舌を噛みそうになった……。

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