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【閑話】跡地での出会い

こちら、昨日の午後分となります。

予約投稿したと思っていたら、出来ていなかった……。

 ゆう白華しろか桜花おうか、それに加えて修復された凍華とうかを連れて山を下っていた。

 三人とも人間状態で裕の前を何が楽しいのかニコニコと笑顔を浮かべて歩いていた。


 白華も最初は凍華の事を警戒……というよりも、人見知り故の怖がりで裕の後ろに隠れて会話をするレベルだったが、凍華の溢れんばかりの母性とコミュニケーション能力を前に今ではすっかり懐いていた。


(……後ろから見ると、保育園みたいだな)


 二人よりも身長が高い凍華が両手にそれぞれの手を握って歩いている姿は、さながら保母さんといった感じであり、どこにも違和感はなかった。


(今日もいい天気だなぁ……)


 三人で何かを話しているために何もする事がない裕は、そんなどうでもいい事を考えて後ろを付いていくだけだ。

 ここら辺に出没する魔物は魔刀まとう三人の魔力に怯えてか姿さえ見せず、龍達は龍剣から裕の事を聞いているからか上空をたまに飛ぶくらいで何かをしてくる事はないから心配する事は何もないのだ。


「兄さん」


 裕が特に何かを考えるわけでもなく、ボーっと歩いていると前を歩いていた凍華が二人の所を離れていつの間にか隣に立っていた。

 チラリと前を歩く二人の方を見た裕に対して、凍華はクスクスと笑う。


「そんなに心配しなくても大丈夫ですよ。二人は“普通の女の子”じゃなくて“魔刀”なんですよ?」

「そうだな……」


 凍華の言葉に裕は歯切れが悪そうに答える。

 裕はまだ魔刀の事を“武器”として割り切れておらず、本人達からそういう言葉を聞くとどこか複雑な気分になるのだ。


「それより、二人の所から俺の方に来て何かあったのか?」


 自分のモヤモヤとした気持ちを振り払うように話題を切り替えると、凍華は特に言及する事なくそっと裕の左腕を見た。

 そこには、黒く細い布によって全体を覆われた手が黒い長袖のシャツから露出していた。

 この黒く細い布は凍華が治った際に作られた左腕全体に巻かれている。


「いえ……大丈夫ですか?」

「あぁ……」


 凍華の言葉と目線で何を言いたいのか察した裕は思案する。


 左腕が治った事はありがたいのだが、これが良い事ばかりではなかった。

 まず、裕の左腕は凍華との契約によって再生したわけだが、形成している物質と特徴が問題だった。


 この腕は凍華の氷によって形成されているのだが、形を維持するために凍華の魔力ではなく契約者の魔力を必要としたのだ。

 そして、裕には“魔力がない”のだ。


 そうなるとどうやって形状を維持するのかと言われれば、魔力の代わりに“裕自身の生命エネルギー”つまり“寿命”を消費しているという事が凍華が修復されて少し経った時に発覚した。


 維持するのにそこまでコストが掛かるのであれば解除してしまえばいいと考えもしたが、ここでも問題が発生した。

 それは、解除した場合は何が起こるかわからないという事だった。

 凍華としてもこのような事は初めての出来事であり、そうなると何千年も生きている龍剣も知っているはずがない。


 腕をそのままに裕の寿命をキープするための案として出されたのが、左腕に巻かれている黒く細い布……名称を黒龍布こくりゅうふという。

 コレは、裕が助け出した黒龍の鱗を特殊な技術で加工して糸にし、それを布にする事によって作られた特注品だ。


 この布にはいくつかの効果がある。

 一つは黒龍の鱗にある能力と同じ“他人の魔力を吸収する”能力。

 二つ目は黒龍布を作る時に少量混ぜられた龍剣の鱗による“魔力の波長を合わせる”能力。

 三つ目はこれまた黒龍布を作る時に混ぜられた白龍の鱗による“魔力を貯蔵する”能力。


 裕が黒龍布を巻いて効果を発するには、この三つの能力が必要不可欠だった。

 理由としては、魔力は人によって違うために他人の魔力を吸収しても意味がないどころか、最悪自分が死ぬ事になる。

 黒龍は体内に“他者の魔力を自分の魔力に変換する”器官を備えているから大丈夫だが、普通の人間である裕にはそんな器官は存在していない。

 故に、龍剣の鱗にある“魔力の波長を合わせる”能力が必要になるのだ。

 波長を合わせる事によって、他者の魔力を自分の魔力と同じにする。

 そして、魔力とは一回外に出してしまえば時間と共に霧散してしまう物であり、それを抑えるために白竜の鱗にある“魔力を貯蔵する”能力が必要となったのだ。


 そうして、試行錯誤の末に完成したのが黒龍布であり、裕はコレに他者の魔力を貯め込む事によって自らの寿命を減らさずに左腕を維持する事に成功した。


 ただ、これにも欠点がある。

 この左腕は本来であれば、契約者の魔力を大量に消費して膨大な力を与える能力があるのだが、黒龍布はあくまで“左腕を維持するため”に巻かれている故に、一気に放出する事は出来ないのだ。


 まぁ、裕としては自分に魔力がないから左腕の能力なんて無い物と思っているのだが。


「特に問題はないな」

「なら、いいんですけど……」

「そんなに心配しなくても、黒龍布こくりゅうふに魔力が貯蔵されている限り問題はないんだろ? だったら、ちゃんと定期的に魔力を補充すれば問題ないよ」

「兄さんはうっかり忘れてしまいそうで……」


 凍華のその言葉に反論は出来なかった。

 元の世界でもうっかり何かを忘れてしまうという事は多々あったのだ。


「ま、まぁ……黒龍布は魔力が無くなると白くなるって龍剣が言ってたし、大丈夫だろ」


 一人納得した裕に対して、凍華は軽くため息を吐いた。

 彼女からしたら、抜けている兄を持った。くらいに思っている事だろう。


「それよりも、見えてきたぞ」

「ここが……」


 裕達が向かっていた場所は、今は手作りの墓だけが存在しているあの村だった。

 個人的な意見として裕は二度と来たくなかったのだが、凍華がどうしても見ておきたいと言ってきかなかったので折れてこうして連れて来たのだ。


「兄さん、誰か居ます」

「ん……?」


 凍華が警戒心を含めた声で伝えてくる。

 裕も「こんな所に人……?」と警戒レベルを上げて、前を歩いていた二人を呼び戻し、三人を刀状態にして帯刀する。


 凍華は治った際に進化した事で大太刀となり、腰に差す事は出来ないので背負い桜花と白華を左腰に差した。

 それぞれを相手から見えないように羽織っていたマントで隠して、凍華の案内に従って人が居る方へと歩いて行くと、そこには一人の男性が立っていた。


 身なりは恐らく一般人レベルで手足が細い。

 だが、病気というわけではないらしくその顔は至って健康そうであり、男性の近くには旅行鞄らしき大きな鞄が置いてあった。


 そして――その男性の顔には驚愕の表情に彩られていた。


「……どういう、事だ……?」


 裕が近くまで来ているというのに、まったく気づかない男性は呆然と呟いた。

 そして、そのままフラリと身体が揺れて倒れそうになるところを裕が支えた。


「大丈夫か?」

「あ、貴方は……? ど、どうして、こんな所に……?」

「それはこっちの台詞なんだがな……俺は、ココよりも上に一人で住んでいる者だ」

「上に……そうだったんですね……」

「それよりも、お前はどうしてこんな所に?」


 裕が聞くと、男性は暗く顔を俯かせた。


「ここは……私の両親が住んでいる村だったんです。私は見ての通り力仕事には向かないので、王都で出稼ぎを……まとまったお金が手に入ったので、両親に……っ」


 そこで我慢していたであろう涙を溢れださせる男性に、裕は「そうか……」と呟いた。

 ここに住んでいた人の事なんて知らないから、どれがこの男性の両親だったかなんて裕は知らない。

 自分がもっと早く辿り着いてれば救えたとも思わない。


 裕は自分の手が届く範囲と美咲を助ける事で精一杯なのだ。

 冷たいと自覚しているが、それが人間が出来る限界であり、見ず知らずの人を救う事は誰か――それこそ、勇者にでも任せればいいとさえ思っている。


「私は、王都に出稼ぎに行く前に母親と喧嘩をしたのです……でも、働くうちに母親がどれだけ私の事を愛していたかを知りました……謝りたかったっ!! でも、私のプライドが手ぶらで帰る事を許さなくて、まとまったお金が手に入ったら、ちゃんと謝ろうって……っ!!」

「……」


 男性の独白を裕は黙って聞いた。

 裕は男性になんて声を掛けていいかわからなかった。幸いにも自分には経験がない体験だったからだ。

 それに、下手な慰めなどこの男性は求めていないだろうという事がわかっていたからだ。


「それって……ジルナさんの事?」

「……っ!?」


 突然したこの場にいる男二人以外の声に男性が目を見開く。

 裕がチラリと左横を見てみると、いつの間にか人状態になった白華が立っていた。


「い、いつの間に……いや、それよりも母さんの事を知っているのかい!?」

「う、うん……たまに会ったから……」


 男性の勢いに若干引きながらも白華はそう答えた。

 白華はこの村に住んでおり、他人とあまり交流が無かったとは言え皆無ではなく、すれ違えば世間話をするくらいは数回あった。


「私の息子は立派で、王都で頑張ってる……身体を壊さないかが心配……って言ってた」


 白華の言葉を聞いて、男性は更に涙を流した。


「そうか……母さんも私を許してくれてたんだ……ごめん、ごめんよ……」


 その場に蹲って泣き出す男性を横目に、裕は白華の頭を撫でた。


「……?」


 白華は撫でられている理由がわからなそうだったが、心地いいから良いかと思ってそれを受け入れる。


《兄さん、すいません……私がここに来たいなんて言わなければ……》

「別に、凍華のせいじゃない」


 男性に気づかれないように小声で返した裕は、男性をもう一度見て踵を返した。

 これ以上、男性の傍にいるのは無粋だと思ったのだ。


「あ、あのっ!」

「ん?」

「私は、エスティアという王都にある“精霊の嘆き”という食堂で働いていますっ! よかったら、一度来てみてください。いいところですので……」


 エスティアという国名に裕はピクリと反応する。

 そこは、裕以外のクラスメイトが召喚され、美咲を奪われ、裕が出て来た国だからだ。


「ああ……機会があったら行くよ」


 裕はそう言ってその場から立ち去った。

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