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真打

 レギルスと戦った次の日、起きた時には桜花も目を覚ましていた。

 体調などに問題はないらしく、桜花は俺の手から離れた時点で意識がなかったという事を聞いた。


 白華が魔刀だった事を聞いても、驚くという事もなく逆に自分と同じだという事に喜んでいるくらいだった。

 白華も桜花と仲が良かったためいい友達が出来たと喜んでいるようだ。


 俺はそんな二人を連れて朝飯も食べずに村の跡地へとやってきた。

 出る時に椿さんがお弁当を持たせてくれたから、やる事をやったら食べようと思う。


「何も残ってないな」

「うん……」

「白華ちゃん……」

「大丈夫。特別仲がいい人とかは居なかったから」


 消化された村を再度練り歩き、死体か何か残っていないかを探してみたが見事に全て燃えていて何一つ残っている物はなかった。


 それからは白華の望み通りに木を二本十字につなぎ合わせた墓を村人の数だけ作って、村の跡地に刺していく。

 墓の木材はそこら辺の木を桜花で斬って、頑張って加工した物だ。


「みんな……」


 墓の前で手を合わせる白華の後姿を桜花と一緒に眺める。

 村に親しい人は居なかったと言っていたが、長く住んでいれば何かしらの交流もあっただろう。中には優しくしてくれた人もいたはずだ。

 そんな人達がいきなりいなくなってしまえば、きっと思う所がある……そう判断して、声を掛けずに待っているのだ。


「パパ……」

「ん? どうした?」

「パパは、いきなりどこかに行ったりしないよね……?」


 不安そうに見上げてくる桜花の頭を撫でる。

 この子も何かを失うという事を学んだのだろう。それ故に、自分の身近な人が居なくなるという事に恐怖心を抱いている。


「大丈夫。俺はどこにも行かない」

「うん……」


 そう……俺は自分が契約している魔刀を置いてどこかに行ったりはしない。俺個人では無力であり、この子達がいなければ俺は何もできない人間なのだから。

 それに、置いて行ったら俺の身体が機能停止になるしな。


「お待たせ」

「もういいのか?」

「うん」


 こちらに来た白華を連れて、適当な場所に座って椿さんから渡されたお弁当を三人で食べる。


「――!? あ、味がわかる……!?」


 椿さんから渡されたお弁当はおにぎりだけというシンプルな物だったが、それよりも食べた時に味がわかる事に驚いた。

 何度口にしても味を感じる。美味しいと思える。

 相変わらず空腹感などはないが、味がわかるというだけでテンションが上がる。


「すげぇ! 味がわかるぞっ!!」

「パパ?」

「ユウ?」

「あっ……すまん。ちょっとはしゃぎすぎた」


 それにしても、どうしていきなり味覚が戻ったんだろうか。

 白華に対価として味覚を渡したからか? だとすると、俺の味覚が無くなったのは何か違う理由だったのだろうか?

 いや、今はそんな事どうでもいい。

 味がわかるというだけでこんなに嬉しいとは知らなかった。


 俺はそれから二人に暖かい目線を向けられながらも食事を楽しんだ。



 山頂に帰ると、椿さんに龍剣が呼んでいると言われて屋敷の裏にある大きめの建物に案内された。

 中に入ると、そこには何に使うのかわからない設備が並んでおり、奥の方に龍剣と翠華が立っていた。


「翠華、しばらく見ないと思ったらここに居たのか」


 翠華はどこか疲れた顔をしていたが、俺が声を掛けると頭を下げて来た。


「申し訳ありません。本当はお傍に居たかったのですが……」

「翠華嬢は、凍華嬢の修復を手伝ってくれていたんじゃ」

「そうだったのか……ありがとな」

「いえ……私としても、凍華姉さんを早く起こしてあげたかったので」


 翠華に案内されるままに部屋の奥へと進むと、そこには折れたはずの凍華が修復された状態で置いてあった。


「あとは、お主が刀身に血を垂らすだけじゃ」

「わかった」

「あ、ではこちらの針を――」


 翠華が言い終わる前に俺は寝華を抜いて親指を軽く斬った。

 そこから流れ出した血を凍華の刀身に垂らすと、眩い光が空間を埋め尽くし――


「どこだ、ここ?」


 俺は知らない空間にいた。

 何もない真っ白な空間。下手をしたら上下左右さえもわからなくなりそうな場所に俺は立っており、少し先に水色の水晶で出来た龍が座って居た。

 顔はとてもシャープで尖っており、身体は薄く透けている。


「……凍華?」


 近づいてみると、龍も俺に気づいたのか俺に目を向けてくる。


「……」

《……》


 そうか。

 お前はずっとここで待っていてくれたのか。


「遅くなったな……帰ろう」

《……》


 龍が頭を下げる。

 その頭を俺は片腕で抱きかかえた。



「――」


 目を開けた時には元の場所に戻ってきていた。

 俺の右手にはいつの間に握ったのか凍華が握られていた。


「……凍華」


 俺が名前を呼ぶのを待っていたように、凍華の刀身にヒビが入り砕け散る。

 そして、それが再生するように水色の粒子が刀身があった場所へと集まって行き、最終的には日本刀よりも少し長い刀が形成された。

 刀身はどこか青みがかっており、柄の装飾も白を基調にした豪華な物となっている。


 凍華の形成が終わった後、俺自身にも変化が訪れた。

 無くなって久しい左腕がパキッという音がした後に、氷で出来ているんじゃないかと思わせるような水色の半透明な腕が生えて来た。

 手を握ったりしてみるとギチギチという音を立てながらもスムーズに動いた。


「この感覚も久しぶりだな」


 両手があるという事にどこか違和感を感じながらも軽く動かして問題がない事を確認して、凍華に目線を戻す。


「凍華」


 俺が名前を呼ぶと、刀が粒子となって消えて俺の目の前に人型の凍華が現れた。


「お久しぶりです、兄さん……」

「ああ……待たせて――いや、あの時お前を折る結果になってしまって、ごめん」

「いえ……いえっ……! 私の方こそ、申し訳ありません……っ」

「……もう一度、俺と一緒に戦ってくれるか?」

「はい……はい……っ! 不肖、凍華とうか改め、真打凍華しんうちとうか白百合しらゆり、兄さんのためにこれからもお仕えさせて頂きますっ」

「よろしく頼む」


 涙を流して抱き付いてきた凍華を俺は“両手で”そっと受け止めるのだった。

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