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帰宅

 敵が残っていないかを確認している俺の上空に青い鱗を持った龍が三匹旋回しているのが目に入った。


「ん……?」


 俺が見ている事に気づいたのか、青い鱗の龍は一回咆哮をするとその口から水を吐き出し始めた。どうやら、この燃えている家を消化しに来たようだ。

 どうせなら、もっと早く来て俺を助けてほしかったんだが……。


《ユウ……》

「ん、気づいたか」

《私、その……》


 あの戦いの後、白華は気を失っていた。

 それに伴い紅い刀身も元の銀色に戻っていたが、どこか気まずそうな白華の口調からしてあの時の記憶はあるみたいだ。


《ごめん……感情がちょっと高ぶった……》

「そうなのか……まぁ、気にしなくていいと思うぞ」

《うん》


 雨のように降り注ぐ水に打たれつつ、とりあえず帰るために山頂に足を向けた。



 山頂に帰ると、椿さんが出迎えてくれた。

 そこで白華が刀状態のままな事に気づいたが、椿さんは何も言わずに屋敷からタオルを持ってきてくれた。

 その後、風呂に入るように勧められ白華を人型にして(鞘を吹き飛ばしたせいで裸だった)から椿さんにお任せして俺は風呂を頂く事にした。

 ちなみに、白華が一緒に入りたがったがどうにか説得して刀状態の桜花だけを連れて風呂に入った。


 風呂から上がると、椿さんと侍女が来ている和服を着ている白華が待っていて案内されるがままに大広間へと向かった。


 大広間には龍剣が座っており、事の顛末を説明する事になり色々と説明した。


「なるほどのぉ……あやつがそんな事をしたのか」

「ああ。龍剣は麓にある村について知ってたのか?」

「まぁ、あるという事だけは知っておった。交流があったわけではないから、人間が住んでいるという程度の事じゃがな」

「そうか……」


 龍剣は俺から白華に目を向ける。


「お嬢ちゃん、名前は何という?」

「……白華」


 龍剣に名前を尋ねられ、チラリと俺にお伺いを立てて来た白華に軽く頷くと、白華は龍剣に名乗った。

 名前を聞いた龍剣は数回白華の名前を繰り返して頷く。


「そうか……お嬢ちゃんにはすまない事をした。親しい人もいただろう」

「いい……村の人とは交流してなかった」

「そうか……」

「それよりも、ユウと会えたから」


 白華はそう言って俺の右手を握る。

 え、なに、この空気?


「そうかそうか。話は終わりじゃ。椿、お嬢ちゃんを部屋に案内してやってくれ」

「わかりました。どうぞ、こちらへ」

「ユウは……?」

「ユウとは、ちと話があるのでな。しばらく貸してほしい」

「……」

「大丈夫だ。この爺さんは信用できるから安心してくれ」

「……わかった。ユウがそう言うなら信用する」


 椿さんについて大広間を出ていく白華を見送った後、龍剣は真剣な表情で俺を見た。


「して、あの子は魔刀で間違いないな?」

「ああ。前々から知り合いではあったんだが、魔刀だというのを知ったのはついさっきだ」

「そうか……あの子の過去については?」

「何も……白華自身が記憶喪失らしいから、何も聞いてない」


 俺がそう言うと、龍剣は何かを考えるように目を閉じた。

 そういえば、俺は自分が契約している魔刀の過去についてあまり知らない。凍華や翠華、それに寝華が前世の俺と契約していたという事くらいか。

 白華は前世の俺と契約していたという感じはしなかった。記憶の中でもあんな綺麗な銀色の刀身を見たことはないし、恐らく新種の魔刀なのだろう。

 魔刀に新種があるかどうかなんてわからないけど。


「そんなに過去が重要なのか?」

「いや、そんな事はない。少しだけ気になっただけじゃ」


 会話はそこで途切れる。

 龍剣からは他に聞きたい事とかは無さそうなので、俺は自分が言いたい事を伝えるために口を開いた。


「龍剣。どうやら、魔王軍は近々王国に何かをするらしい」

「王国とは、どこの王国じゃ?」

「それはわからない。だが、一度俺の知り合いが召喚された王国に戻ってみようと思う。あそこの連中には何の恩もないが、二人ほど気になるヤツがいるんでな」

「ふむ……いつ頃出発する気じゃ?」

「出来るだけ早く……二日後を予定していたが?」

「三日後にせい。その間にお主に叩きこめるだけ叩きこんでやる」


 そういや、そろそろ戦闘訓練に入ると言ってたな。

 俺としても少しでも戦える術を学んでおけるのはありがたいから、この提案は受ける。


「凍華はどうだ?」

「そっちも三日以内にはどうにかなりそうじゃ」

「そっか。なら、よかった」


 そこで会話は終了し、俺は自分が寝泊まりをしている部屋へと向かった。

 部屋に入ると、白華が座っていた。

 コイツ、なんで俺の部屋にいるんだよ……。


「自分の部屋はどうした?」

「……」


 白華は無言で右手を俺に伸ばしてくる。

 なんだ?


「手、握って」

「何で今?」

「いつでも握ってくれるって言った」


 そう言われると何も言えないから、そっと右手を握った。

 すると、白華は嬉しそうに笑う。


「暖かい……」

「まぁ、俺も生きてるからな」


 この右手は完全に俺の物とは言えないけど。

 それでも、俺の身体に繋がってるんだから体温は俺の物だろう。


「私、今まで誰にも触れられなかったから……」

「そうか……」

「うん……」


 確かに、白華はその特性故に誰にも触れられなかったとは聞いてはいた。

 だから、この子にとって誰かに触れられるというのはそれだけで意味がある事なのだろう。


「今日はここで寝ていい?」

「いや、それはダメだろ……」


 何とか白華を納得させて、俺はそのまま布団に入って眠りについた。

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