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逃亡

というわけで、本日午前二本目となります!

楽しんでいただけたら、幸いです!

 親指が刃物に辺り、切れた皮膚から血が垂れて溝へと流れ込んでいく。


《んっ……》


 付いていた刃物は思っていたよりも切れ味がよく、勢いよく血が出るが全て溝へ入り零れる事はなかった。


《行けるよ》

「わかった」


 構えをそのままに、一歩だけ歩いて――そこから思い切り地面を蹴った。

 風景が流れ、見据えていたレギルスに急接近する。


「同じ事をッ!!」


 レギルスが右手から触手を伸ばしてくる。


「ふっ!!」


 身体全体を使って右斜め下から触手目掛けて白華を振るう。

 五本の触手を白華はあっさりと切り裂き、それを確認するのと同時にレギルスへと向かって再度踏み込む。

 触手が再生するという事は考えなかった。

 何故なら、白華は“そういう”能力なのだから。


「なっ……!?」

「さっきのお返しだッ!!」


 レギルスの前で素早くしゃがんで右手の下に潜り込み、肘に向けて白華を振るうとあっさりと右腕は切断され、そのまま地面へと落ちる。


 白華の能力――それは、俺の血を触媒しょくばいとして“本来斬れない物を斬れるようにする”という能力だ。

 コレは、試してみないとわからないが恐らく実体がない敵なども斬れるはずだ。


 そして、今回のレギルスは何らかの魔法か能力を自身に付与していたのだろう。だから、白華はソレを斬った。

 そうする事によって、白華に斬られた場所は再生する事が無くなったのだ。


 素早く立ち上がって追撃をしようとするが、それをレギルスは後ろに跳ぶ事で避けローブを浅く斬るだけとなった。


 斬られた右腕を左手で押さえながら俺を凄い形相で睨んでくるレギルスに対して不敵に笑ってやる。

 さっきまでいいように遊ばれたんだから、コレくらいはやってもいいだろう。


「貴様……貴様ッ! よくも私の腕を斬ってくれたなッ!!」

「お前だって、俺の心臓を撃ち抜いたんだからお互いさまだろ?」


 軽く白華を振るって付着したレギルスの血を払って正眼に構える。

 視界に入った白華の刀身は紅く染まっていた。


《ユウ……早く、早く敵を斬ろう? 私、もう我慢できないよ……》


 切なそうな声で白華が言って来る。

 言ってる事は凄く物騒だが……


「そうだな」


 それには、俺も同意見だった。

 コイツは何をしてくるかわからないから、一気にケリを付けた方がいい。


 だんっ! と地面を踏みしめて白華を振るう。

 レギルスはそれを辛うじて避けて左手に持った細剣を振るって来るが、それを弾いて俺も白華を振るい続ける。


「……ッ!!」

「――ッ!!」


 互いに無言で剣を振り続ける。

 戦っている最中に言葉を発する事など、出来るはずがない。発声などという事に思考を割いてしまえば、それだけで勝敗が決まる事だろう。

 だから、今はただ相手を斬る事だけを考えればいい。

 見切り、振るい、弾き、振るう。


 白華と細剣が切り結び火花を散らす。

 どれだけ切り結んでも、お互いの得物は刃こぼれ一つしない。俺の白華は魔刀だから当たり前だが、相手の細剣は一体何で出来ているのか。


《フフッ……》


 切り結んでいる最中、白華は楽しそうに笑う。

 コイツ、俺の血を吸った途端にキャラが変わったけど、一体何があったのだろうか……。


 いつまでも続くかに思われた剣戟は唐突に終わりを迎える。

 レギルスが持っていた細剣が手から抜けて飛んで行ったのだ。その際に出来た隙に俺は白華を左胸目掛けて突き刺す。


《あはっ♪》


 白華の上機嫌そうな声と同時に、レギルスの口から血が漏れ出す。

 間違いなく即死レベルの傷を与えたとは思うが、念のためそのまま白華を回転させ真上に振り上げる。


「ガァッ……!!」


 身体の左側をバッサリと斬られたレギルスは、もはや左半身が辛うじてついているくらいだった。初めてこういうのを見たけど普通にグロイ。

 はみ出た臓物を地面に垂れ流しながら一歩二歩と下がるレギルスに俺はどこか違和感を感じていた。

 何かがおかしい……そう、何かが。


「――ッ!!」

「もう遅いわぁッ!!」


 血が出ていないという事に気づき、追撃のために再度踏み込もうとした時にはレギルスはその体を多くの蝙蝠へと変えて一斉に飛び去って行った。


 振り返ってみれば、斬りおとしたはずの右腕も蝙蝠となって飛んで行ってしまっている。

 流石に飛ぶ能力はないので追って殺す事は不可能。それ以前にあの量になってしまったら全てを殺す事はまず無理だろう。


「チッ……」


 右腕を斬った時には血が出ていたから、あの後に仕込んでいた魔法だろうと考えて舌打ちをする。やはり、あの一刀で片を付けて置くべきだったか。


 もしかしたら逃げではなく不意打ちを狙っての事かもしれないと警戒して周りを見渡してみると、桜花の事をどうにか回収しようとしている蝙蝠を一匹だけ見つけた。


「おい」


 蝙蝠の翼に白華を突き刺す。


『グッ……』

「逃げるなんて魔王軍としてそれでいいのか? あ?」

『コレは逃げではない……魔王様に情報を持ち帰るための撤退だッ!』


 それを逃げと言うのではないだろうか。

 まぁ、物は言いようって昔から言うからコイツ的には逃げではないのだろう。


『それに、私にはまだやる事があるのでな……王都が片付いたら今度こそ貴様を殺してやるッ!! 首を洗って待っている事だなッ!!』

「……」


 そう言い残して蝙蝠は塵となって消えた。

 王都――それがどこの事かはわからないし、俺が出て来た王都には勇者やクラスメイト共も居るから別に心配はしていない。

 それに、あいつらを助けてやる気もさらさらない……だが、シエル姫と佐々木の事は気がかりだ。


「一度、帰ってみるか……」


 白華を一旦地面に刺してから桜花を拾って鞘に納める。

 桜花の反応がない所を見ると、意識がないようだ。


「気が向かないな……」


 白華を引き抜いてから、俺は残党がいないかどうかを確認するために歩き出した。

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