繰り返す悪夢
というわけで、なんと一日で二話更新です!
そうですっ!
GW中は一日に二話(午前・午後)で毎日更新していく予定です!!
皆さまのGWの暇つぶしに役立てればと思います!!
振り下ろされる刃と俺の間に何かが割り込んできた。
それがあの少女だとわかった時には既に刃は左斜め上から少女の柔らかい肉体へと侵入し、その体を半分以上切り裂いた後の事だった。
「ぁ……」
細剣が引き抜かれ、支えを失ったようにこちらに倒れてくる少女をどうにか動かした右腕で抱きかかえる。
「あぁ……」
少女はカヒューカヒューと意味の無い呼吸を繰り返していた。
もう、この子は助からない。
「よ……かっ……た……」
これから死にゆくというのに、無表情だった少女の顔には微笑みが浮かんでいた。
誰も望んでいない結末――それこそ、この死に人一倍怖がっていた少女だって望んでいない結末なのにも関わらず、どこか満足そうに……何かを達成したかのような微笑みを浮かべていた。
俺の腕を温い液体が濡らせていく。
この少女の命が零れ落ちるソレに、俺は言葉も発せられずただただ消え行く灯に震えているだけ。
「ケガは……ない、ですよ……ね……?」
何故動くのかさえわからない右腕を動かして、少女は俺の頬に触れてニコリと笑う。
「どうして……」
どうして、俺なんかを助けた。
君は誰よりも、それこそ、俺よりもこの世に執着して生きたいと願っていたじゃないか。
俺がここに辿り着いた時の君は死にたくないと咆哮し、身体を大きく震わせて現実を否定していたじゃないか。
俺よりも、生きたがっていたじゃないか……!!
「貴方、は……救って、くれました……から……」
救っただって?
バカバカしい。俺はただ、腹が減ってそうだったから食事を与え、たまたまそこで死に直面していたから助けただけだ。
何を言っている。俺は、自分の意志で、君を救いたいと願って助けたわけじゃない。
「……」
少女の生気を失いつつある青い綺麗な瞳に映った俺の顔は、とても歪んでいた。
怒っているのか、泣いているのか、絶望しているのか――あるいは、それら全てなのか。
色々な感情が入り混じった顔だ。
そんな俺に対して、少女はまた、微笑む。
不安がる子供安心させるように。今までの出来事に感謝するように。我が子を愛するように。最愛の人に対して最上級の愛を伝えるように。
偶然出会い、偶然手を差し伸べた俺に対して最上級の微笑みを見せる。
「怖がら……ない、で……大丈夫……」
大丈夫なものか。
現に君は今もこうして死に掛けている。いや、もう死んでいると言っても過言ではない。
この傷ではどうあがいても救われない。翠華が手元にあり、その能力を使ったとしてもこの傷を塞いで命を拾い上げる事など出来ない。
アレの能力でソレが適用されるのは所持者であり、契約者である俺だけなのだ。
だから……何も、大丈夫じゃない。
「私、の事……は、気にし……ない……で……」
気にしない事など出来るはずがない。
俺のために、俺のせいで君は死んでしまうのだ。俺よりも幼く、俺よりも生きたいと願っていた君は、無力な俺のために死んでしまうのだ。
どうして、あのレーザーを凌いだ後に君を連れて逃げなかったと思う?
それは、俺が慢心していたからだ。
修行をして、強くなったと思い込んでいた。
敵など、この世界には魔王と龍剣くらいしかいないとさえ思っていた。いや、龍剣でさえも全力を出せば倒せると思っていた。
故に、あの時、君を連れて逃げずにあえて立ち向かった。
その結果がコレだ。
その結末がコレだ!!
俺の慢心のせいで、君は死んでしまうんだ。
「……手を、握って……くれ、ますか……?」
あぁ、握ってやる。
何回でも、何十回でも、何だったらこれから先、いつでも握ってやる。
だから、死なないでくれ。
「暖かい……私が、ずっと……欲しかった……」
喋るな。
もう、喋らないでくれ。これ以上はもう本当にダメだ。
「あり……が……と、う……」
少女は俺にお礼を言ってそっと目を閉じた。
俺の手から少女の手がスルリと抜けて、地面へと落ちる。
「ぁぁ……」
また、繰り返してしまったのか。
あの時、美咲を失った時のように、俺の無力さ故に誰かを死なせてしまったのか。
「ぁぁぁ……」
俺は、こんな小さな女の子でさえも救えないのか。
俺は、そこまで無力なのか。
「あ……アァァアァァアアアアァァァアッ!!」
どうして、どうしてだ!?
どうして、俺の手からこんなにも零れ落ちてしまう? どうして、俺は誰も救うことが出来ない!?
どうして……どうして、悲しいはずなのに涙の一滴も出てこないんだ……。
「逝ったか。バカな小娘だったな。間に割り込んで来て一撃を凌いだとしても、もうこの男には立ち上がる力さえも残っていないというのに。それならばまだ、コイツを囮にして自分だけ逃げる事も出来ただろうに……まぁ、逃げても私がどこまでも追いかけて殺してやったがな!! あっはははは!!!」
黙れよ……。
「まぁ、それさえもわからないから人間というのは愚かなのだ。この世に生を受けた時点で憐れとしか言いようがないなッ! 我々魔族に殺されるためだけに存在しているような生物など、家畜の足元にも及ばない。それならば、いっそ最初から存在などしなければよかったもの!!」
黙れ……黙れ……ッ
「ん? 貴様、泣いてさえもいないのかッ! 小娘が己の命を一時的とは言え救ってくれたのにも関わらず、涙の一つも流さないか!! 貴様の心も相当に冷たいな! 我々魔族だって、同胞が死んだら涙の一つくらいは流すものだぞ!!」
「黙れぇえええええええ!!」
動かなかったはずの身体が動く。
桜花を握って、勢いよく立ち上がり、斬りかかる。
動くなら、もっと早くに動けよ。クソッ!!
「ふんっ」
俺の一撃は、レグルスによって軽く弾かれた。
それどころか、俺の手は急に握力を無くして桜花を手放してしまう。
「……ッ!」
「まともに剣を振るう力さえないか。まぁいい。貴様を殺した後、この武器は魔王様に献上するとしよう。同型の武器だ。きっと魔王様もお喜ばれるに違いない」
また……また、俺から奪おうと言うのか。
美咲だけでなく、あの少女だけでも飽き足らず、娘である桜花さえも、俺から――ッ!!
「うおおおおおおお!!」
言葉に出来ない感情を咆哮に変えて口から吐き出し、ありったけの力で右拳を握りしめて殴り掛かる。
「遅いな」
振るわれた俺の右拳がレグルスのムカつく顔面に届く事は無く、変わりに細剣が俺の拳に突き刺された。
俺とレグルスの勢いが乗った細剣の突きは、そのまま進んで柄が拳に当たる程に突き刺さった。
例えるならそう、串焼きだ。
俺の右腕を串焼きの肉とし、細剣が串だ。
「――ッ!!」
痛みはない。それに、コレは絶好のチャンスだ。
ヤツの細剣は俺の腕に突き刺さっており、抜くのにも時間が掛かる。そして、左腕を突き出している状態のために右手の魔法をすぐにこちらに対して放つ事は出来ないだろう。
(コイツを一発殴れればいいッ!!)
ならば、俺が選択する攻撃は一つ――左足を引き、勢いを付けて蹴り上げるッ!!
「――甘いのだよ」
俺の左足がレグルスに当たる事はなかった。
蹴りが当たる直前で、俺の身体は動く事を止めたからだ。いや……正確には、動けなくなったと言った方が正しい。
「ぁ……?」
自分の身体を見下ろすと、左胸に穴が空いていた。
そして、俺とレグルスの間には不自然に捻れ曲がった“ヤツの右腕”があり、開いた手のひらからはモヤが霧散していく所だった。
つまり――俺は、負けたのだ。
蹴りを放つよりも早く、どうやったのかはわからないがヤツは右腕を変形させて俺の左胸にあのレーザーを撃ちこみ、俺の身体の機能が停止したのだ。
魔族も差異はあれど、見た目はほぼ人間と同じだったために全く警戒をしていなかったが、どうやら自分の身体を自由に変形させる事が出来るらしい。
「貴様は私に土を付けようとしたようだな……そう、こんな感じでッ!」
腹に衝撃が走り、俺は少女が倒れている場所まで飛ばされ、狙ったかどうかわからないが少女に並ぶように倒れた。
考えなくても分かる。
レグルスが動けない俺に対して蹴りを放ったのだ。
「ふん……まるでムシャブリのようなしぶとさだったが、心臓を貫かれては貴様ももう終わりだろう。だが、恥じることはない。貴様は私と戦い敗れるのだからな」
朦朧とする意識の中でヤツの声だけが聞こえた。
その後、桜花を拾おうとして拒絶されたためにした舌打ちが聞こえてくる。
(動け……動け、動け動け動けッ! どうして動かない? お前の娘が奪われそうになってるんだぞ!? 美咲と同じ運命を辿らせるつもりか!? 嫌なら動け……動きやがれぇ!!)
念じても、願っても、無理矢理でも、身体は動かなかった。
「クソ……が……」
やがて、俺の意識は充電が切れた機械のようにプッツリと途切れた。
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