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魔王軍

投稿が遅くなってしまい、申し訳ありません。

今日からGWですね!


GWは毎日更新する予定ですので、よかったら読んでください!

 俺は間に合ったという事に対して、そっと背後の少女にバレないようにため息を吐いた。

 山頂からここまで、全力で走って10分程掛かった。着いてすぐに少女を発見する事は出来たが、オークに殺される寸前だった。


 正直、あそこから少女が殺される前にオークを倒せたのは奇跡としか言えないレベルの出来事だと思うし、現に俺の心臓はドクドクと激しく脈を打っている。


「あー……」


 周囲を警戒しながら、少女に話しかけようと思ったが自覚が無かっただけで俺も相当混乱しているらしく上手く言葉が出てこない。

 どうしてここに? どうして魔物が? どうして民家が燃えている? そういった疑問がグルグルと脳内を周り、いい感じに気を遣った言葉が口から出てこない。


「……ッ!!」


 きっと、怖かったのだろう。

 言葉を探して「あー」とか「うー」と唸っていた俺に少女は抱き付いてきた。


「……」


 桜花に対して内心で謝りながら地面に突き刺して少女の頭を撫でると、少女は静かに嗚咽を漏らしながら泣き始めた。

 俺が着ている黒いシャツにシミが出来ていくのを自覚しながらも、周りを警戒しつつ「目立たない色の服でよかった」と関係のない事を考えた。


 だから、気づかなかったのかもしれない。

 走ってくる時に枝が頬を掠って出来た傷から血が垂れ、真下に居る少女の方へと落ちていくのに。


「あっ……」


 咄嗟に声を出してしまったのも不幸だったのかもしれない。

 俺が声を上げた事で少女が不思議に思って顔を上げてしまった。先ほどまで泣いていたためにその口は小さく開いている。


 その小さな口に俺の血が入ってしまった。


「やべっ! おい、すぐに吐き出せ! ペッ!ってするんだ!」

「……」


 バイキンなどを気にしてすぐに吐き出すように言うが、少女は目を見開いたまま固まっていた。

 こうなったら力ずくで……と腕を動かした時、俺の背筋を突き刺すような悪寒が襲った。


「クソッ!!」


 咄嗟に少女を抱きしめて大きく横に跳ぶと、そこを細く青いレーザーが通り過ぎていった。


「ほぅ……今のを避けるか。弱小な人間にしては中々いい反応をしているようだな」

「お前は……」


 声がした方に目を向けてみれば、そこには黒いローブを着こんだ長身の男が立っていた。

 フードを深く被り、顔は確認できない。ローブから覗く腕はとても細い事と先ほどの魔法からして、明らかに格闘戦をやるような男ではないだろう。


「我は魔王軍第四部隊隊長のレグルス。貴様、人間にしては中々やるようだな? 殺す前に名前くらいは聞いてやるから名乗るといい」


 やけに上から目線の男に視線を向けながら、これからの行動を考える。

 桜花は地面に突き刺したまま。距離は一歩程度だが、その距離を相手が許してくれるとは考えにくい。それどころか、俺がここで少しでも動いたらすぐに男が突き出している右手から先ほどの魔法が放たれるだろう。


(それを避けて、桜花を拾って……いや、ダメだ。もしもそれでこの子が狙われたらどうする? この子は普通の人間だ。アイツの魔法を避ける事なんて出来るはずがない)


「どうした? 名乗らないのか? 警戒しなくても、貴様が名乗っている間に攻撃するという事などはないから、安心して人生最後の名乗りを上げるといい」

「裕……一ノいちのせ ゆうだ」

「ユウ……ふむ。珍しい名前だな。まるで、過去に召喚された勇者と一緒のニュアンスを感じる」

「親が勇者のファンだったんじゃないのか? それより、俺も冥土の土産に聞きたい事があるんだが、いいか?」

「ふむ……よかろう。質問を許可してやる」

「この惨状は、お前がやった事なのか?」


 俺の質問にレグルスはそれはもう愉快だと言いたいかのように口元を大きく歪めた。

 その顔が無性にイラつく。


「そうとも! コレは我が命じてやった事だ! 貴様は知らないだろうが、この山の山頂には何千年も生きている龍が暮らしている。ソイツを魔王様の命令で勧誘に来たのだが、その帰りにたまたまこの村を見つけてな! コイツらは、龍が住んでいる事を良い事に、ここでひっそりと村を作り、その加護を受けようとしていた不届き者だったのだ! 故に、我が制裁を加えた!!」


 レグルスの言葉はきっと都合がいい方便だろう。

 龍剣もこの村について何も言っていなかったし、恐らくここに住んでいた人達も山頂にそんな龍が居るなんて知らなかっただろう。

 なにせ、ここから山頂に行くには道中に存在しているワイバーンや山の一部を領地としている龍をどうにかしなければいけないからだ。

 もしも、この村に山頂まで行けるような実力者が居るのであれば、もうソイツは王都にでも言って軍隊に入った方が儲かるだろう。


 それに、レグルスの発言は一々人間を格下に見ている節がある。

 つまり、コイツは帰宅途中にたまたまこの村を見つけて人間憎さに攻撃を仕掛けたに過ぎない。


 俺がそう結論付けていると、俺が抱きしめていた少女が震えた。


「……がう」

「ん?」

「村の人達は……そんな人達じゃないッ!!」


 少女が俺を押しのけて、レグルスの前に立って叫ぶ。

 いつもは無表情の少女が、その顔に感情を露わにし、涙を流して格上の相手に叫んでいる。

 レグルスがちょっと少女の手を捻るだけで死んでしまう事は自覚しているだろう。何故なら、身体が震えているからだ。

 それでも、少女は叫んでいる。


「ほう。小娘、言うじゃないか。ならば、あの世でアイツらに直接聞いてみる事だなッ」


 レグルスの右手が少女へと向けられ、その手にモヤが出現する。

 よくよく考えれば、魔法なんて物については何も知らないがきっとアレが発動する前兆なのだろう。


「クソッ!」


 レグルスの魔法が発動するまで、一秒もないだろう。

 故に即座に行動をする。


 0.5秒。

 桜花の方へと大きく跳び、その柄を握って地面から引き抜く。


 0.7秒。

 そのまま少女の前に立ち、垂直に桜花を構えて右腕を伸ばす。


「消えろ、小娘!!」

「耐えろよ、俺の身体ァッ!!」


 1秒。

 レグルスの手からレーザーが発射され、桜花へとぶつかる。

 右肩が外れるんじゃないかと思える程の衝撃が右腕を襲うが、構えを維持できるように全神経を集中させ、その衝撃に耐える。


 桜花に当たったレーザーは二手に分かれて俺の両脇を通り過ぎていく。

 俺の真後ろに隠した少女も無傷だろう。


 どれくらい経ったのかわからないが、気づいた時にはレーザーは止まった。

 それと同時に俺腕に激痛が走るが、それを無視して前へと身体を動かす。


「うおおおおおおおおお!!」

「貴様ッ!!」


 相手は近接武器を装備していないと踏んで斬りかかったが、ソレは男の左腕に握られた青い細剣に防がれる。

 互いにそのまま押し込もうとする事で鍔迫り合いとなり、至近距離で相手を睨みつけるとフードの下には銀髪のイケメンが居た。


「ぐっ……!!」

「……ッ!!」


 互いに力を込めている事でギチギチと桜花と細剣が刃を合わせて音を立てる。

 俺が片腕とはいえ、相手は遠距離専門のはずだ。それなのにも関わらず、この細腕一本で桜花を受け止めている事に内心で驚きつつも力を更に入れていく。


 だが、押しきれない。

 こちらが力を入れるのと同時に相手も力を入れ、どちらかが押し切るという事が出来ない。


「なるほど……その得物、魔王様がこの前連れて来た不愛想な女と同じという事かッ」

「……ッ!」

「女を武器にする気持ちはどうだ? 聞かせてみせろ!!」

「黙れぇ!!」


 更に力を籠める。

 それでも押し切れないという事はわかっていたが、それでも目の前の男を斬りたいという気持ちだけは捨て切れなかった。


 俺だって、好きで桜花を武器として使っているわけではない。

 それしか手段がないからそうしているだけだ。それを何も知らない奴が偉そうに何を言うのか。


「女なんぞに頼っている貴様にィッ!!」


 桜花が弾かれ、右腕が大きく上がる。


「私がッ!!」


 レグルスが左手を大きく引く。

 ヤバいと本能が警告するが、この体勢からガードをするのは間に合わない。

 故に、大きく後ろへと跳ぶ事を選択する。


「負けるはずがないのだァッ!!」


 左手がブレた。

 大きく後ろへと跳躍した俺に向かって無数の突きが繰り出された。

 決して届く距離ではなかった。だが、その剣先は俺を確実に捉えて肉体を貫いていく。


「ぐっ!!」


 着地した俺はその場で膝を着いた。

 どうして届いたのか? などとは思わなかった。

 右目できっちりと見えたのだ。“レグルスの細剣が伸びた”事を。


「……終わりだな」


 ゆっくりとこちらに歩いてくるレグルスに反撃しようとしても、深刻なダメージを負った俺の身体は動けない。


 目の前に立ったレグルスが細剣を振り上げた。

 狙いは俺の首だろう。


「さらばだ……イチノセ ユウ」


 そして、レグルスの細剣が振り下ろされた。

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