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銀髪の少女

 息が切れる。乾いた空気で喉が乾燥し、貼りつくようだ。

 心臓が脈を打つ。生き急ぐように急速にその鼓動を早め、俺自身を急かしているようだ。


 足は棒のようで、感覚もほぼ無くて自分が走っているのが不思議なくらいだった。

 それでも、走る。前へ、ただひたすらに前へと走る。

 急な坂道のような山の斜面を速度を気にする事なく走る。



 前へと走れない人間に勝利も希望も無いのだから。



「がはっ……はぁ……はぁ……」


 山の麓で大きく咳き込みながらも空気を死ぬ気で吸い込み、呼吸をする。

 身体が酸素を求め、それが行動となっているのだ。


「し、死ぬ……」


 フラフラと歩いて近くにあった大木に背を預けながら座る。

 龍剣からは適度な休憩は許可されているため、こうして限界ギリギリの所で休憩を挟むようにしているのだ。


「はぁ……」


 どうにか落ち着いてきた呼吸を最後にため息で正常な所まで戻す。

 空を見上げれば青空が広がっており、早朝からずっと山を行ったり来たりしている俺に対して「何をやっているんだ?」と言っているようにも思えた。


「……」


 目を閉じる。

 心地よい風が熱くなった身体を冷やしてくれる感覚に身を任せると、程よく眠くなってくる。


(結構走ったし、少し休むか……)


 人間、目を閉じるだけでも結構な回復効果が望めるというのをどっかで聞いた事がある。

 そんな事を思い出して目を閉じていると、近くに誰かの足音が聞こえて来た。感覚的に敵意があるわけでもなさそうだから特別急ぐこともせずにそっと目を開けると、そこには何かの布で作られた服を着た少女が立っていた。


「……」

「……」


 互いに無言。

 少女は何かを言うわけでもなく、こちらをジッと見ている。

 俺はと言うと、少女の服装ではなく髪に着目していた。汚れてはいるが、綺麗にすればきっと美しいと思わせるような銀色の髪。


 正直に言えば、見惚れていた。

 凍華のように青みがかった白ではなく、輝くような銀色の髪に。


「……迷子か?」

「……」


 俺が聞くと、少女はフルフルと顔を振る。

 まぁ、こんな所で迷子になるとは考えづらいし、きっとこの辺に家族と一緒に住んでいるのだろう。


「俺に何か用か?」

「……」


 少女はゴソゴソと背負っていたカゴを下ろして、中から小さな何かの革で出来た水筒をこちらに差し出してくる。


「くれるのか?」

「……」


 俺の言葉に頷く少女にお礼を言ってから受け取る。

 毒は疑っていなかった。というよりも、俺の左目は嘘を看破する力があり目の前の少女が嘘を吐いているという感じではないと教えてくれていたからだ。


「……」


 そっと水を口に含む。

 うん、味がちょっと違うけど普通の水だ。


「ありがとう、助かったよ」

「……ん」


 蓋を閉めて少女に渡すと、小さく頷いてくる。

 何か、この子の感じはどこかで知ってる気がする。


「君はこの近くに住んでいるのか?」

「ん……」

「そうか。でも、こんな所で何をやっていたんだ?」


 少女はそっとカゴの中身を俺に見せてくる。

 中には木の実やキノコなどが入っていた。


「なるほど。食料を探していたのか」

「うん……」


 初めて少女の声をまともに聞いたが、その声は透き通るような音色でとても綺麗だった。

 っと、いかんいかん。このままじゃ何だか目覚めてはいけない物に目覚めそうだ。よく見てみろ。相手は桜花と同じくらいの年齢で――ん? 桜花?


 あぁ、そうか。

 この感覚は桜花があまり喋れなかった時に似ているのか。


「……」


 会話が途切れる。

 俺も会話をするのは苦手だから、どうもこういうタイプの人間と会話するのは苦手だ。


 どうするか考えて居ると、ぐぅ……という可愛らしい音が聞こえてくる。

 少女の方を見ると、相変わらず無表情なのにどこか照れているようにも見える。


「腹が減ってるのか……」


 コクンと頷く少女を見ながらポケットを探るが特に食べ物が入っているわけでもない。

 参った。女の子がお腹を空かせているのを見ているのは辛いから何かしら食べ物をあげたいのは山々なんだが……。


「お困りのようですね」

「……っ!?」


 声に振り向くと、いつの間に来たのか椿さんがそこに立っていた。

 ほんと、神出鬼没だな……。


「中々戻ってこないので心配していましたが……なるほど。そういう事でしたか」

「待ってくれ。何か勘違いをしてないか? 俺は、別にこの子と何かしていたとかそういうわけでは……」

「わかってますよ」


 微笑んでくる椿さん。

 本当にわかっているんだろうか……。


「……」

「貴女、お腹が空いているんでしたよね」


 少女が無言で頷くと、椿さんは俺の方を向いて森へ指をさした。

 え、なに……?


「ちょっと、走って食べ物を持ってきてください」

「え……それは、山頂まで?」

「勿論です。魔物を狩ってもいいのですが、魔物の肉には毒がありますし、毒抜きするのには時間が掛かりますよ。その間、この子を待たせていいのならそれでもいいのですが……」


 椿さんの言葉に口元が歪むのが隠せない。

 この人、普通に脅して来てる……。


「行きますよ、行けばいいんでしょ!!」


 俺は山頂へと向けて全力で走りだした。




 通常、片道30分掛かるところを俺は全力で走った。

 途中から薄く視界が赤くなった気がするが、それさえも気にせずに走って山頂付近に居た侍女から適当に食料を受け取って元居た場所まで走る。


 結果、往復30分で戻ってこれた。


「お疲れ様です」

「……」

「ぜぇ……はぁ……ぜぇ……はぁ……」


 椿さんと少女は互いに並んで肩が当たらない距離を置いて座って居た。

 

「急いでたからあんまし凝った物はないけど……ほれ」


 俺が肩から掛けていたカバンからおにぎりを取り出し、少女に差し出す。

 少女はおずおずとそれを受取ろうとして――俺と手が当たった。


「――ッ!!」

「うぉっ!? あぶねぇ!!」


 凄い速度で引かれた少女の手。それから落ちそうになったおにぎりを急いでキャッチする。

 少女はと言うと、何故か俺の右手をジッと見ていた。さっきまでは無表情だったのに、今では顔全体が驚きと困惑で彩られている。


「……? ……っ!?」

「何をそんなに驚いているんだ……とにかく、折角作ってくれたんだから今度は落とすなよ?」


 少女にしっかりとおにぎりを渡して、俺も自分の分のおにぎりを手に取る。


「あ、椿さんもいる?」

「いえ。私は先ほど済ませて来たので」

「じゃあ、失礼して……」


 おにぎりを頬張る。

 適度に塩が効いてて普通においしい。


「……」


 先ほどまで俺の右手を凝視していた少女も、おずおずと言った感じでおにぎりを食べ始める。

 何だか、リスみたいだ。




 それから三個ほどおにぎりを食べた少女は頭を下げて去って行った。

 まぁ、俺も水を貰った恩があるし気にしなくていいんだけど。


「あの子……やっぱり……」

「どうした?」

「いえ……ところで、そろそろ訓練に戻らないと龍剣様に怒られてしまいますよ?」

「うっ……!?」


 龍剣が怒るとなると、それはもう本気の殺し合いにまで発展しかねない。


「じゃ、じゃあ、俺は訓練に戻ります!!」

「はい。あ、荷物はこちらで持って帰るので置いて行ってください」

「お願いします!!」


 恐怖心から椿さんに対して敬語になりながらも、俺は山頂へと向かって走り出した。

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