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山頂へ

 星空と月が見守る空――そこを俺達を乗せた黒龍が飛んでいる。

 黒龍には龍剣山に向かってくれと言ったらどこかに飛び始めたので、恐らくは俺の希望通りの場所に向かって飛んでくれていると思う。


(星空を見てると、あの空間を思い出すな……)


 あの空間では星の一つ一つが違う世界線での俺であり、星の一つ一つが俺が辿り着けたであろう可能性だ。

 俺は、あの空間でいつかのどこかで果てた俺自身の力借りてこの世界で生き残り、美咲を救うために戦う事が出来る。


「ご主人様マスター?」


 黒龍の首にしがみついたままで呆然と夜空を見上げていた俺に翠華が話しかけてくる。

 どうやら、呆然としていた姿が不思議に映ったらしい。


「いや……何でもない」


 そっと、夜空から視線を外す。

 今の俺にはあの力を使うことが正しいのかどうかはわからない。だが、この世界で無力な俺にとっては使う以外に道はないんだ。

 だから……考えても仕方がない。


「ご主人様マスター、いけそうです」

「ん? 何がだ?」

「魔力がある程度補充出来たので、寝華は私が持ちますよ」


 そう言ってこちらに左手を伸ばしてくる翠華。

 魔力ってそんなに早く充電できる物なのか?


「ご主人様マスター、一つ良い事をお教えしましょう。契約していると、ご主人様の考えている事は私達にもわかるようになるんですよ?」

「そうなのか……?」

「ええ。そして、ご主人様の疑問に対する答えはこの世界では上空に行くほどに魔素が濃いんです。だから、私達の魔力回復も早いんです」


 翠華の説明を聞いて納得しつつも、新たな疑問が俺に浮かぶ。


「あれ? でも、俺達って離れると契約の対価に使った部位が動かなくなったりするんじゃないのか?」


 そう考えると、ここで寝華を渡してしまっていいものなのだろうか?

 いや、それ以前に翠華とは人一人分は離れているのにどうして“両目”が視えているのだろうか。


「何も密着していなければならないというわけではないんです。この程度の距離であれば、問題ないですよ」


 微笑みながら教えてくれた翠華に礼を言いつつ、寝華を渡す。

 確かに、寝華を翠華に渡しても俺の右腕が動かなくなるという事もなかった。


「ふぅ……」


 とりあえず首から翠華が座っている背中の方へと移動して、適当な場所にあった鱗を握る。

 黒龍の背中はゴツゴツしており、どこかに捕まる事はそう難しい事でもない。


「龍剣山ですか……」


 一息ついていると、翠華が呟いた声が聞こえた。

 そういえば、翠華も龍剣山について何か知っているのかもしれないし、聞いておいた方がいいな。


「そこに凍華を直す方法があるらしいんだが……他に何か知ってるか?」

「そうですね……他に私が知っている事と言えば、あそこにはちょっと厄介なお爺さんがいるくらいですかね?」

「厄介な? それは、どういった――」


 と、そこで俺は急激な浮遊感に襲われ、その数瞬後には落下する感覚に襲われた。


「なっ!?」


 すぐに黒龍が急降下したのだと理解したが、それ以上に眼下に広がった光景に驚いてしまった。


 現在俺たちがいるのは、恐らくは龍剣山の上空だろう。

 そんな俺たちの眼下には、まるで山を守るように大勢の色とりどりの龍が展開しているのだ。


「コレは……あまり、歓迎されていない感じだよな」


 冷や汗が流れる。

 よくよく考えてみれば、いきなり上空から部外者が入ろうとしたらそりゃ警戒されるに決まっている。


 何か一つでも選択肢を間違えたら、俺はこの龍の大群と戦わなくてはいけないだろう。

 だが、こちらには黒龍が一匹と魔刀が四振り……それに加えて片腕が無い人間が一人だけだ。

 いくら、魔刀と黒龍の力が強いと仮定した所でこの量の龍に勝てるビジョンなど見えるはずがない。


《ん……》

 

 左腰に差している桜花がカタカタと小さく揺れる。


「起きたか。調子はどうだ?」

《パパ……大丈夫》


 未だ完全に覚醒はしていないであろう桜花に内心で謝りながら、右手で柄を握る。


《ひゃっ……!?》

「あっ、すまん」


 聞いた事がない桜花の声に反射的に謝ってしまう。

 まぁ、それでも柄から手を離す事はしないのだが……。


《パパ、いきなりはビックリするからダメ!》

「ご、ごめん……」


 桜花に注意されてしまった……。

 娘の成長というのは、思ったよりも早いみたいだ。このまま行ったら、パパなんて嫌い! とか言い出す日も来るのだろうか……?

 いや、ウチの可愛い桜花に限ってそんな事は……。


「良い――」

「――っ!?」


 それは、誰の声だったのか。

 ただ一つ間違いなく言える事は、その声が俺より遥かに歳を取った男性の声だったという事と俺たち……いや、下に展開している龍よりも遥か下から聞こえて来たという事だ。


「この距離でも聞こえる声とかどんなだよ……」


 大声だったわけではない。

 普通に発した声だったはずなのに、ここまで聞こえて来た声に冷や汗が止まらなくなる。


「通してやるが良い」


 再度聞こえたその声――それに従うように眼下の龍は左右に別れていく。


「降りてくるといい」


 その声に対してどうするか黒龍が顔をこちらに向けて聞いてくる。


「……行くしかないだろ」


 ここで逃げ出したとしても、後ろから龍に追われたりする可能性だってある。

 だったら、罠だったとしてもここは従うのがベストのはずだ。


 こうして、俺達は龍剣山の山頂へとたどり着いたのだった。

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