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邂逅

 目の前に立つ、俺と同じ顔の男は笑った。

 それに対して、俺はどんな顔をすればいいのかわからずに笑っているような、怒っているような、泣いているような……何とも曖昧な顔をする。

「見ただろ? アレが俺が歩んだ人生だ」

「見たさ……最低最悪な夢だ」

 頭上に未だ煌めく星空を見上げる。

 この星、一つ一つが様々な世界線の俺だと女神は語った。もしや、この全てが目の前の男と同じような人生を歩んでいるんじゃ……? と、そこまで考えて首を振るう。もし、そんな事があったのであれば俺は何かしらに呪われているとしか思えない。

「間違いじゃないさ」

 と、そこで目の前の男が俺に向かってどこか疲れたように微笑む。

 間違いじゃない、その言葉が俺の脳内をずっとループする。

「なに、が……」

「お前が今思った事だよ。ここにある様々なお前は全てが俺と同じかそれ以上に過酷な人生を歩んできた物ばかりだ」

「なんだよ、それ。俺は何かに呪われてるっていうのか……!?」

「そうだなぁ……そこら辺を話すには時間が少しばかり掛かるな」

 目の前の男は手を二回叩く。

 すると、どこからともなく二足歩行する黒猫が現れて俺と男の丁度中心に、これまたどこから取り出したのかテーブルと椅子、それとティーポットとマグカップを置いて消える。

「座れよ。さっきも言ったがちょっとばかし長話になる」

 そそくさと椅子に座ってティーポットを持った男が俺に微笑みかける。

 そのことに何とも言えない気持ちになりながらも俺も席に着く。

「さて……お前には前世があるって話は知っているか?」

 マグカップに紅茶を注いで自分と俺の前に置いた男が口を開く。

 この世界に来てから、紅茶と緑茶モドキしか飲んでないな……。

「ああ、この世界で【裏切者】って呼ばれてる男だろ?」

「そうだ。一ノ瀬 裕という男は全てその男から始まった。彼がお前が居る世界に召喚されず、普通の男性として生き抜いたならば、俺たちの人生はこんな物にはならなかった」

「どういう事だ?」

「……彼は、魔王を倒した。世界の因果にとって魔王を倒すという事はどれほどの意味を持つと思う?」

 因果とか言われてもパッとしない。

 俺は、そういう事には詳しくはないのだ。

 それが顔に出ていたのだろう。目の前に座る男は苦笑を浮かべてマグカップを持つ。

「魔王を倒した因果というのはとても大きな物だ。それこそ、多くの世界線で【魔王と同等の脅威】を排除するために世界の意志で一ノ瀬 裕という人物の人生を無理矢理に捻じ曲げるくらいには、な」

「――!?」

 つまり、この男はこう言いたいのだ。

 様々な世界線で一ノ瀬 裕という人物の人生がこんなにも残酷な物なのは、前世で魔王を倒したように様々な世界でも魔王を倒してほしいからだと。

「ふざけてる。前世は前世であって、生まれ変わっても魔王を倒せるとは限らない」

「そう考えるのが普通だが、因果とはそれを可能としてしまう程に協力なものなんだ……現に、俺は魔王とも呼べる程のヤツを追いつめた」

 目の前の男が口にした言葉に俺はどこか違和感を感じ、そして気づく。

 コイツは今、追いつめたと言った。

「待ってくれ。今までのお前の話が本当なら、お前は魔王を倒せたんじゃないのか?」

「……俺は……いや、俺だけじゃないな。この星々に座る一ノ瀬 裕は魔王を追いつめる所まで行った事はあるが倒せた者はいない……いや、それだけじゃないな。俺たちは前世から【魔王を倒せる】という因果以外にも厄介な物も受け継いでる」

「それは……?」

「俺たちは、大切な人を失う因果も受け継いでいる。一ノ瀬 裕にとって共通の大切な人――桜木 美咲をな」

 その言葉に俺は衝撃を受け、今まさに手に持とうとしていたマグカップを掴み損ねてしまう。

「お前の場合、まだ奪われただけで全てを奪われたわけではない……まぁ、それも時間の問題だろうがな」

 そう言って目の前の男は席を立つ。

 まるで、もう話す事は終わったと言わんばかりだ。

「ちょ、おい!」

 俺にはまだコイツに聞きたい事が山ほどある。

 どうすれば美咲を救えるのか、他に引き継いでいる因果はないのか、美咲は今どうなってるのか、どうしてお前は俺に力を貸してくれたのか。

「あぁ、そうだ……もし、お前がこれ以上、何も失いたくなくて尚且つ美咲を取り戻したいのであれば」

 こちらに顔を向けた男と目が合う。

 その目はパッと見は何も感じないが、よく見ればその奥底に薄っすらと小さな光が見える。


(アレは、希望?)


「――前世から続くこの物語を終わらせろ。それが、美咲を救い……俺たちを救う」 

 男はそう言ってそのまま消えてしまう。

「俺たちを救うって、どういう意味だよ……」

 最初と変わらず、俺を真上から照らしている星を見上げそっと呟くが答えが返ってくる事はなかった。

「パパ、お話、終わった?」

「桜花……? どうしてここに……いや、今はそんな事どうでもいいか」

 いつの間にか近くに来ていた桜花に疑問を抱きつつも、その疑問を破棄する。

「話は終わったよ。帰ろうか」

「んっ」

 美咲の頭を撫でてから手を繋ぐ。

 あれ? そういえば、ここからってどうやって出るんだ? 確か、前回は糸を掴んだら出たよな……出たいとか思えば出れたりするのか……?

「パパ、こっち」

 桜花が俺の手を引いて歩き出す。

 とりあえず、今は疲れたし、さっさと帰ろう……。

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