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 女神は星空が輝くその空間で一人、裕が先ほどまで立っていた場所を見つめていた。

「この空間は一体誰が……もしかして、彼自信がそういうスキルを……?」

 そこまで考えて、女神は首を振る。

 ユウのスキルを確認した時、そういったスキルを所持していない事は確認済みだ。

 ならば、この空間は一体誰が作りだし、この力は一体誰が用意したのだろうか?

 別次元と空間を少しとはいえ繋げる力など、神に匹敵するほどの力が無いと不可能な事だと言うのに……。

「コレは、少しだけ調べてみる必要がありそうですね。でも、とりあえずはユウさんの戦いを見守らないと」

 そう呟いて、女神は未だ疑問が残る空間からひっそりと姿を消した。

 星々は、何も言わずにその場で輝き続けていた。





 闘技場に居た人々は全員、安田の勝利を確信しそれぞれの感情を表に出していた。

 歓喜する者、ざまぁみろと裕を嘲笑う者、絶望に打ちひしがれる者、信じられずに呆然とする者、興味なさそうに鼻を鳴らす者……。

 故に、安田が裕の額に銃口を向けた後に銃声がした時、誰もが安田の勝利を疑わなかった。

「……ぇ?」

 最初に聞こえたのは、引き金をご満悦な顔で引いた安田の素っ頓狂な声だった。

 その声に引かれ、観客が闘技場内へと目を向けるとそこには信じられない光景があった。

「目覚めの一発にしては激しすぎだが……まぁ、お陰で目が覚めたよ」

「な、なんで……お前は動けないはずだろっ!?」

 安田は裕の急所を的確に撃ち抜き、指一つ動かせないほどにダメージを与えたという確信があった。事実、裕は先ほどまで声も出せないほどのダメージを受け死に体だった。

 だが、今はどうだろうか?

 祐はあろうことか右腕を振り上げ、安田が向けていた銃を上へと跳ね上げる事で眉間に当たるはずだった銃弾を頭上へと逸らしたのだ。

「どうもこうも、こうして動けてんだろーが」

 裕はどうでもいいような顔をして安田の問いに答える。

「くそっ……くそがぁ!!」

 跳ね上げられた右腕を引きながら左手に持った銃を突き出す安田に対し、ユウは一瞬だけその目を細めた後に左足を右足で蹴り上げ、その勢いのまま後方に一回転しながら起き上がる。

「くそ……クソッ!!」

 安田が両手に持った銃の引き金が引かれ、銃弾が裕へと殺到する。

 少しでも踏み込めば放たれた銃弾は誰の目から見ても裕へ当たるはずだったが、その考えは金属同士がぶつかる音が連続で響いた事で無くなった。

「……」

 いつの間に抜いたのか、裕は右手で桜花を抜き全ての銃弾を弾いたのだ。

「ふむ……身体に違和感はあるが、やれない程じゃねぇな」

 桜花を振り、正面に構える裕の目は真っ直ぐに安田へと向けられている。

 彼の目からは殺意も敵意も同情も何も感じず、それが逆に安田を震え上がらせる。

「だ、誰だよ、お前……一ノ瀬じゃねぇだろ!!」

 両手の銃を下ろさずに吠える安田。

 だが、その両手はガタガタと震えとても照準をきっちりと定められているような状態ではない。

「あん? 俺は一ノ瀬 裕だが?」

「う、嘘だ!! アイツはそんな事、出来るはずが……!」

 そう、安田の中にある一ノ瀬 裕とはこんな芸当が出来る人間ではなかった。パッと見でも戦ってみても簡単に倒せる相手であったはずだ。

 それが、今はどうだろうか?

 目の前に立っている一ノ瀬 裕を名乗る男は一体なんだと言うのだろうか。

「別に、どうでもいいだろ」

 本当にどうでもよさそうに言った裕は【紅く光る右目】を真っ直ぐと安田に向けて歩き出す。

「クソッ……! さっさと死ねよ!!」

 その内に広がる恐怖心を抑えるように引き金を引く安田。

 祐はそれを呆れたように見ながら、先ほどの光景が夢でも幻でもなかったかのように桜花で全て弾いていく。

 そして、そのまま一歩一歩地面を踏みしめて安田へと近づく。

 その間も安田はひたすらに銃弾を放って来るが、自分に当たるとわかっている銃弾だけを全て桜花で弾く。

「く、来るなぁッ!!」

 

 カチリッ


「ぇ……?」


 カチリカチリ


「弾切れか……お前のソレは確かUSPタクティカルだったかな。装弾数は12発だが、お前が撃った弾数からしてチャンバーに1発込めてあったんだろうな」

「な、何で知って……お、お前は銃とか全然興味なさそうだったじゃないか! 現に最初だって……!」

「ん、あー……俺は知ってるんだよ。生前に嫌という程見たしな」

 そう言って裕は無造作に桜花を振るう。

 すると、安田が両手に持っていた銃はトリガーガードより先を切り取られ地面へと落下する。

「あ……あぁ……」

 その場にへたり込む安田を細めで見つめた裕は、桜花を大きく振りかぶる。

(――やめろっ!!)

「――っ!? ちっ、ここでやらなくちゃ痛い目見るぞ」

(それでもいい……お前も俺なら、わかってくれ」

「……わかったよ」

 独り言を呟いた裕は安田を睨みつけた後に桜花を鞘に納めて、背中を向ける。

「……バカがっ!!」

 瞬間、安田が右手を突き出す。

 すると、右袖から小さな銃が飛び出し、その銃を掴む。

「バカはお前だ」

 祐は呟くのと同時に、右腕がブレた。


 ボトッ……


「あぇ……?」

 安田は右腕の方を見てから、地面に落ちた【自身の右腕】を見た。

「あ……あぁぁぁぁぁぁぁぁああぁぁ!?」

「スリーブガンか。まさか、右腕にも仕込んでたとはな……」

 桜花を肩に担いで呆れたように呟く裕だったが、安田はそんな事を気にしていないように地面に落ちてその場に赤い水たまりを着々と作っている自分の右腕をあわあわと見ている。

「あ、もういいわ。【開け】」

 祐が呟くのと同時に、今まで一滴も血を流していなかった安田の右肘から噴水のように血が噴き出す。

「ぎゃあああああああ!!」

 そのまま地面をのたうち回る安田を見て、今度こそ終わりかといった風に桜花を鞘に納めようとした裕だったが、そこで何かを思い出したかのように桜花を構え直す。

「そういや、どっちかが死ぬかギブアップするまで終わらないんだっけ?」

 どこか獰猛な笑みを浮かべて見下ろしてくる裕に対して、安田は左手を突き出す。

「こ、降参だ! 俺の負けでいいからっ!!」

「そうか……あぁ、でもお前の銃とかに関しての知識は広まると困るんだ。だから、封じさせてもらうぞ」

 桜花の剣先で安田の頬を少しだけ斬った裕は満足そうに微笑む。

「勝者、一ノ瀬 裕!!」

 それと同時に、メリアの声が闘技場に響く。

「契約は果たしたぞ」

 祐は桜花を軽く振って付着した血を払うと、そう呟いて鞘へと納めるのだった。

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