彼女と彼
凍華のサプライズにまんまと引っかかった事を今更ながらに誤魔化すために咳払いをし、俺は立ち上がって刀となった凍華を見つめる。
パッと見た感じは、普通の日本刀と一緒だが柄に付いている赤い糸に繋がれた鈴がワンポイントとなっている。
「ん……?」
刀身をよく見てみると、薄く青みがかっている。
『あ、あの……そんなに見つめられると恥ずかしいです……』
「おっと、悪い。本物の日本刀を見たのが初めてだったからつい。それに、とても綺麗だったからさ」
『き、綺麗……。そ、その、ありがとうございますっ』
素直な感想を告げると、凍華は少し声を上擦らせてお礼を言ってくる。
「それにしても、凍華が魔刀だったとはなぁ……てか、さっき言ってた感じだと、凍華は『裏切者』が使っていた四振りのうちの一振りだったのか?」
『そうですね。と言っても、あの中では私が一番最後だったんですけどね』
「そうだったのか……」
『あっ!』
「ん、どうした?」
『そういえば、まだこの土地と封印塔について説明の途中でしたね』
あぁ~、そう言えばそうだったかもしれない。
でも、この土地については大体察しがついたんだよな。
「土地に関しては、その裏切者と勇者が最後に戦った地って感じじゃないのか?」
俺の考えを凍華に伝える。
先程までの話を踏まえて考えると、大体合ってるはずだ。
『そうですね。付け加えるのであれば、最後の勇者と戦った場所でしょうか』
「最後の勇者……?」
え? 勇者ってそんなに大勢いるものなの?
普通、こういうのって一人だけ勇者で他はチート能力を持ってる一般人って感じじゃないの?
『えっと、勇者っていうのは武器種ごとに存在しているんです。と言っても全ての武器に存在しているわけではなく、剣・槍・杖・弓・盾・籠手の6個の武器に存在していますね』
「6人もいるのか……」
『そして、この地は最後の勇者……剣の勇者と裏切者が戦った場所なんです』
「へぇ……」
『それはもう、大きな戦いだったんですよ? 人間側が投入した戦力は歩兵だけで数百万を超えていましたし』
それ、もう人間側の大半を投入していたんじゃないか?
『ちなみに、裏切者はそのうちの約三割を殲滅したと言われていますね』
三割!?
それ、もう裏切者も人間を辞めてるレベルで強かったって事じゃないか!
「裏切者は、凄く強かったんだな……」
『そうですね。確かに強かったかもしれませんね』
「まぁ、土地についてはわかったよ。じゃあ、この塔は何なんだ?」
この土地――悪夢の森についてはわかった。
確かに、人間側が投入した戦力のうち三割も殺されたんじゃ悪夢と言っても過言ではない。
『ここは、私を封印するために建てられた塔なんです』
「封印……?」
『はい。裏切者が亡き後、私はここに封印されました。まぁ、封印と言ってもこの塔から出る事が出来ないような術式が組み込まれているだけで、この塔内なら好き勝手に移動できるんですけどね』
「ちょっと待ってくれ。裏切り者が亡き後って、裏切者はこの地で死んだのか? それとも、死んだあとに誰かが凍華を持ってきてここに封印したのか?」
『私を持って来るというのは、一般的には無理ですね。私達……最高位の魔武具は自分が認めた所有者以外には決して触れさせないので』
「……ち、ちなみに、認められてないのに触れたらどうなるんだ?」
『その魔武具によると思いますけど、私だったら腕を斬り落しますね』
こえええええ!!!
てか、あぶねぇ! ちょっとカッコいいから持ってみようかな? とか思ってたわ!!
「そ、そうか……てか、やっぱり裏切り者はこの地で死んだのか。やっぱり、勇者にやられて?」
『正確には、連戦と勇者との戦いで負った負傷によってですね。勇者はキチンと倒しましたよ?』
勇者を倒すとか、どんだけ化け物だったんだよ。
まぁ、でも負傷で死ぬって事は一応は人間だったって事か。
「ありがとう、凍華。おかげでここがどういう場所なのかがわかったよ」
『お役に立てたようで何よりです。ところで兄さん……』
凍華はモジモジした感じで俺を呼ぶ。
てか、何で俺のことを兄さんと呼ぶんだ?
『一つ、お願いがあるのですが……』
「お願い? まぁ、色々教えてもらったし俺に出来る事なら聞くよ」
『で、では……その、私を握っては貰えませんか?』
「うん、ごめん、それは無理」
凍華の願いを即答で断る。
だって、腕が斬り落とされるんだぞ!?
普通、誰だって持ちたくないだろ!!
『そ、そんなぁ……』
本気で悲しそうな声を上げる凍華。
凄く罪悪感を抱くけど、それでも腕を斬り落とされるのは嫌だ。
「流石に、片腕を無くすのは辛い。てか、何よりも死ぬほど痛そうだ」
『あ、その事なら大丈夫ですよ。私と兄さんの仲ですし!』
「それ、理由になってないし……てか、何で俺のことを兄さんって呼ぶんだよ」
『そ、それはその……』
「あー、いや、言いたくないなら別にいいよ」
言いにくそうにしている凍華に対して無理に聞く気にもならず、俺は話を戻す事にした。
「それで、握ればいいんだっけ?」
『はい。腕は斬り落される事はないので……』
まぁ、腕が無くならないなら、握ってみてもいいかもしれない。
てか、正直本物の日本刀ってやつを持ってみたいし。
「それじゃあ……」
右腕を伸ばして、凍華の柄を握る。
「――っ!!」
瞬間、俺の視界は真っ白に染まった。