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後悔と感情

 開始の合図と共に出来るだけ右手でソードブレイカーを抜き、胸の前に持って来るのと同時に体験した事のない衝撃が右腕に走る。

 それと同時にソードブレイカーは何かに押されるように俺の胸に辺り、そのまま俺を後ろへと押し出す。

「ぐっ……!?」

 身体全体でも吸収しきれなかった衝撃で俺の身体は背後へと傾向する。

 完全に尻もちをつく態勢だったのにも関わらず、俺の身体は嫌な予感を感じ取ってほぼ自動的に右足に力を入れ、そのまま思い切り左へと飛んだ。

 無様に闘技場を転がるのと同時に、何かが先ほどまで俺が居た場所に落ちる音がする。

 急いで体を起こしてそちらを見ると、俺が先ほどまで居た場所の土を小さい何かが抉っていた。

「あーあ、一瞬でケリをつけるつもりだったのになぁ」

 安田の声に反応してそちらを見てみると、安田の右手には黒く鈍く光る物が握られていた。しかもご丁寧に先端に何か筒状の物が付いている。

 そういう物には余り詳しくない俺でも、その手に握られた物が一体何でそれがどれだけこの異世界で異質な物かは理解できる。

「銃……」

 安田が右手に握ってこちらに向けていた物は、この世界では存在しないはずの自動拳銃。先端に取り付けてある筒は消音器だろう。

 もしかしたら、俺の思い込み違いでこの世界には銃という武器が普通に存在しているのかもしれない。

(異世界には《現代兵器は存在しない》という固定概念だったかな)

 もし、そうだとしたら……この考え方は異世界で生き抜く上で命取りになるかもしれない。

「おっと、勘違いしてそうだな? この世界には銃なんて存在してないよ?」

「……どういうことだ?」

 安田の言葉に思わず聞き返してしまう。

 戦闘中に自分の手を説明するヤツなんて居ないはずなのに思わず聞いてしまった自分のバカさ苦笑していると、安田はよくぞ聞いてくれましたと言わんばかりに両腕を広げる。

「コレは僕の【スキル:創造】で作ったんだよ。このスキルは、外見・仕組み・大まかな部品がわかっていて、尚且つ素材があれば作る事が出来るスキルなんだ! どう? 凄いスキルでしょ?」

 コイツ、俺以上のバカなんじゃないか? 普通、自分の手の内を相手に教えるか?

 だがまぁ、お陰で安田のスキルを知る事が出来たからいいか。

「そりゃ……本当にヤバいスキルだな」

 その考えで行くと、安田は知っている現代兵器を作り放題という事になる。

 姿勢を正しつつも冷や汗が背中を伝う。相手は遠距離攻撃の手段を持っているが、俺は近接武器しか持っていない。

 安田を殺すにしても無力化するにしても、どうにか近づくしかないのだ。

「ふぅ……」

 軽く息を吐いて、気持ちを落ち着かせる。

 大丈夫、安田のステータスはわからないが……やって出来ない事はないはずだ。

(安田は右手に銃を持っていて左手はフリーだ。つまり、左回りに走れば……!)

 左足を少し引いて、力を入れ、身体を前に押し出す。

 そのまま若干左へとズレながら安田へと向かって走ると、安田は一歩も動かずに拳銃を俺へと向けてくる。

(……来るっ!)

 安田が引き金を引くと思われるタイミングで大きく左へとずれる。

 それと同時に耳元をヒュンッと何かが通り抜ける音がするが無視して更に安田の左側へと向かって走り続ける。

 ステータスによって強化された事で現実世界よりも走る事が出来た俺は、すぐに安田を間合いへと捉える事に成功し、そのままの勢いでナイフを構える。

(左腕をちょっと切ってやれば、安田は戦意を喪失するはず――!)

 ナイフを握りしめ、集中すると世界はゆっくりと動き出す。

 ゆっくりと動く世界に一瞬だけ戸惑うが、足はそのまま地面を踏みしめ安田へと向かって行く。

「やす……安田ぁ!!」

 右腕を軽く振りかぶって安田の左腕を斬りつけようと振るう。

 チラリと視界の端に映った安田の右手は完全にこちらに間に合っておらず、俺が斬りつけるよりも早く銃口がこちらに向く事はないだろう。


 そう、俺が勝ちを確信した時――俺の視界はニヤリと三日月のように吊り上がる安田の口元を捉えた。


 パパンッ! という軽い音が俺の耳に木霊する。

「ぁ……?」

 一瞬で身体から力が抜けたかと思うと、俺の視界が一瞬で安田から天井へと向けられる。

「ふ、ふは……あははははっ!!」

 安田の高笑いが聞こえる中、後頭部と背中がじんわりと痛む事で何かしらの理由で俺が倒れた事に気づく。

 痛みがドンドン大きくなる腹部にナイフを手放した右手で触ると、しっとりと生暖かい液体に触れる。

(……これは、血か。俺は……撃たれたのか)

 そう理解した所で視界に安田が写る。

「左側なら無防備だと思った? 残念、ちゃんと対策してあるんだよなぁ!」

 俺にも見えるように左手に持った拳銃をチラつけせながら、自慢げに言ってくる。

「まぁ、コレは一種の隠し玉で勇者相手に使う予定だったんだけど……お前をここで消せるならいいか」

 銃口を俺に向け、ニヤリと笑う安田。

「お前をここで殺して、佐々木さんは僕の物になる……その後、勇者を始末するんだ……ぼ、僕よりも優秀なんて……ありえないんだから!」

「がっ……はっ……」

 何か言ってやろうと思って声を出そうとするが、血が上ってきて上手く喋れない。

「じゃあ……勇者よりも先に死ね」

(まだ、美咲を助けられてない……まだ、何も出来ていない……)

 死にたくないという感情が俺を支配し、どうにかしようとするが身体は動かない。

 そうこうしている内に、安田の指は引き金を引き――


 ――銃声と共に、俺は意識を失った。

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