決闘開始
お久しぶりです。
何かとリアルが忙しく、中々筆を進める事が出来ず更新が遅れてしまい申し訳ございません。
これからは、元通りのペースで更新して行けると思いますのでよろしくお願いします。
女神は庭園で椅子に座り、丸テーブルに置かれた小さな鏡を見つめていた。
膝の上に一冊の厚さ・大きさ共にノートサイズの本。その上に両手を重ね、ジッと鏡を見つめるその瞳はどこか悲し気な色が浮かんでいるようにも見える。
そこへ、一尾のタキシードを着こみ、片目にモノクルを付けたウサギがやってくる。
「そう……」
数秒そのウサギと見つめ合った後、女神は小さくそう呟き目を伏せる。
女神が見ていた鏡には、闘技場に入場した一ノ瀬 祐が試合開始を待つ姿が写っていた。
闘技場に入ってまず目に着いたのはいつの間に来たのかわからない多くの人だった。
その服装は皆バラバラであり、豪華な服から鎧まで様々だったが一つだけ共通している事があった。
(俺を睨んでいるのか)
観客は一部のクラスメイトを除いてほぼ全員が俺をまるで親の仇を見るかのような目で見ているのだ。時には堂々と指をさしてバカにしたような笑みを浮かべるヤツもいる。
ただ、その行動は理解できる。
俺は彼らにとっては異世界から召喚された【世界を救う存在】ではなく【魔王に協力した異世界人の仲間】という認識だからだ。
故に、その視線や行動は気にしない。
気にして、喚いて、改善を要求した所でそれは観客を喜ばせるスパイスにしかならず、逆に俺自身のモチベーションに悪影響を及ぼすからだ。
「逃げなかった事だけ、褒めてあげるよ」
試合開始の合図を待っていると、目の前でこちらに向けて嘲笑を放ってきていた安田が表情そのままにそんな事を言って来る。
おい、ソレはラノベとかでやられるヤツがよく言うセリフだぞ。
「……チッ」
俺が何も言わなかったからか、安田はその表情を歪めて俺にも聞こえるようにわざと大きく舌打ちをする。
これから始まるのはほぼ殺し合いだと言うのに、安田は随分と余裕がありそうに見える。いや、実際に余裕があるのだろう。コイツは俺に負けるなどとは一切考えて居ない。
(……武器が見当たらないな)
俺は、無意識に安田の武器を把握しようとしていた。
きっと【スキル:刀剣術】に蓄積された経験からほぼ無意識にやった事だろうとは思いつつも、安田が何も武器を所持している感じがしない事に対する違和感は拭い去れない。
(仕込み武器……服の下とかに仕込んでいるのか?)
それならば、外見を見た所で相手の武器を把握する事は出来ない。
だが、それならばそれなりに特徴が出るはずだと俺の中で【スキル:刀剣術】が囁く。
服の下などに武器を仕込んでいるならば、それがどれだけ小さな針であろうと服に不自然な盛り上がりなどが出来るはず。
そう思い直して再度安田の姿を観察するも、どこにも不自然な場所はない。
はて、と俺が内心で首を傾げている所にエーヌ姫のメイド――確か、メリアとかいう名前だったはずだ――が俺と安田の丁度中心に歩いてくる。
「只今より、決闘を始めます。ルールは先ほどお話した通りです」
わかっていますね? と、目で訴えて来るメリアに対し俺は頷き、安田は元気に返事をする。
お前、どんだけ俺を消し去りたいんだよ……。
「観客席の方には試合開始と共に強固な結界を張りますので、存分に力を発揮してください」
そう言ってからメリアは数歩後ろに下がり、俺と安田から距離を取ってから右手を高らかに上げる。
「では……始めっ!」
メリアの言葉と同時にその右手が振り下ろされ、俺と安田の決闘は始まった。




