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トラブルは向こうからやってくる

 君の事を愛している……君の事を誰よりも理解しているのは【僕】で、君の事を幸せに出来るのも【僕】で、君が誰よりも愛しているのは【僕】だ……

 だから、あんな男なんかになびくわけがない。

 きっと、アイツに何かやられたに決まってる……そうだ、僕が救ってあげなきゃ……




「結構、疲れたね……」

 城下町での買い物を済ませた俺たちは、王城へと戻ってきて一息ついていた。

「まぁ、そこそこの距離を歩いたしな……てか、何で病室でお茶を飲んでるんだ?」

「だって、一ノ瀬君は食堂とかに行きたくないでしょ? あそこ、みんな居るし」

 そう言われると何も言えなくなり、俺は目を逸らしながら緑茶を啜る。緑茶を入れている湯呑も念じたら出て来た。

「でも、お茶請けがないとちょっと味気ないね。私、食堂で何か貰ってくるよ」

「あ、なら俺も行くよ」

 持っていた湯呑を置いて、俺も席を立つ。

 流石に、そこまでしてもらうのは申し訳ないしな……

「え、でも……」

「大丈夫、貰ってすぐに帰ってくるだけだろ」

 俺と佐々木が歩き出すと、桜花もトテトテと着いてくる。基本、俺がどこかに行くときは桜花もこうやって着いてくる。

「そういえば、食堂ってどこにあるんだ?」

「一回の端だよ。結構大きくて色んな食べ物があるんだ~」

 色んな食べ物があるのか……流石に、日本食とかはないだろうけど桜花も年頃だし何か甘い物とかあったらいいな。

「っと、着いたよ」

「ん……」

 気づけば、俺たちは食堂の入り口に立っていた。

 中からは賑やかすぎる程に色々な人の声が聞こえてくる。耳を澄ませば、クラスメイトの声も所々から聞こえてくる。

「……やっぱり、ここで待っててくれて大丈夫だよ?」

「いや、行くよ。大丈夫だ」

 いつの間にか握りしめていた手のひらを開いて、深呼吸を一回する。大丈夫、何を言われてもスルーする事が出来る……過剰に反応しなければ、大事にはならないはずだ。

 先に入って行く佐々木に続いて俺も入ると、先ほどまで賑やかだった食堂が一気に静まり返る。それに一瞬だけ気圧されるが、すぐに気を取り直してカウンターへと進む。

 カウンターに置かれたメニュー表を見るが、何が書いてあるのかさっぱりだ。

 とりあえず、適当にお菓子を貰おうかと思って口を開くのと同時に背後から左肩を掴まれる。

 振り返ると、そこには見知った顔ではないが教室で何度か見たことがある顔の男が立っていた。名前は……なんだったかな?

「や、安田くん。どうしたの?」

 隣に立っていた佐々木が声を上げる事で、名前を思い出す。

 そうだ、コイツの名前は安田やすだ 智成ともなりだ。いつも教室の隅っこでニヤニヤしてるようなヤツだった気がする。

「お、お前……一ノ瀬だよな?」

「……そうだけど?」

「な、何で……何でお前が僕の佐々木さんと一緒に居るんだよ……!」

 ん? コイツは何を言ってるんだ……?

 てか、佐々木と安田は付き合ってたのか?

「……」

 目で佐々木に問い掛けると、首を振って否定される。どうやら、安田は関わっちゃヤバいタイプの人間みたいだな。

「別に、お前には関係ないだろ」

 肩に置いてあった手を払いのけてそう言うと、安田は顔を真っ赤にして俺の胸倉を掴んでくる。

 チッ、めんどくさいヤツだな……

「なになに? 喧嘩?」

「おい、アイツって……」

「なんだなんだ??」

 そうこうしているウチに、野次馬もどんどん集まってくる。

 中には、俺の存在に気づいて何やらひそひそと喋りはじめるヤツまで出始めて来た。

「そうだ……お前、僕と決闘しろ!」

「は? 決闘?」

 安田はニヤリと笑った後にそんな事を言って来る。

 いきなり決闘とか何を言い始めるんだ。そもそも、ソレ俺に何か利点があるのか?

「そうだ。佐々木さんを賭けて僕と全力で戦うんだ!」

「話にならないな。そんなに佐々木が好きなら、当人で話をすればいいだろ。俺と佐々木は別に何か特別な関係ってわけでもないから、そんな事に巻き込まないでくれ」

 早くこの場から去りたいという一心で言った一言だったが、安田はそれが気に入らなかったのか胸倉を掴む力が強くなり、親の仇を見るような目で俺を睨みつけてくる。

 ったく、どうすりゃいいんだよ……俺は、決闘なんて良くも悪くも人目に付く事はやりたくないんだよ。自分がどういう風に見られてるかくらいは自覚してるしな。

「あら、いいじゃないですか」

 と、俺と安田が睨み合っているところに女性の声が聞こえてくる。

 入口に目を向けると、やけに派手な真っ赤なドレスを着こんだ女性が従者と思わしきメイドを一人連れて経っていた。

 口元は右手に持ったこれまた派手な真っ赤な扇子で隠している。

「……エーヌ姫」

 誰だろうと思っていると、傍で佐々木が呟く。

「知ってるのか?」

「シエル姫のお姉様だよ」

 なるほど。言われてみれば、顔つきが若干似てる気がしなくもない。ただ、シエル姫とは真反対な雰囲気をしているな。

「決闘、いいじゃないですか。場所は手配しますから存分に勇者の力を見せつけなさい」

 余計な事を……

 この国の姫様が言った事とあっては、俺も迂闊に断る事は出来ない。ここで変な事を言ったら最悪、殺されるかもしれないし。

「ありがとうございますっ!」

 ゲッソリする俺とは反対に安田は胸倉から手を離し、満面の笑みを浮かべてエーヌ姫に頭を下げる。

「……」

 と、そこでエーヌ姫と目が合う。俺も表面上は笑顔を浮かべてお礼を言った方がいいんだろうか?

「ふん、野良犬が……」

「……」

 エーヌ姫が小声で呟いた言葉は、何故か俺の耳に届いた。

 野良犬、ね……まぁ、美咲と俺の関係はクラスメイトから聞いてるだろうし、美咲を飼い主としたらそれを失った俺は野良犬なのかもしれない。

 結構、上手い事言うじゃねぇか……

「では、場所をすぐに用意させますわ。メリア」

「はい。既に第3演習場を手配してあります」

「結構。では、移動しましょうか」

 メリアと呼ばれたメイドの言葉を聞いたエーヌ姫は満足そうに頷いてから、こちらに背を向けて歩き出す。

 最初から、この展開が想定されていたかのような素早さだな。いや、もしかしたら仕掛けられていたのかもしれないな?

「一ノ瀬君、大丈夫なの?」

 そっと、佐々木が耳打ちしてくる。普通に聞いて来ればいいだろ……お前がそんな事をするから、安田の目に籠った殺気が数段跳ね上がったじゃないか。

「どうにかなるだろ。てか、コレは佐々木も無関係じゃないんだからな?」

「ぅっ……その、ごめん」

 ここで変に言い訳をしない辺りが佐々木の良い所だろうか。

「パパ、いっしょにたたかう」

「桜花……いやまぁ、多分、模擬剣とか使うからその必要はないと思うんだけど」

「やっ!」

 首を振って嫌がる桜花。

 魔刀としての本質なのか、戦場に着いてきたがる傾向があるな。

「はぁ……わかったよ。でも、使わなかったからと言って不貞腐れないでくれよ?」

 桜花の頭を撫でながら、俺は苦笑するのだった。

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