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過去の記録

 ニコニコと笑いながら、ティーポットからいつの間にか空になっていた俺と佐々木のカップに紅茶モドキ(味は紅茶だが風味が珈琲)を注ぎながらシエル姫は口を開く。

「そうですね~。文献が残っていない所などもありますから、私が知っている部分でご説明をしますね」

「ああ、頼む」

 紅茶もどきは正直、あんまり好きではないが……出してもらった以上、飲まないわけにはいかずに手に持つ。

 佐々木はよくこんなものを飲めるなと横目で見てみれば、角砂糖を三個投入していた。なるほど、あそこまで甘くすればもう味とか風味などは無いような物だろう……。

「まず、物語の始まりは、数千年前にとある王国で召喚の儀が行われた所から始まります。召喚した理由としては、私達と同じで魔王の脅威に対抗するためだったと記されていますね」

「ふむ……」

「その時に召喚された人数は42人でした。男女の正確な比率は記されていないのでわかりません。そして、その中に【魔王の嫁】の称号を持った、青井あおい さくらと後に【裏切者】と呼ばれ恐れられた谷上やがみ じゅんが居ました。二人は、とても幼い頃からの知り合い……つまり、幼馴染だったらしいですよ?」

 幼馴染という単語に、俺の心臓がドクンと一回だけ大きく脈打つ。

 この単語に、何かあるのだろうか? 一応、頭の隅に書き留めておこう。

「ヤガミ ジュンは、レアスキルである刀剣術を持っていました。そして、召喚された国にはとても強力な力を持った魔刀が保管されていたため、ヤガミ ジュンは勇者ではないにも関わらずに勇者に匹敵する程の力を最初から有していました」

「王都に保存されていた魔刀っていうのは?」

 美咲を救い出すためには力がいる。

 俺自身の力もそうだが、それと同じくらいに強力な武具というのは必要不可欠なのだ。だから、新たな力を手に入れるためにシエル姫にその魔刀について聞いてみた。

「ユウさんが何を期待しているかは薄っすらとわかりますけど……保存されていた魔刀はソレです」

 そう言ってシエル姫が指を指したのは、俺がテーブルに立てかけるようにして置いてある凍華だった。

 凍華は最初から俺を知っている風だった。それを『前世の俺が使ってた』くらいのレベルに考えて居たが、どうやら俺と凍華の関係はそれ以上に強いみたいだ。

「そうか……」

「魔刀である凍華は、魔刀の中でも上位に位置するほどに強力な武器でしたが刀剣術のスキルを持っていないと振るうことは出来ても【使いこなす】事はできません。それに加えて、凍華は所有者を選んだとも言われています。もし、選ばれていない者がその手に持とうとすれば、一瞬で腕が飛んだという話もありましたね」

 あながち、それが間違いではない事に俺は苦笑を浮かべるしかない。

 この世界に召喚された時はそんな事を知らずに凍華を掴んだが、もし知っていたとしたら絶対にやらなかっただろう。

「さて、ここからは少しだけ時間が飛びます。ヤガミ ジュンは着々と力を付けて、最終的には魔王軍との前線で戦っていた記録が残っています」

 そこまで話して、シエル姫は上品な手つきで紅茶モドキを口につける。

 結構話したから、喉が渇いたのだろう。てか、よくもまぁアレをすまし顔で飲めるものだ。

「……ヤガミ ジュンが前線で戦っている間に、とある事件が起こりました。それは、魔王による王都への襲撃です。理由は、わかりますよね?」

「……【魔王の嫁】の称号を持つ桜さんを奪いに来たのか」

「その通りです。その報を受けたヤガミ ジュンは王都に帰還しましたが、その時にはもうアオイ サクラは魔王に奪われた後でした。それを知ったヤガミ ジュンは逆上して同郷の者に斬りかかったと記されており、その後は王都を出て詳しい行方は不明だったみたいですね」

 逆上して、クラスメイトに斬りかかった……か。

 その話を聞いた俺は前世の記憶を持っているからかわからないが、それは間違いだと確信していた。

 詳しくはわからないが、きっと何かあったのだろう。

「詳しい行方がわからないって事は、ここで終わりか?」

「いえ……その後のヤガミ ジュンは様々な文献に薄っすらと登場しています。黒龍を一人で倒したり、帝国を滅ぼしかけたり……」

「……」

 シエル姫の言葉を聞いて俺は言葉を失ってしまう。

 いやね? 龍を倒す! とかはライトノベルとかが好きな男性なら誰しもが夢見る事だろう。だが、一人でそれを成し遂げたり、国を相手に戦ったりとか一体俺の前世は何をしてるんだ!?

 そりゃ、恐れられて人類共通の敵レベルになりますよ!

「ハッキリとヤガミ ジュンが表舞台に再度登場するのは、それから二年後です」

「二年後? 何かあったのか?」

「はい。ヤガミ ジュンが【裏切者】と呼ばれる事になった事件……彼は、魔王討伐のために集結していた槍の勇者含む連盟軍を襲撃し、それを壊滅させました。そこから、どんどん召喚者や勇者を殺害して行き、最後は剣の勇者と悪夢の森で対決し、相打ちになったらしいです」

「どうして……勇者と召喚者を狙ったんだ……?」

「それについては、諸説ありますね。復讐とか気が狂っていたとか……大切な人を守りたかったとか」

 大切な人……きっと、桜さんの事だろう。

 ん、そういえば……桜さんも【魔王の嫁】だったならば武器になっていたはずだ。

 純はソレを使わなかったのか……?

「なぁ、シエル姫。純は桜を使わなかったのか?」

「ただの一度も使った事がないと言われていますね。コレも魔王の武器だったから使えなかったなど色々言われていますが、私は……『愛する人を武器ではなく人として扱いたかった』という説を押しますね。そっちの方が素敵です」

 そう言って微笑むシエル姫。

 それを見て、俺もそうだといいなと心の中で思うのだった。

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