【閑話】平穏をここに
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魔王を倒した俺は、そのまま桜の元へと歩き出す。
桜は、魔王が居た大広間に備え付けられた椅子に座って居た。
「桜……」
俺は、ここまで来たんだと。君を救うためだけに成し遂げたのだと。そう伝えるためにゆっくりと手を桜に手を伸ばす。
「……貴方が、新しい私の所有者?」
「――っ!!」
そんな俺に向けられた言葉は、俺の期待を裏切るには十分すぎる程の力を持っていた。
よく見れば桜の目はハイライトが消え、全てを諦めたような表情をしていた。
「凍華……コレは、どういう事だ……?」
今の桜には、召喚される前に見せていたような明るい姿はどこにもない。あるのは、桜の形をした抜け殻だけだ。
《……魂を抜かれ掛けています。恐らく、魔王が武器として扱うために排除したのかと……》
「――っ!」
凍華の言葉を聞いて、頭にカァッと血がのぼるのを感じた。それと同時に全身が力み、凍華を掴む力も強くなる。
「……ねぇ」
そんな俺に、目の前の桜が声を掛けてくる。
視線を向けると、桜はそっとその右手を俺に差し出してくる。
「握って?」
「……」
そう言われ、俺も左手を差し出そうとして――
「私、もっと上手に敵を斬るから」
――その言葉で、腕が止まった。
理解してしまったのだ。桜が俺に手を握って欲しいのは、温もりを感じたいとかそういう人間らしい感情から来ている物ではないという事に。
凍華と同じ――謂わば【武器】として【所有者】を求めているにすぎないのだ。
故に、この桜の手を取ってしまえば、俺は桜を自分の【武器】として使わざる負えなくなるだろう。
「……出来ない」
出来るはずがない。
記憶が無くてもわかる。俺にとって、桜という人間は決して武器として扱っていいような人間ではない。
「出来るはずが、ない……!」
俺は、【武器としての桜】ではなく【人間としての桜】を取り戻すためにここまで戦ってきたのだ。
決して、自分が強くなるために魔王を倒したわけではない。
決して、最強になりたいからあの死地を潜り抜けて力を付けて来たわけではない。
「くそ……っ」
悔しかった。
俺が今までやってきた事、俺が今まで目指してきた事全てが否定されたような気がして。
腹が立った。
この世界の理不尽に対して。
「くそ……くそっ……!!」
全身に入っていた力が抜け、右手から凍華が零れ落ちて床へと落ちる。
カランという凍華が床に落ちた音と共に、俺はその場で両膝を付いて項垂れた。
「なんで……っ! なんでこんな……!!」
涙が溢れて止まらなかった。
もしかしたら、俺が間違っていたのかもしれない。
周りの人間と同じように、桜を放置しておけばこんな苦しみを背負う事もなかったのかもしれない。
「……」
そこまで考えた時、ふわりと優しい温もりが俺を包んだ。
「ぇ……?」
顔を上げれば、桜が椅子から俺に倒れ込むようにこちらに崩れ落ちてきて俺を抱きしめていた。
「すいません……でも、何となくこうしたかったんです……嫌でしたか?」
「……っ!」
首を振るうしか出来なかった。
声は出せない。今、出したら間違いなく嗚咽が出てしまうから。
「では……もう少しだけ、このままで」
桜が腕に力を籠める。
それが、酷く愛おしく感じた。
それと同時に俺は確信した。桜の人間らしい感情はまだ全て失われているわけではない。きっと、何かしらの方法で戻す事だって出来るはずだ。
だから、泣くのは今を最後にしよう。
次、目を開けた時は桜を元に戻す方法を探す事を心に誓い、今はただ温もりに身を任せて俺は目を閉じた。
アレから、二か月が経った。
あの後目が覚めた俺がまず最初に行った事は、魔王城の制圧だった。
魔王という絶対王者を失って混乱していた連中を片っ端から皆殺しにしたのだ。
桜は大広間に置いていこうと思っていたのだが、どれだけ言い聞かせても『自分は貴方の武器だから』という理由で俺に付いて来た。
その言葉を聞くだけで、俺は心を締め付けられる想いをしたので、五回やり取りをした後は好きにさせる事にしたのだ。
「純くん」
「桜か……どうした?」
「お昼ごはん、何が食べたい?」
「桜が作ってくれた物なら、何でもいいよ」
「ん~……それが一番困るんだけどなぁ」
桜は苦笑いを浮かべながら、俺が居た部屋から出ていく。
制圧後、図書館で見つけたり拷問して手に入れた情報を全て使って桜の感情を戻す事に成功した。
勿論、それ相応の代償――主に俺の記憶だが――を支払う事になったが、別に後悔はない。
こうして、柄の間の幸せを手に入れる事が出来たのだから。
「だが、いつまで続くか……」
俺の使い魔で手に入れた情報だが、勇者共がここを攻め落とそうと準備を進めているらしい。
魔王が既にいないという情報も噂レベルで広まってはいるが、きっとこの総攻撃を止める事態にはならないだろう。
ならば、俺が取れる方法としては、桜との平穏を守るために勇者と本格的に敵対するしかない。
「……」
きっと、勇者との対決になったとしても……俺は、桜を武器として扱う事はないだろう。
これからも、これから先も……永遠に。
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