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守り通した結果

遅くなってしまい、申し訳ございません。

 未だ止まらない涙を隠すために、凍華を鞘に戻して左脇に挟み空いた右手で顔を隠す。

「なぁ……佐々木、俺と美咲はどういった関係だったんだっけ……」

 俺の言葉に一瞬だけ怪訝そうな顔をした佐々木だったが、俺の言葉に何か意図があると思ったのか、口を開く。

「そんなの……【――】に決まってるよ」

「えっ……? すまない、もう一回言ってくれ」

「だから、【――】だよ」

 聞こえない。

 佐々木が口にした【俺と美咲の関係】の所だけがミュートにされてしまったかのように、俺の耳にはその言葉が届かない。

 これで、確定した。俺が失った記憶とは、【美咲との関係】だ。

 一見、どうでも良さそうな記憶だが、俺の身体が反応して涙を流すという事はきっと俺にとってかけがえのない、とても大切な記憶だったのだろう。

「そうか……」

「どうしたの? いきなり」

「いや……ちょっと、気になっただけだ」

 大丈夫だと、自分に言い聞かせる。

 きっと、失ってしまった記憶だって取り戻す方法が存在しているはずだ。

「よし……」

 ようやく止まった涙を全て拭い去り、俺は凍華を杖代わりにして再度歩き出す。

「「……」」

 佐々木と桜花は顔を少しだけ見合わせて、俺の後を付いてきてくれた。



 しばらく歩くと、壁にポッカリと穴が空いているのを見つけた。

「そういえば……ここに突っ込んできた……佐藤、だっけ? アイツは大丈夫なのか?」

 俺が戦場に出る決定打になった杖の勇者である佐藤の事を完全に忘れていた。

「あ、うん。麻耶ちゃんは私達が王城に帰還した時にはシスターに治してもらったらしくピンピンしてたよ」

 なるほど。

 杖の勇者なら【協会】が癒すのも納得だ。

「一ノ瀬君、やっぱり部屋に戻らない?」

「何でだ?」

「それは……その……」

 俺が理由を問うと、佐々木は言いづらそうに視線を逸らした。

 この先に、俺に知られてはいけない事があるのだろうか?

「ほんと、災難だったよなぁ……」

「マジで、アイツのせいで嫌な目にあったぜ」

 ふと、今まで俺たち以外に人気がなかったこの空間に男性二人の声が聞こえてくる。声はどうやら目の前の曲がり角から聞こえてきているみたいだ。

 それにしても……俺が寝ている間に何かあったのだろうか?

「……っ! 一ノ瀬君、病室に戻ろう?」

 佐々木が俺の右手を引っ張るが、まるで金縛りにあったかのようにその場から動けない。

 そうしている間にも男性二人は何やら愚痴を零しながら近づいてくる。

「お願い……! 一ノ瀬君、戻ろう……!」

「ほんと……桜木には、裏切られたよな」

「まさか、アイツが魔王と組んでるなんてな」

 佐々木と男性二人の声が発せられるのは同時だった。

 姿を現した男性二人は俺が通っていた高校の制服を着ている所から、恐らくは俺のクラスメイトだったんだろう。

「アイツのせいで、重症負った奴もいるんだろ? ほんと、死んでくれねーかなぁ」

「マジで迷惑だよな」

「……」

 男性二人は曲がり角をこちらに曲がってそのまま歩いてくる。

 どうやら、話す事に夢中で此方には気づいていないようだ。

 いや、そんなことはこの際どうでもいい……それよりも、コイツラはナントイッタ……?

 桜木……美咲が……魔王と組んでいた……?

「まったく……って、アレ、一ノ瀬?」

「おぉ! 目が覚めたんだな」

 クラスメイト二人はようやく、俺の存在に気づいたらしく馴れ馴れしく近づいてくる。

「あ……あぁ……」

 コイツらの言葉に頭をハンマーで殴られたような衝撃を受けた俺は、上手く言葉を返せない。

 確かに、美咲は【魔王の嫁】という称号を持っていて、それを狙って魔王が攻めて来たのも事実だ。

 だが……そんなの、本人が望んでいた事じゃない。

 それどころか、隠れたり逃げたりするという選択肢もあったはずなのに、俺に『みんなを救ってほしい』と頼んで……最終的に犠牲を増やさないために自らを差し出した。

「まぁ、お前も不幸だったな」

「左腕は……まぁ、不運だったな」

 二人は俺にずっと何かを話していたようだったが、俺が曖昧な返事しかしなかったからか、そのまま俺の肩に手を置いてどこかに行ってしまった。

「……ごめん」

 二人の気配が完全に消えた所で、佐々木が口を開く。

「知って……いたのか……? 美咲が、どんな扱いをされているのかを……」

「……ごめん」

「――っ!! お前っ!!」

 謝り続ける佐々木に苛立ちを感じ、勢いよく振り向くとそこには涙を流しながらもこちらを真っ直ぐに見つめている佐々木がいた。

「ごめん……私だけじゃ、どうしようもなかった……。誤解を解こうとしても、私は友達だったからだって……一ノ瀬君に言ったら、ダメになっちゃうと思って言い出せなかった……」

「――クソがッ!!」

 結局、俺は誰に対してでもない罵倒を口にするしかなかった。


 なぁ、美咲……どうして、お前はこんな奴らを助けたいだなんて思ったんだよ……?

 俺には、わからない……。

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