来襲、ラスボス
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唖然とする俺と美咲を気にしてないかのように、頬擦りを続ける桜花。
「美咲が母親って、どういうことだ……?」
「わ、私……いつの間にお母さんになったの……?」
冷静に考えれば、美咲とそういうことをした記憶はどこにもないし、そもそもわずか一日でここまで子供が大きくなるはずはないのが、今の俺にそこまで考える余裕はなかった。
「あっ! 桜花ちゃんっ!」
「「!!」」
二人で現状に戸惑っていると、桜花が走ってきた廊下の方からどこかで聞いた声と誰かが走ってくる音が聞こえて来た。
「由美ちゃんっ!?」
「……佐々木?」
走ってきたのは、クラスメイトの佐々木 由美だった。
白い白衣を纏い長い黒髪をポニーテールにしたその姿は、完全に保健室とかにいる先生だった。
「あっ! 一ノ瀬君、起きたんだね!」
「あ、あぁ……」
立っている俺に向かって笑顔で話しかけてくる姿に、ドギマギしながらもどうにか答える。
美咲が若干ジト目で俺を睨みつけてくるのが凄い気になるな……なんだよ、こんな美少女にいきなり笑顔で話しかけられたら、誰だってドギマギするだろ。
「桜花ちゃんがいきなり『パパが起きた!』って言って走っていくから、ビックリしちゃったよ。でも、パパって本当に一ノ瀬君だったんだね。アレ? でも、そうなるとママは誰なのかな??」
コイツ、こんなに喋るヤツだったっけ?
「ちなみに、裕くんの治療をしてくれたのも由美ちゃんなんだよ」
「む、そうだったのか」
お礼を口にしようとすると……
「ママ!」
俺よりも先に桜花が美咲の手を握ってそう言った。
どうやら、由美に『美咲は自分の母親だ』と紹介しているようだ。
「えっ……? 美咲ちゃんがお母さんだったの!?」
「いやぁ……私にも何が何だか……」
驚く佐々木と戸惑う美咲。
だが、美咲の態度が気に入らなかったのか、桜花は頬を膨らませる。
「ママなのっ!」
頬を膨らませたまま、美咲を睨みつける桜花。
だが、その姿には恐怖感などなく、むしろ愛くるしかった。
「っ!! そうだね、私がママだよ~」
「んっ!」
どうやら、美咲もその姿に負けたようで桜花の頭を撫でる。
撫でられている桜花も満足そうだ。
《兄さん、ちょっといいですか》
ん、どうした?
《今、美咲さんの魔力をかすかに感じたのですが……桜花ちゃんに混じっている兄さんとは違う魔力と一致していました。つまり、本当に美咲さんは桜花ちゃんのお母様かと……》
マジかよ。
アレ? でも、桜花って俺が魔力を異常に使ったせいで生まれたんだよな?
んで、あの時に俺は女神様から貰った魔力石を使って……。
《兄さんが考えて居る通りだと思います。おそらく……いえ、完全に美咲さんは桜さんと同じ魔力です。兄さんがお兄ちゃん《純》と同じ魔力であるように》
てことはアレか?
美咲は桜さんの生まれ変わりなのか?
でも、記憶は無さそうだしな……。
《生まれ変わった人が全員、前世の記憶を所持しているとは限らないです。それに、兄さんだって最初は覚えていなかったと記憶していますが?》
そう言われると、俺は何も言えないな。
つまり、桜花は俺と美咲の魔力が混じって生まれたから、パパとママで間違いないわけか。
《はい》
「なぁ、美咲……」
「ん? なに?」
「その、桜花の事なんだが――」
俺が今さっきわかった事を美咲に説明しようとした瞬間、轟音が聞こえる。
「――っ!! 美咲っ!」
音が聞こえたのと同時に俺は地面を蹴り、美咲と桜花を抱きかかえて大きく横に跳ぶ。
それと同時に、廊下の窓際が爆発して人が吹っ飛んでくる。
飛んできた人は、俺が寝ていた病室まで飛んでいき、壁にぶつかって止まった。
「え? えぇ!?」
「……っ! 麻耶ちゃんっ!?」
混乱している美咲よりも先に再起動した佐々木が飛んできた人に走り寄っていく。
それを横目に、俺は美咲と桜花を起こす。
「美咲、麻耶ちゃんって……?」
「え、あ、クラスメイトで杖の勇者の佐藤 麻耶ちゃんだよ」
「なるほど……」
つまり、今さっき飛んできた人は杖の勇者その人って事か。
先に走っていった佐々木を追って、俺たちも大きく壊された部屋へと入る。
壁にもたれかかるようにしている佐藤は、右腕は変な方向に曲がり、左腕は外れているのか通常の腕よりも長くなっていた。
そして、何よりも全身がボロボロであり身に纏っているローブもあちこちに穴が開いていたり、破けたりしている。
「ぉ……? 一ノ瀬君、目が覚めたんか……」
死にそうな声を発しながら俺を見上げてくる佐藤。
「一応な。それよりも、何かあったのか?」
人があんな速度で飛んでくるなんて、何かあった以外にないだろう。
それに、城門があると思われる方で変な歓声と悲鳴が聞こえてきてるしな。
「ま……魔王や……」
「なんだって……?」
「魔王が、乗り込んで来たんや……」
「――」
その言葉に俺は思わず言葉を失った。
魔王だって? そんなラスボスがこの王都に乗り込んで来たっていうのか?
「麻耶さん、喋っちゃダメだよ!」
佐藤の傍に座り込んで何やらしていた佐々木がそう注意する。どうやら、佐藤は本当に危険な状況らしい。
「……はぁ、佐藤はもうダメなんだな?」
言外に戦力にならないんだな? と佐々木に聞くと、佐々木は頷いた。
となると、現在魔王と魔王軍を相手にしているのは、残りの勇者とこの国の兵士たちだろう。
この国の兵士の練度はわからないが、勇者達は佐藤の様子を見る限り結構辛い戦いをしているのかもしれない。
俺も実戦慣れしているわけではないが、戦力は一人でも多い方がいいだろう。
それに、ここが突破されると美咲も危ないしな。
「んじゃ、ちょっと行ってくるよ」
「裕くん!?」
「ダメだよ! 一ノ瀬君は傷がまだ癒えてないんだよ!?」
二人に反対されるが、行くと決めたら行くのだ。
口に出してしまったというのもあるが、女性の前で堂々と言った事を素直に撤回したら、格好悪いだろう?
「適当に時間を稼いでくるだけだ。お前たちはその間に逃げる準備でもしておけよ」
一方的にそう言って、俺は佐藤が飛び込んで来た穴に向かって行く。
「裕くんっ!」
大きく穴が開いている窓際に到着するのと同時に、美咲に呼び止められる。
俺は、振り向かない。
「帰ってきてね……約束だから!」
「ああ……わかった」
そう短く返事をして、窓から飛び降りる。
本当は、俺は怖かった。
戦う事も、殺すことも、傷つける事も、傷つくことも。
だから、振り向かなかった。
振り向いてしまったら、俺はきっと戦場へ向かう事が出来なくなってしまうだろう。
そうなってしまえば、俺は……何も守れない。
《よかったんですか?》
「ああ……行かなくちゃいけないからな」
《いえ……そうではなく、桜花ちゃんを置いてきてしまった事なんですけど……》
「あっ……!!」
しまった。
無駄にかっこつけたせいで、桜花を置いてきてしまった。
「パパ―っ!!」
後で怒られそうだなと思っていると、頭上から桜花の声が聞こえてくる。
両脚に魔力を集中させて、地面に着地し、頭上を見ると桜花が降ってきていた。
「っと!!」
どうにか桜花を受け止める。
あぶねぇ……てか、俺が寝ていたのって三階だったのか。
「桜花、危ないだろ」
「パパ、おいて行こうとした!」
注意するのと同時に、桜花に切り返されてしまう。
そう言われると、パパ何も言えなくなっちゃうなぁ……
《兄さんの負けですね》
「一生、勝てる気がしないよ」
刀になった桜花を腰に差しながら、凍華の軽口に答える。
「さぁて、いっちょやってみますかね」
《どこまでも、お供いたします》
《うんっ!》
二人の返事を聞きながら、俺は勇者達が戦っているであろう城門へと向かって走り出した。




