目覚め
気づけば、3000PVを突破していました!
まさか、こんなに多くの人に読んでいただけるとは思ってもみず、とても嬉しいです!
読んでくださっている皆さん、本当にありがとうございます!
「裕くん……」
懐かしい声が聞こえる。
その声を聞くのが一日ぶりなだけなのに、もう何年も聞いていないような感覚さえ覚える。
「裕くん、起きて……」
目を閉じている俺にはわからないが、感触的に恐らく右手を握られた。
暖かい……。
俺をどこまでも包み込んでくれるような、俺の奥底にある疲れを癒してくれる……そんな暖かさ。
「お願い……みんなが、大変なの……」
「――っ!!」
夢は終わる。
美咲の言葉で一気に意識を覚醒させた俺は、激しい脈に顔を顰めつつも上半身を起こす。
「裕くんっ!」
「うおっ……! 何か、久しぶりだな」
俺の上半身に抱き付いてきた美咲を受け止めつつ、素直な感想を述べる。
何かの花の匂いが鼻腔をくすぐり、その匂いが美咲によく似合っている。
そして、俺の上半身を包み込む暖かさ……。
どうやら、俺と美咲はちゃんと生きて再開できたようだ。
「もぅ……バカ……ボロボロになった裕くんが運び込まれた時は、本当に心配したんだからねっ!!」
「……そうか、俺は助けられたのか。てことは、ここは王都か?」
「うん……馬込君たちが連れて帰ってきてくれたんだよ」
あの場に捨て置くという選択肢もあったのに、よくもまぁ連れて帰ってきたものだな。
まぁ、あの一瞬しか話してないが、馬込は恐らく情に厚いヤツなんだろう。
「それで、みんなが大変ってどういう事だ?」
「あっ、そうだった!」
美咲は、忘れたと言わんばかりに俺から離れ、真っ直ぐに俺の目を見た。
その瞳には、様々な感情が溢れている。
言うべきか悩んでいる。助けてほしいと思ってる。俺の事を心配してくれてる。俺に戦ってほしくないと思っている。みんなが大事だと思っている。
あぁ、美咲という女の子はこういう子だった。
自分から我がままを言うことは、ほぼほぼ無く。
自分よりも他人の心配をしてしまう。
「……言ってくれ。俺は、恩を受けてそのままにしておくほど歪んでないつもりだ」
「……っ!! あ、あのね……王都の近くに魔王軍がいきなり出現したんだって……それで、二時間も前にみんながそこに向かったんだけど、未だに連絡がないの」
つまり、安否が心配なわけか。
二時間――普通に考えるのであれば、まだ戦闘中という可能性もある。
だが、最悪のパターンとして全滅しているor全滅しかけているという可能性もある。
「わかった、ちょっと行ってくるよ」
「ごめんね……こんな事頼めるの、裕くんしか居なくて……」
起き上がった俺に対して、本当にすまなそうな顔をする美咲。
そんな美咲の頭に手を置いて、力の限り撫でまくる。
「わ、わわっ!!」
「そんな事気にするな。俺とお前の仲だろ」
撫でるのを止めて、美咲の目を真っ直ぐに見てそう言うと美咲は小さく頷いた。
「さて……流石に、こんな格好じゃ出れないよな」
今の俺の服装は、ボロボロになった制服の上着とYシャツが取り払われており、俺が制服の下に着ていたタンクトップと辛うじて無事だった制服のズボンというもの。
流石に、この格好のまま外に出て戦闘するのは避けたい。
「……」
一応、近くの椅子に俺が来ていた制服の上着とYシャツを見つけたが、広げてみたら穴だらけでただの布と化しており、とても着れた物ではない。
「ゆ、裕くん……もし、よかったらだけど……」
「ん? なんだ?」
振り返ると、何故か美咲が制服のボタンを外そうとしている所だった。
「な、ななっ! お前! 何をやってるんだ!!」
「き、着ていく服がないんでしょ? だったら、私の服を……」
「着れるか!! 第一、女物だぞ!? しかも、サイズも違うから無理だ!!」
そうだった。
美咲はこういうアホな所もあったんだった……。
「むぅ……でも、早くしないとみんなが……」
「そうは言ってもだなぁ……」
まさか、こんな事で躓くとは思っていなかった。
もういっそ、タンクトップのまま出ていこうか?
《兄さん、着る物が必要なんですか?》
と、そこで不意に脳内に声が響く。
そうだった。凍華の事を完全に失念していた……。
《大事な人との再会だったのです。無理もありません》
そう言って貰えると大変助かる。
それで、着る物が必要なんだが……何かあるか?
《ありますが……出すためには、私が人化する必要があるのですが》
あぁ……美咲が居るもんな。
まぁ、別にいいだろう。
《わかりました》
凍華の声と同時に、カーテンに隠れていた窓が光る。
凍華、見えないと思ったらどうやら窓に立てかけられていたみたいだ。
「兄さん、お召し物をお持ち致しました」
「ああ、ありがとう」
凍華は、うやうやしく俺に服と思われる布を手渡してくる。
それを受け取りながら礼を言って、美咲のほうを横目で見ると唖然としていた。
「え? え?? その女の子だれ……? 裕くんに妹さんなんて居たっけ??」
「挨拶が遅れてしまい、申し訳ございません。私は凍華……兄さんの得物を不肖ながら務めさせて頂いております」
「あぁ、これはどうも丁寧に……私は、桜木 美咲です……ってそうじゃない! 裕くん! 得物って事は一緒に運び込まれてきた日本刀がその子なの!?」
「あ、あぁ……そうなるな」
「えぇっ!? 女の子だなんて、聞いてないよ! しかも、凄く可愛いしっ!!」
突っ込む所はそこなのか……。
美咲はやっぱり、色々とズレている。
「そのことについては、後で詳しく説明するよ……とりあえず、着替えるから出て行ってくれるか?」
「あ、うん……約束だからね」
美咲は、凍華を連れて部屋の外へと出ていく。
それを見送りながら、扉が閉まった瞬間に俺はタンクトップを脱ぐ。
「うわ……」
そして、自分の身体を見て思わず言葉が漏れた。
包帯でグルグル巻きになった上半身。
それを少しだけ捲ってみると、露わになる縫った場所。
「あっちの世界じゃ、縫った事なんてなかったんだけどな……」
幸いなのは、縫う時に俺の意識がなかった事だろうか?
絶対に、意識があったら泣き叫んでたわ。
「てか、暴れた記憶がほぼ無いんだけど、どんだけ人の身体を好きに使ってくれたんですかねぇ? 俺の身体なんだから、あんまり好き勝手しないでほしいよ」
かと言って、暴れたのも俺なんだから誰に文句を言っているんだという話なんだが……。
まぁ、いいかと気分を持ちなおして凍華が渡してくれた布を広げると、そこには一着の黒一色で統一された着流しがあった。
「着流して……まぁ、凍華が和服だから仕方ないのかな?」
昔、浴衣を着た時の記憶を引っ張り出しながら、俺は着流しを着こんでいく。
この着流しだが、どうやら新品というわけではなく過去に他の所有者が居たような形跡が多々あった。
だが、清潔に保存されていたらしく、着る事に対して何の抵抗もない。
「裕くん……」
ふと、扉の向こう側から美咲の声が聞こえて来た。
「どうした?」
着流しを着終えて、身体を動かして不備がないかをチェックする。
うん、どうやら大丈夫みたいだ。
「ごめんね……私、裕くんの傷、見てたのに……こんな……っ!」
あぁ、美咲にもこの傷を見られてたのか。
そして、そんな傷を負っている俺にあんな頼みをする事に対して、やっぱり罪悪感が消えないのだろう。
今も尚、声を涙声にしながら、俺に謝っている。
「別に、気にしなくていい」
「でも……っ!!」
そこで、俺は部屋の扉を開く。
開けた先には、案の定涙を両目一杯に溜めた美咲が立っていた。
「いいんだ……コレは、俺がやりたい事でもあるんだからな」
そう言って、俺は美咲の頭を軽く撫でてから凍華に目を向ける。
「どこまでも、一緒に行きますよ」
凍華は頷いてから、俺の手を取る。
一瞬の閃光。
それが収まった時には、俺の右手には一振りの日本刀が握られていた。
「そういや、桜花は?」
目が覚めてから、一切見当たらなかった桜花について聞くのと同時に廊下を誰かが走ってくる姿が目に入った。
「パパーっ!」
「おぉ、おう……ぐっ!!」
走ってきていたのは桜花であり、あろうことか俺に向かって頭から突っ込んできた。
それを躱すという選択肢はなく、どうにか受け止めるが完全に傷に響いた。
《桜花ちゃん、兄さんはケガをしているのでそういう事は……》
「あっ、そうだった! ごめんなさい」
「いや、大丈夫……」
凍華に窘められ、素直に謝ってくる桜花の頭を撫でる。
桜花は『にへらぁ』と笑った後に俺に頬づりしてきた。
「裕くん……?」
殺気――!!
ギギギと壊れたブリキ人形のように背後を振り向くと、そこには笑顔なのに殺気を感じさせる美咲が仁王立ちしていた。
「娘って、どういう事?」
「えっ、あっ、いや、これはその……」
刀に思いっきり魔力を叩きこんだら生まれちゃいました☆とか言ったら絶対に殺される。
かと言って、それ以外に言う言葉が見つからない……。
「あっ、ママ!」
そう思ってどうしようか考えて居ると、唐突に桜花は俺から離れて美咲に『ママ』と言いながら抱き付いた。
「え、えぇ!?」
戸惑ってこちらにどういう訳か目で聞いてくる美咲に対して、俺は唖然とする事しか出来ないのであった。
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