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終戦

お久しぶりです。

お盆などで色々忙しく、更新出来ませんでした。

今回も短いですが、お楽しみ頂けたら幸いです。

 敵を殲滅し終えた勇者達は一ノ瀬の元に集結していた。

「コレって……一ノ瀬君だっけ?」

 うろ覚えな感じで呟いたのは、槍の勇者である杏子だった。

 それに対して、馬込と美紀は頷いた。

 麻耶は難しい顔で処置をしている由美を見ている。

 柏木と言えば、麻耶とは別の意味で難しい顔で一ノ瀬を睨みつけていた。

「生きてるの?」

「生きてるに決まってるじゃねぇか!」

 杏子の疑問に馬込は掴みかかる勢いで反論する。

 それに対して杏子は一歩引いて、馬を宥めるようにどうどうと馬込を押しとどめる。

 だが、杏子の疑問はもっともで発見した時よりはマシになっているとは言え、一ノ瀬は未だに死んでるかのような有様なのだ。

「でも、コレ……難しいな~」

 杖の勇者である麻耶は由美の処置を見ながら口を開く。

「由美はんの処置が完璧とは言え……ちゃんとした所で処置しないとダメやな」

「だったら、早く移動しねぇと!」

 馬込が今すぐに駆けだそうとすると、それに待ったを掛ける人が居た。

 それは、柏木だ。

「待て……このまま一ノ瀬を運んだとしても助かる保証はない」

「お前……」

 柏木は右手に持っていた聖剣の剣先を少しだけ上げる。

「まさか、見捨てるとか言わねぇよな?」

「……ここで苦しむよりは、マシだろう。安心してくれ、僕が介錯する」

「てめぇっ!!」

 柏木の胸倉を掴み、そのまま恐ろしい程に歪んだ顔を近づける馬込。

 それに対して、柏木はどこか冷たい目をしていた。

「本気で言ってんのか!?」

「本気さ……そもそも、コイツは僕たちが来なければ既に死んでいたんだ。死ぬのが早いか遅いかの違いでしかないだろう?」

 事もありなんと言った感じで言う柏木に他の勇者達も流石に非難の目を向ける。

 まさに一触即発の空気の中、チリンと鈴の音がその場に響く。

「えっ……?」

 すぐに振り返ったのは、杏子だった。

 それに続くように全員が音がした方に目を向けると、そこには白い着物を身に纏い美しい白髪を腰まで伸ばした少女――凍華が立っていた。

「え、え? 一体、どこから?」

 美紀が困惑したように呟くが、それに答えられる人物は本人を除いて誰もいない。

「……」

 凍華はゆっくりと歩き出し、一ノ瀬の隣にしゃがみ込む。

「……兄さん」

「「「兄さん???」」」

 凍華の言葉に一同唖然とするが、いち早く柏木だけが再起動して聖剣を構える。

「誰だか知らないけど、どいてくれ……今から、介錯をする」

「……」

 その言葉に凍華は視線で人を殺せるくらいの殺意を乗せて柏木を睨む。

 それに一瞬怯んでしまう柏木だったが、勇者補正もあってすぐに立て直す。

「はぁ……一体、誰が誰を介錯すると言うんですか?」

「え……? そ、それは僕が一ノ瀬を……」

「笑わせないでほしいですね。貴方が兄さんを? 出来ると思っているのですか?」

 凍華は立ちあがって柏木を睨みつける。

「……僕は勇者だ。出来ない事なんてない」

 その言葉に、凍華は飽きれた。

 もちろん、柏木にもだが一番はその手に持っている聖剣に対してだ。

「あら? でも、そちらの鈍ら《聖剣》はそうは思っていないようですよ?」

「は……?」

 凍華の言葉に首を傾げる柏木だったが、手に持つ聖剣が微かに震えている事に気づいた。

「……エリナ、久しぶりですね」

《と……凍華……っ!!》

「「「「!!??」」」」

 聖剣が喋った事に驚きを隠せない勇者達。

「せ、聖剣が喋った……?」

「そんなことってあるの!?」

 ざわつく勇者達を無視して、凍華は聖剣を睨みつける。

《あ、貴女……封印されてたんじゃないの!?》

「つい先ほど、兄さんに封印を解かれました」

《じゃあ……そこの男が今の担い手なの?》

「そうなりますね。ところで、エリナ……私が言いたい事はわかりますね?」

《……》

 凍華は冷ややかな笑みを浮かべて聖剣に語り掛ける。

 その度に聖剣はビクビクと震えて柏木の手に振動を伝える。

《剣の勇者よ。この者をここで殺すのは得策ではありません》

「な、何でですか……」

 柏木もまさか聖剣に話しかけられるとは思っていなかったのか少しだけ困惑しつつもどうにか返事をする。

《そこに立っている少女はとても恐ろしい存在です……そして、その少女の担い手を殺したとあっては、ここに居る勇者達はもちろんのこと、王都もタダでは済まないでしょう》

「もちろん、誰もない廃墟にしますよ?」

《凍華は黙ってて! とにかく、この男を急いで王都に連れ帰るのです!》

 途中、凍華が口を挟んだが、それを一蹴しつつも聖剣は柏木に語り掛ける。

 少しだけ悩んでいた柏木だったが、さしも伝説の聖剣がそう言うのであればそれに従って損はないだろうと判断して、一ノ瀬を王都に運ぶ事に賛成する。

 それを満足げに見守った凍華は再度しゃがみ込んで、このやり取りの間ずっと一ノ瀬の手当てをしていた由美に声を掛ける。

「えっと、貴女……」

「由美です……っ!」

 手を止めずに名前だけ名乗る由美に関心しながら、凍華は一つ頷いて再度口を開く。

「由美さん、兄さんの手当てありがとうございます」

「いえ……一ノ瀬君とは、知らない仲ではないですし……それに、目の前で誰かが死に掛けているのにそれを助けないなんて、おかしいじゃないですか!」

「そうですか……ところで、傷の手当ては後どれくらいかかりそうですか?」

「今やっているところが終われば、とりあえずは……よし、出来ました!」

 最後の傷を縫い終わった由美は満足そうに頷く。

「よしっ! 手当は終わったんだよな? じゃあ、急いで王都に行こうぜ!」

 そう言って一ノ瀬を背負う馬込。

 そして、そのままどんどん進んで行ってしまう。

「馬込君と一ノ瀬君って、そんなに仲良かったっけ?」

「わからない……」

 疲れ果てている由美に肩を貸しながら美紀が口を開くが、由美にもわからない事だった。

 まぁ、いいか! と美紀はすぐに考えるのを辞めて馬込の後を由美と共に追う。

 他の勇者達も馬込の後を追うが、一人柏木だけはその場で少しだけ立ち尽くしていた。

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