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今、俺達は。②

明けましておめでとうございます。

今年もぼちぼち書いていくのでよろしくお願いします。

 突風が顔を叩く中で一歩踏み込むと、目の前に大扉が出現する。

 扉には大樹が大きく描かれており、その周囲を様々な模様が彫られている。その一つ一つに意味があるのだろうが俺は知らない。


「パパ」


 二歩目を踏み込む俺の耳に聞きなれた桜花おうかの声が聞こえてくる。

 桜花は大扉の右側に立っており、俺がそこまで到達するのを待っている。その顔は泣きそうな――それでいてどこか諦めたような色が浮かんでいるにも関わらず、笑顔が浮かんでいた。

 その笑顔の意味はなんだろうか。これから死にゆく者への慈悲か。それとも、この先で見る光景に一抹の期待を持ってだろうか。


「いってらっしゃい」

「ああ……行ってくる」


 大扉の前に到達する直前で桜花がゆっくりと扉を開ける。

 その先には細い道が一本。その両脇は暗闇に包まれており、踏み外したら最後戻ってくる事は出来ないというのが直感的にわかる。

 それでも、奥歯を噛みしめて地面を蹴る。

 この先に求める物があると知っているから。


 バチッという音と共に俺の中にある何かが無数に枝分かれした何かとつながった感覚がした。


「――――――――――ッ!」


 強風が吹き荒れ、俺を暗闇へと落とそうとしてくるのに耐えながら走り続けると周囲に無数の鏡が現れ、そこに様々な景色を映し出す。

 見た事ある敵から見た事がない敵。知っている剣術に知らない剣術。ありとあらゆる世界線で戦い続けた“俺”という存在の記録がそこにはあった。

 その一つ一つを横目に走り抜ける。

 たったそれだけで俺の中に経験と知識が蓄積されていく。


「まだだ……どこかにあるはずだ」


 強くなる向かい風を全身に受けながらも走り続ける。

 既に歩くことさえ困難だというのに、足は前へと進み続ける。この意思はどこまでも前を目指し、突き進む。


 一体どれだけの時間を走ったのだろうか?


 ありとあらゆる経験が流れ込んできた。それでも、まだ足りない。


 今も尚、目の前に立っているであろう敵を倒すだけの術を未だに見つけられていない。故により広く、より奥へ、より深みへと意識を向ける。


 鏡は既に少なくなっている。


 俺が走っている内に無数の“俺”が戦い、敗れ、想いを空に託して散っていく姿を嫌になるくらいに見て来た。

 その姿が未来に待ち受けている自らの姿だと言われているような気さえした。

 だが、それでも決して立ち止まる事も速度を落とす事も振り返る事もせずに走り続けた。


「ぁ―――……」


 もう、鏡もない暗闇の中を走り続けた先―――最果てとも言えるような場所に“ソイツ”は居た。

 行き詰まりと言わんばかりに正面に出現した鏡。その中に映る映像を見た瞬間に頬を一筋の涙が伝った。


 酷い話だと思った。


 その剣はあまりにも美しく、見る者全てを魅了し、憧れを抱かせ、焦がれを駆り立てるにも関わらず俺には振るう事が出来ない剣だと理解出来てしまったからだ。

 きっと……いや、確実に“生ある者”ならばいとも簡単に振るう事が出来る。

 普通に生きているならば条件なんて無いに等しいソレにどうしようもなく惹きつけられる。


「そうだ……」


 見惚れていた俺の口から声が漏れ出す。


「コレが……全てなんだ」


 目の前で鏡の中で剣を振るう“本物の一ノ瀬 裕”も意識しているわけではない。

 ただ単純に剣を握り、極めた結果がソレだったというだけの話だ。


 だから、『偽物は本物に勝てない』のだと叩きつけられた気分だった。


「でも……」


 今、ここに立っているのは“俺”だ。

 今、こうして戦っているのは偽物だ。


 ならば……ならば、この身に残っている全てを使ってその剣を再現しよう。

 生ある者にしか許されないとしても、その一片だけならばどうにかなるはずだ。いや、仮にそれが不可能だったとしても覆して見せよう。

 それだけが目の前に立ち塞がる敵を倒し、彼女に辿り着く道なのだから。



◇ ◇ ◇



 両足が床を踏みしめる感覚と同時に視界が一気に広がる。

 眼前には左腕を振り上げたバンデハークの姿。よく見てみれば薄暗い室内では目視しにくいように黒塗りに塗装されたナイフが扇状に空中へと投げられている所だった。


再装填リロード


 身体から魔力が抜け、代わりにカチリと耳奥で音がする。


「分解、結合、形成―――」


 装填された魔力の形を変えていき、理想とする姿へと変質させていく。


「工程完了――――――」


 右手に持っていたワイヤーを左手に持っていた凍華で切断し、そのまま右手に持ち替える。


 瞼を閉じる必要なんてない。

 あの剣はこの目に焼き付いて離れない。


 前へ進め(想いを背負え)


 敵を見据えろ(想いを叫べ)


 腕を振るえ(全ての願いを込めろ)


 あの空間で見て、辿ってきた全てのじぶんへ捧げろ―――!!


「――発射インパクト!!!!!!」


 魔法が再発動するのと同時に宙へと上がっていた黒塗りのナイフが直角に曲がって俺へと襲来する。

 その数は―――五本。


「―――ッ!!」


 その速度が尋常ない。

 既に回避するだけの時間はない。凍華で打ち払う事は出来るが隙が生まれる。その隙を見逃してくれるような相手ではないだろう。恐らく、バンデハークは俺の行動を予測して既に手を打っている。


 思考は一瞬。

 すぐに次の行動を決め、身体を更に前へと倒す。


解放リリース!」


 そして、俺は仕込んでいた魔法を発動した。

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