魔刀
謁見の間を出て廊下に出ると、そこにはシエルが立っていた。
「お疲れ様です」
そう言って微笑んでくるシエルに俺は肩をすくめる。
というか、俺が謁見の間に入ってからそんなに時間は経っていないはずだが、凍華と桜花のことをちゃんと案内してくれたのだろうか?
「凍華達は?」
「既に案内してありますよ。こちらです」
歩き出すシエルについて廊下を歩きだす。
所々に絵画やら高そうな花瓶が飾ってあるのを横目に歩くが、所々曲がり角を曲がるために一人で歩いたら迷子になるだろう。
てか、無駄に広すぎないか?
「ユウさんは、魔刀についてどのくらいご存知ですか?」
少しでも道を覚えようと頑張っていると、突然シエルがそんなことを聞いてくる。
「あんまり、詳しくは知らないな」
「そうですか……では、魔武具については?」
シエルの質問に俺はいつだか凍華が説明していたことを思い出しながら口を開く。
「確か……強大な力を宿した武器だっけ?」
「大雑把な説明でしたら、それで合っていますね。もっと言うのであれば、魔武具のランクが高ければ一つで戦況をひっくり返すことができる程の力を宿している武器……ですね」
戦況をひっくり返すことができるのか。
一体、どんな魔武具があるんだろう? ビームが出たり、相手を即死させたりする能力を持った物とかもあるのかもしれないなぁ。
「魔武具には、F~Sまでのランクと規格外と呼ばれる物があります。Fが最低ランクでSが最高ランク。そして、規格外がランク付け出来ない程に強力な魔武具のことですね。その中で魔刀はSか規格外しか確認されていません」
「それはまたどうして?」
「刀という武器がそんなに存在していないというのも一つの理由ですが、もう一つの理由は魔刀の出生に関係があると研究者達は言いますね。ユウさんは魔刀がどうやって生まれたか知っていますか?」
「いや、知らない……そもそも、魔武具ってのは生まれるのか? 自然発生とかじゃなくて?」
「低ランクであれば自然発生もしますよ。ですが、高ランクや規格外の魔武具に関しては大きな魔力が密集している場所に長時間放置されていたり、精霊が宿ったりで誕生しますね。そも、魔武具というのは大昔から数は少ないですが存在していたと古代書に書かれています」
シエルの説明を聞きながら、俺は考えていた。
そも、刀という武器は元々この世界には存在していなかった武器だ。
ならば、魔刀は一体どうやって……?
そんな俺の疑問を読んだのか知らないが、シエルは魔刀について話し始める。
「まず、魔刀が生まれたのは今から数千年前と言われています。ここら辺は詳しい文献が見つかっていないので推測ですけどね」
「生まれた理由は?」
「……その当時に存在していた魔王の獲物が刀だったんです。ユウさんは魔王の嫁という称号をご存知ですか?」
「まぁ、一応は……魔王が魔王の嫁を手に入れるとパワーアップするんだろ?」
「そうですね。では、どうやってパワーアップするか知っていますか?」
「いや、知らないな……」
「魔王は魔王の嫁の称号を持つ者の魂を加工して自分の武器を作るんです。とても強力で凶悪な自分だけの武器を……」
それを聞いて、俺は絶句した。
魂を使って武器を作る? そんなことが可能なのか?
「そして、当時の魔王は見事魔王の嫁を手に入れ武器を作りました。その際に膨大な魔力がこの世界に散らばり、それらはこの世界に現存していた名刀と呼ばれる出来がいい刀に吸い寄せられるように入っていき、魔刀が生まれた……と、文献には書いてありますね」
「……」
「だから、魔刀には総じて強力な魔力が宿り、その結果ランクが高いものしか存在していないんです」
つまり、シエルの話を信じるのであれば魔刀とは当時の魔王が武器を作った際に出来た副産物だということだ。
「魔武具は……所有者に対価を求めるのか?」
「それはありませんね。どれだけ高ランクであったとしても、所有者に対価を求めるなんてことはありません……ですが、魔刀だけは例外です。あの武器は対価を支払うことで力を発揮します。まるで、悪魔との契約ですね」
出生に魔王が関わってる時点で悪魔の契約というのはある意味で的を得ている気がする。
「そうか……」
「っと、着きましたね。ここです」
そう言ってシエルが立ち止まったのは、多くの部屋が並ぶうちの一室。
中からは微かに人の声がするから、誰かがいるのは確かだろう。
「では、行きましょうか」
シエルがドアノブを捻り、扉を開けると……。
「美咲……」
「……裕くんっ!!」
椅子に座る美咲とその正面に座る凍華。
そして、美咲の膝の上に何故か座っている桜花が居た。
俺が美咲の名前を呼ぶと、美咲は満面の笑みで俺の名を呼んで立ち上がった。
その際、桜花がちゃっかり美咲の膝の上から飛び降りていたりする。
「裕くんっ!!」
胸に飛び込んできた美咲をそっと受け止めつつ、俺は無事でよかったとここから思った。




