散策
白華も星の精霊も鞘を作るために工房へと行ったために静かな部屋の中で、俺は沙織に膝枕をしてもらって横になっていた。何でこんな事になったのか……沙織が何故かしたがったからとしか言えない。
ちなみに、そんな沙織はご満悦な表情で鼻歌を歌いながら俺の伸びて来た前髪を弄っている。
「楽しいか?」
「ん? 楽しいよ?」
「そうか……」
何とも言えない気まずさを感じて聞いてみたが、そう笑顔で返されては何も言えなくなってしまう。まぁ、沙織には左腕の件もあるしここは素直にしたいようにさせておこう……。
「今日はいい天気だね~」
言われて窓に目を向けてみれば、そこから見える空は雲一つない青空だった。差し込む光に照らされて沙織の金髪がいつもよりも輝いて見える。
「そうだな」
「こんな日は散歩とか行きたくならない?」
「そうなのか? 俺はインドアだからわからないな……」
「確かに、裕はそういうタイプかも。でも、適度な運動は健康にいいんだよ?」
戦闘という運動ならばいつもやっているけどな、とは言わない。沙織にそういう事に直結しそうな話をするのは嫌だったし、何よりも今の空気に合わないと思ったからだ。
「……なら、城下町にでも散歩に行くか?」
「えっ……?」
幸いにも、黒騎士討伐と王の息子を救出したという名目で少なくない褒賞を貰っている。それとなく、この世界の金についても聞いているから買い物をするのも問題はない。
あとは、沙織には何かと迷惑やら心配を掛けているからここら辺で少しでも清算しておきたいという気持ちもある。
「散歩、したいんだろ? こっちに来てから色々あってゆっくり城下町を見て回る時間もなかったし、沙織がいいなら……あ、でも今日も厨房とかの手伝いがあるのか?」
もし、そうならまた機会を改めるべきかと考えていると、しばらくフリーズしていた沙織が両手を振った。
「う、ううん! 今日はお休みをもらってるから!!」
「そうか? なら、今から行くか?」
「で、でも……体は大丈夫なの?」
どうやら、沙織は俺の体を心配していたらしい。そりゃそうか。さっきまで俺は全身の痛みやら何やらに苦しんでいたのだから。
だが、白華と光の精霊による治療のお陰で気怠い感じはあるが動けないわけではない。
「ああ。治療してもらったから大丈夫だ」
「そ、そっか……それなら……うん。私も裕と一緒に城下町に行きたい、かな」
「よし、じゃあ行くか」
身体を起こしてそう言うと、沙織は少しだけ頬を染めた顔で小さく頷いた。
◇ ◇ ◇
あれから沙織の準備が出来るのを待ってから、俺達は城下町へと来ていた。賑わう人々を横目に二人で大通りを歩きつつ気になった露店や出店に寄りつつ散策する。
「賑わってるね」
「ああ。ここだけ見たら魔族と戦争状態なんて信じられないな」
寂しい左腰へ視線を向けながら、周囲に気を配りながら二人で歩いていると沙織の視線が一点に止まっている事に気付いた。
目線の先を追ってみれば、そこにはアクセサリーを取り扱っているらしい露店があった。この時に沙織が何を考えているのかわからない程鈍感ではない俺は、その手を取ってその露店の前へと移動する。
「いらっしゃい」
店主である男がにこやかに挨拶をしてくる。それに対して会釈を返しつつ並んでいるアクセサリーを眺める。正直、元の世界でもこっちでもこういった物に興味はない。そのため、良し悪しなんてわかるわけがなかった。
「わぁ……」
ただ、隣でそれらを眺めている沙織が嬉しそうだから良しとしよう。
そう思いつつアクセサリーを眺めていると、赤い宝石が埋め込まれた指輪が目に入った。他のアクセサリーよりも数が多いソレが気になって手に取ってみると、店主が片眉を上げた。
「ソイツは良くある【収納の指輪】だが、何かおかしな所でもあったか?」
「収納の指輪……?」
「もしかして持ってないのか……? ここら辺じゃ一般的なんだが、アンタたちは他国から来たのか?」
「まぁ……そんな所だ。この指輪って何か効果があるのか?」
「読んで字のごとくだよ。ある一定量まで物を保管する事が出来る魔法が掛けられてるんだ。持ってないならあった方がいいぞ。旅も楽になる」
その言葉に驚いて再度手に持った指輪へと目を向ける。
収納魔法は未来じゃ貴重な物だ。それこそ、少量しか保管する事が出来ない物でもとんでもない金額で取引されるくらいには。ソレがこんな露店で大量に売っているとは思わなかった。
「コレはどれくらい収納出来るんだ?」
「下級品だからな。大体一般的な家の一室くらいだな」
男は少ないだろ? と笑うが、俺にとっては大容量もいいところだった。そもそも、それ以上の収納力を必要とするのは商人くらいな物だろう。
「なら、コレを二つと――あと、そのネックレスを買おう」
翡翠色の宝石が付いた羽型のネックレスは沙織がずっと見ていた物だ。
「毎度あり。お二人の旅が良き物であるように祈ってるよ」
店主に金を払ってそんな言葉を背に受けながら少し歩き、沙織にネックレスを差し出す。
「ほい」
「い、いいの……?」
「ああ。欲しかったんだろ?」
「それはそうだけど……その、ありがとう」
ネックレスを受け取って大切そうに胸に抱いて微笑む沙織に一瞬だけ見惚れて、どこか気恥ずかしい気持ちになった俺は視線をズラしながら二つ買った収納の指輪の内一つを沙織に差し出す。
「コレも持っていた方がいい。何かと沙織個人の物も出て来るだろうし……」
そう言ったのだが中々受け取られる気配がない。気になって視線を向けてみれば、沙織は俺に向かって手の甲を上に向けて左手を差し出していた。
「付けてくれる……?」
「……ああ」
言わんとする事はすぐに理解できた。
本人がソレを望んでいるならば、叶えてあげたいとも思う。身体を沙織へと向けて左手の薬指にそっと指を差し込む。サイズが合うか不安ではあったが、指輪に指を通すと自動的に大きさが調整された。どうやら、そういう魔法も掛けてあったらしい。
「裕……」
「ん?」
ホッと胸を撫でおろしていると声を掛けられ、顔を上げてみればそこには満面の笑みを浮かべる沙織が居て――
「ありがとう。私、凄く幸せだよ」
――そう、言ってくれた。




