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【閑話】あの日あの時

 あぁ、この世界はなんて残酷なのだろう。

 神様には会った事はないが、女神になら会った。

 ならば、この世界には神様が存在しているのだろう。なのにも関わらずどうして神様は俺の願いを聞き届けてくれない……?

 どうして、ただ桜と一緒に居たいという願いでさえ叶えてくれない……。


「つまり、桜は魔王に連れ去られてしまったということか?」


 燃え盛る王都。

 つい先ほどまで魔王軍の襲撃にあっていたのだから、当たり前だ。

 むしろ、滅んでいないだけマシだとも言える。

「ああ……俺たちも頑張ったんだが……」

 クラスメイトの一人が俺にそう返してくる。

 頑張った? 頑張ったってなんだよ?

「……」

 どうして、頑張ったのに誰も大したケガをしていないんだ。

 どうして、全員生き残っている。

《お兄ちゃん……》

 脳内に凍華の声が響く。

「桜は……魔王に連れ去られたんだよな」

「そうだな……」

 クラスメイトの男は頷く。

 それに関しては嘘ではないようだ。

「そうか……」

 俺は、つい先ほどまで魔王軍との最前線に居た。

 そこで、王都襲撃の報告を受けて急いで戻ってきた結果がコレだ。

 最前線なんかに行かずに、俺がずっとここに居れば……。

 そうすれば、桜を守る事が出来たのかもしれない。

「ふぅ……」

 いや、今は何を言っても後の祭りだ。

 とりあえず、目の前の事に集中しよう。

《兄さま。王都に散らばらせておいた精霊から情報を集め終えたぞ》

 凍華とは別の声――鈴蘭が俺にそう言ってくる。

 鈴蘭は闇属性を持つ魔刀であり、闇属性の精霊を使役している。

 闇属性の精霊は情報収集に長けているのだ。王都襲撃の報告をしてきてくれたのも闇精霊だしな。

《報告しろ》

《やはりこやつ等、自分の身可愛さに姉上様を魔王に売っておる》

《確かなのか?》

《兄さまも気づいているであろう? 激戦だったはずなのにも関わらず、誰も大したケガをしておらず誰も欠けていない事に》

《……勇者は、ここにはいないようだが?》

《勇者達は、魔王城へ向けて一週間前に出発したらしいのう》

《そうか……》

 となると、ここに居るのは一応戦う事は出来るがそこまで強くないやつらだ。

 ならば保身に走るのも頷ける。

 だが……。

「なぁ、自分の身可愛さにクラスメイトを売った気分はどうだ?」

「はっ……はぁ? な、なにを言って……」

 わかってる。

 桜という人物に命を掛けられるのは自分くらいだという事は。

 だが、それでも、大切な人を売られたとなれば『どうして、助けてやらなかったんだ』と言わざるおえない。

 これが、俺のエゴだとしてもだ。

「もう、いいだろう。仲良しごっこは終わりだ」

 言い終えるのと同時に右手で凍華を抜き、目の前に立っていた男の右腕を肩から斬りおとす。

「はぇ……?」

 男は自分の腕がなくなった事に気づかないまま、俺に首を斬りおとされて死んだ。

 死体が崩れ落ちるまで、斬られた部分からは噴水のように血が噴き出し俺の服にまだら模様に返り血を浴びせる。

《お兄ちゃん、目には入らないようにね》

《わかってるよ》

 そのまま死体となった男を追い越し、縮地で近くに居て未だ呆然としているクラスメイトの首を斬りおとす。

「はっ……!? 鈴木と斎藤が!」

「純! どういうつもりだ!?」

「私たち、仲間じゃないの!?」

 二人殺されてようやく状況が把握できたクラスメイトは大きく分けて三つのグループになった。

 一つ目は泣き叫ぶ者。

 二つ目は俺に抗議してくる者。

 三つ目は俺に攻撃しようと武器を構える者だ。

「仲間……?」

 それらを見つめながら、俺は凍華を軽く振って刀身に付いた血を振り落とす。

「桜を売った時点で、お前らは俺の……敵だ」

 そのまま、まずは魔法を詠唱しているヤツらを狩るために走り出した。



《残り、15人です》

《最初に居たのは30人じゃから、結構斬ったのう》

 凍華と鈴蘭の声を聞きながら、俺は眼前に控える男を見据える。

 俺の目の前には、金色の装飾が施された大楯をクラスメイトを守るような立ち位置で構えている男――中村なかむら 正信まさのぶが立っていた。

「盾の勇者、か……どうしてここに?」

「……王都襲撃の報を受けて俺だけ戻ってきた。それより、これは一体どういう事だ? なぜ、お前がクラスメイトを殺している」

「……桜を、売ったからだ」

「なんだと?」

「こいつらは、自分の身可愛さに桜を魔王に売ったんだよ」

 俺が吐き捨てるように言うと、中村は後ろに居る生き残りを睨みつける。

「おい、純が言っているのは本当なのか?」

「「「……」」」

 クラスメイト達は、中村の威圧に耐えられないように目を逸らしていた。

 このまま行けば、中村は引いてくれるだろう。

 だが、世の中はそんなに甘くない。

 一度保身に走ってしまった人間というのは、最後までそれを突き通したくなるのだ。


「あ、あいつが言っているのはデタラメだ!」


 誰が言ったのかはわからない、だが確実にクラスメイトの中から放たれたその言葉は現状では莫大な効果を持っていた。

 一人が言えば、周りは同調する。

 一人、また一人と俺が嘘を言っていると騒ぎ出す。

「……」

 それを俺は、冷めた目で見ていた。

《本当に救えない奴らじゃの》

《そう、ですね……》

 クラスメイトを見ていた中村は、目を閉じながらこちらに向きなおる。

「……純、悪いが俺はこいつらを守らせてもらうよ」

「別に好きにすればいいさ……」

 中村も本当の事に気づいているはずだ。

 コイツは、勉強は出来ないがそういうところには鋭い。

 だが、それでもコイツはクラスメイトを守る事を選択した。

 全く、バカなやつだ……。

「さぁ、来い。ここは俺が一歩も通しはしない!」

「……」

 中村が大楯を構え、俺は凍華と鈴蘭をそれぞれ両手に持って構える。

《行くぞ、二人とも》

《《はい。どこまででも》》

 走り出す。

 盾の勇者に対して縮地なんて使っても意味がない。

 盾の勇者の固有能力は【絶対に守る】という事。

 それはつまり、俺がどれだけ中村をスルーして背後に居るクラスメイト達を斬りつけようと、傷一つ付けられないという事だ。

 ならば、正面から当たって斬り伏せるしかない。

 そうなると、縮地よりも勢いがつく方がいいのだ。

「うおおおおおおおおおおおお!!」

 気合一閃。

 右手に持った凍華を大楯に向かって右斜め上から振り下ろす。

 中村はそれに対して大楯に角度をつける事で受け流す。

 鉄と鉄がぶつかり合い、火花を右斜めに散らしながら凍華は振り下ろされていく。

「ふっ!!」

 凍華を振り下ろしきる前に左手に持った鈴蘭をがら空きの足に向かって突き出す。

 従来であれば、これで足を貫く事ができるだろう。

 だが――

「ちっ!」

 ――盾の勇者は伊達ではなかった。

 俺が鈴蘭を突き出すのと同時に中村は大楯をありえない速度で一歩下がり、そのままこちらに向かって突き出してきたのだ。

 俺は突き出された大楯に両足を付け、勢いを利用して背後に大きく飛ぶ。

「チート野郎が……!」

 着地と同時に凍華と鈴蘭を頭上に交差させる。

 そこに、金色の装飾が施された大剣が振り下ろされる。

 衝撃、轟音。

 両腕を伝って足裏まで届いた衝撃は、俺の足元にクレーターを作る。

「おい……盾の勇者が大剣なんて使ってんじゃねぇよ……」

 ガチガチと音を立てて二振りの刀と一本の大剣が俺の頭上で噛み合う。

「よく言うだろ? 攻撃は最大の防御ってさ!」

 ズンッ! とさらに力が籠められ、俺の足元のクレーターは更に大きくなる。

《ぐっ! これはちとつらいな……》

《私たちも耐えられるか怪しいですね……》

 二人の声を聞く余裕もない。

 一瞬でも気を抜けば俺はすぐさま大剣によって潰されてしまうだろう。

「このままやっていてもお前に勝ち目はない。投降しろ」

 中村が大剣を押し込みながら言ってくる。

 確かに、このままやっても俺に勝ち目なんてないだろう。

 相手は、あの勇者だ。

 だが……ここで辞めるわけにはいかない。

「すまない……な……俺は、まだ……」

 全身に力を入れる。

「桜のためにも、諦めるわけにはいかねぇんだよ!!」

 そのまま、残っている(・・・・・)魔力を全て使って大剣を弾き飛ばす。

「凍華! 鈴蘭!! 持っていけ!!」

《いいんですか?》

《よいのか?》

「構わない!」

 俺の言葉に二人が頷いたのがわかった。

《ここに契約は……》

《成立したのじゃ》

 ドクンと俺の左腕と右目が脈打つのと同時に激痛が走る。

「ぐっ……がぁっ!!」

《私が左腕を》

《我が右目を》

《《その対価に力を》》

「……っ!!」

 走る走る走る。

 ただひたすらに、敵に向かって俺は走った。

「なっ!? さっきよりも速い!!」

「うおおおおおおおお!!」

 形状変化させて大剣から大楯に戻しそれを構える中村。


 俺はそれを――


 ――大楯ごと、斬り伏せた。


 真っ二つになった大楯と斬りおとされた自分の右腕。

 そして、俺を見た後中村は前のめりに倒れた。

「……っ!! ごはっ!」

 それを見届けるのと同時に俺は血を吐く。

《いけない!!》

《兄さま! ここは一時離脱するのじゃ!! 契約の反動で身体がボロボロじゃぞ!》

「くっそ……!!」

 俺は、こちらを怯えた表情で見ているクラスメイト達を黒と紫の目で睨みつける。

「お前ら全員、殺してやる……そして、桜も救い出す」

 そう呟いて、俺は一旦引くべく走りだした。




 こうして、後世でも語られる【裏切者】は誕生した。

 

 

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