あなたのいる日常
初めて、感想をいただきました。
とても嬉しくて、毎日見てしまいますw
それでは、拙い文章ですがどうぞ!
ハッと目を開けると、カーテンの隙間から入ってきた太陽の光が俺の顔を照らしていた。
一気に意識を覚醒させたために心臓がこれでもかというほど脈を打つ音が耳の奥を叩くのを聞きながら、俺は先ほどまで見ていた夢を思い出す。
とても高い塔。その頂点に設置されている部屋に一人座っている白髪で白地の着物がよく似合う少女。
少女は夢の中で俺がそこに居るということを認識すると、嬉しそうに駆け寄ってきて手を握って笑いかけてくる。
『―――』
そして、嬉しそうに何かを言うのだがその声は俺には聞こえない。
少女はしばらく喋っていたが途中で俺が声を認識できていないということに気づいて、一瞬だけ悲しそうな顔をした後に再度微笑む。
俺は、その微笑みをよく知っている。
人の顔色ばかり見て生きてきた俺だからこそわかるその微笑み。
それは、諦めたときに出る笑顔だ――。
「おっはよ~!」
俺が夢について考えていると、部屋のドアが勢いよく開けられる。
「あれれ? 裕くんが起きてるなんて珍しい……」
頭のアホ毛を動かしながら、入ってきた少女――桜木 美咲は起きている俺を見て不思議そうに首を傾げる。
「珍しいも何も、最近は起きてるだろ」
「うーん、言われてみれば確かにそうかも……あっ、もしかしてまたあの夢?」
幼馴染である美咲には、俺が最近見るようになったあの夢について話してあった。
「ああ……」
「そっか……それ、大丈夫なの?」
「たかが夢だろ? それに、別に寝不足とかになるわけじゃないし」
「まぁ、裕くんがそう言うならそれでいいけど……」
美咲は深刻そうに考えていたが、俺が言った言葉で「まぁ、いいか」と言った感じの表情をしてから何かを思い出したような顔になる。
「そういえば、おばさんが下で朝ごはん作ってたよ」
「なっ!?」
おばさん――まぁ、俺にとっては母親にあたる人は、そこそこ売れている小説家でありいつもは部屋に籠っているような人だ。
だから、家事は基本俺がやるか美咲が善意でやってくれたりしている。
ちなみに、親父は出版社に勤めていてそこで母親と出会って結婚まで至ったらしい。
親父も基本は大忙しで家に居るときも自室で爆睡しているような人だ。
「珍しいってレベルじゃないな」
「うーん、なんでだろうね?」
まぁ、あの人がいきなり何かを始めるのは今に始まったことではない。
「気まぐれな人だから、やりたくなったんだろ」
「ん~、まぁ、おばさんは少し特殊だからなぁ」
俺の言葉にたははと笑う美咲。
アレでちょっとって……まぁ、いいか。
「とりあえず、着替えて下に行くか」
「そうだね。はいっ!」
美咲は笑顔で俺のYシャツを右手で手渡してくる。
左手には制服がスタンバっている。
「……いや、出てけよ」
「え? 着替えを手伝えって言わなかった?」
「言ってねぇ!!」
美咲から制服を奪い取り、部屋から叩き出し着替えた俺はリビングへと向かう。
そこには、朝食を目の前にコーヒーを飲む母親と談笑している美咲がいた。
美咲の前にも朝食が置いてある。
別に、美咲が俺の家で朝飯を食べるのは珍しいことではない。
家事を美咲がしてくれるようになってからは、割と日常的に見る光景ではある。
――母親が居ることを除けば、だが。
「本当に居るとは驚いた」
リビングに入って開口一番、母親にそう言う。
そんな俺の声に反応してこちらを振り向いた母親は呆れた顔だった。
「はぁ、あんたはいつの間にそんな可愛げがなくなったの?」
「息子を放置して二か月も顔を見せなかったのによく言うよ」
肩をすくめて言う俺に母親は笑う。
「あっはは! 元気そうで安心したよ」
「そりゃ、私が管理してますから!」
俺が何かを言うより前に美咲が元気よく答える。
「そうだったね、美咲ちゃんのお陰で私も安心して仕事ができるよ」
「えへへ」
母親と美咲のやりとりを聞きながら俺は自分の椅子に座る。
「はぁ~、私も娘がほしかったわ」
「息子で悪かったな」
「ほんとにね~……あっ、美咲ちゃん私の娘にならない?」
この母親はいきなり何を言っているのか。
「アホ言わないでくれ……」
「私はいたって本気なんだけど?」
母親は『本気です!』という真面目な顔で返してくる。
「はいはい。あ、いただきまーす」
「あはは、いただきまーす!」
俺が朝飯を食べ始めたのをきっかけに、やりとりを困った笑顔で見ていた美咲も食べ始める。
久しぶりに食べた母親の料理は、普通においしかった。
「あ、美咲ちゃんはちょっと先に出ててもらえる?」
「わかりました!」
いざ、学校へと思って玄関まで来た時に母親がそう言う。
美咲は母親にいわれた通りに先に外に出る。
「ほんと、いい子ね」
母親は美咲が出て行った玄関を見つめながら呟く。
「あんたにはもったいないくらいだわ」
「なっ!? 俺と美咲はそんなんじゃねぇよ!」
「はぁ? まだ手を出してないの? あんないい子、すぐにあんたよりもいい人に取られちゃうわよ?」
「べ、別にいいんじゃねぇの……」
一瞬、母親の言うことを想像してしまったが、慌てて振り払う。
そんな俺をバカを見るような目で見ていた母親だったが、急に真面目な顔になる。
「裕……」
「なんだよ?」
「私は、あんたを息子だと思ってるのと同じくらい美咲ちゃんを娘だと思ってるわ」
それは、知っている。
昔から、母親と美咲は仲がいいのだ。それこそ、母親と娘のように。
「でも、美咲ちゃんは私の娘じゃないから守ってあげられない。だから、あんたが本当に美咲ちゃんを大切な人だと思っているのならあんたが守りなさい。他の優男とかそういうのじゃなくて、ほかでもないあんたが」
「……わかったよ」
急に真面目に話す母親の言葉には、有無を言わせないプレッシャーがあった。
「さぁ、美咲ちゃんが待ってるからもう行きなさい」
「ああ、行ってきます」
「いってらっしゃい……達者でやりなさい」
玄関の扉を閉める際に聞こえた母親の呟きが俺の耳に残った。
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