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【本編完結】君のために繰り返す~前世から続く物語を終わらせます~  作者: 夜桜詩乃
第九章 未来へのメッセージ
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彼らは出会う①

 白華しろかを片手に森を駆け抜ける。

 流れていく木々を横目に魔法無しで出せる最高速度でガンダルに教えてもらった戦場へと向かっているのだ。


『この勢いなら追い付けるかも』

「だといいけどな」


 長男達が出発してから、俺が城を出るまでに掛かった時間は一時間程だ。

 並の行軍ならばすぐにでも追いつけるだろうが、ガンダルの話では彼らは風魔法を駆使して高速で移動しているらしい。

 何でも、この世界では迅速な行動が求められるのが常であり、行軍の際に風魔法を使って補助する部隊が必ず存在するのだとか。


「っと……」


 考え事をしていたために気付くのが遅れた猪もどきに白華を振って対処し、再度走り出す。

 今の服装は借り物の着流しから、沙織さおりが洗濯と補修をしてくれていたいつもの黒いズボンとシャツ。同色のロングコートになっている。

 間違いなく、戦闘は避けられないだろうし、防御力を考えればコレがベストだからだ。


『サオリは置いてきちゃったけど良かったの?』

「あまり、戦闘とか見せたくないんだ」

『そっか……優しいね』

「どうだろな」


 コレは俺の自己満足でしかないだろう。

 そもそも、戦場に赴くならば沙織も連れて来た方がいいことは理解している。

 俺と沙織は魂で繋がっているために、白華や他の魔刀まとうみたいに距離の制限はない。だが、左腕を構成しているのは沙織の魔力であり、距離が離れればその力は使えなくなる。


「言う事を聞いてくれればよかったんだけどな……」


 精霊大弓せいれいたいきゅうは1から100まで沙織の魔力を使って発動する物で、コイツの制御は沙織がいなければ出来ない。

 下手に使おうとすれば、暴走して左腕が弾け飛ぶ。コレはあの空間で色々試した際にわかった事だ。

 つまり、俺は嫌でも白華のみの近距離戦を強いられるという事だ。


『でも、少し前に戻っただけでしょ?』

「確かに、言われてみればそうだな」


 最近、何かと沙織が居る事が当たり前になっているが、ほんの少し前までは白華と二人でやってきた。

 だから、別に近距離戦に限定されたとしてもそこまで問題ではないかもしれない。


 ただ――それで、ユキを守り切る事が出来るかはわからないが。


「ガンダルは少し遅れるんだったよな?」

『うん。兵士を纏めてから出撃するって言ってたから、もう少し掛かるんじゃないかな』

「わかっ――」


 白華の答えに返事をしようとした所で、前方から濃密な魔力の波動を感じた。

 他者を威圧し、弱い生き物の命をソレだけで奪える程に死の気配を感じさせる魔力の圧。ソレを肌で感じた時にはこの身体は近くの大木を蹴って上へと上がっていた。


「見えるか!?」

『――見えたっ!』


 背の高い木々よりも高く飛び、白華が指定する方向に目を向けてみれば森を抜けた先にある開けた場所で向き合う二つの塊が見えた。

 手前側が氷の国の軍だとして、奥に見えるのが魔王軍だろう。問題は、この距離では相手が何なのかわからないという事だ。


 俺は魔力感知やら気配感知に関してはほぼ能力がないと言っていい。

 そのため、こういうのは全て白華頼りとなってしまう。


亡霊騎士アンデットナイト……!!』

「強いのか!?」


 一度地面に着地してから、走り出す。


『私たちの時代でもAランクに分類される魔物だよ! この時代なら、Sは軽くあるかも……!!』

「どんな魔物だ?」

『剣と弓を使う魔物で、一体一体でも強いのにその統率力が凄いの! 昔の文献には国を滅ぼしたってよく出て来るよ』


 白華の言葉を聞いて思わず舌打ちしたくなった。

 個々の力が強いのはいいとしても、そこに統率力まで加わったら苦戦は確実だからだ。そもそも、あの戦場まではまだ距離がある。


「俺が辿り付くまで耐えられるか……?」


 一瞬、魔法を使って加速する事も考えたがソレは破棄する。

 さっき感じた魔力の圧――アレほどの圧を出せる相手は、俺も万全の状態で倒せるかわからない。ここで魔法を発動してしまったら、勝てる可能性が一気に下がるからだ。

 今の俺が使える魔法はよくて三回しかないのだから。


「『――ッ!!』」


 再度、あの叩きつけられるような魔力の圧が俺達を襲う。

 先程よりも圧が強く感じるのは、俺が確実に戦場へと近づいているからだろう。


「姿だけでも見れれば……」


 再度、近場にあった大木を足掛かりにして空中へと身を踊らせると、先程よりも戦場の様子がよく見えた。

 人間側は……どうにか拮抗しているか。

 だが、ジリジリと押されている事もあってそんなに長くは持たないだろう。


『――ユウ』

「ああ、俺も今見つけた……」


 そんな戦場の遥か先。

 そこに圧倒的な強者のオーラを纏って“ヤツ”は居た。


「……」


 黒い甲冑を身に纏い、右肩に赤いボロボロのマントを掛け、その手に持った大剣を地面に突き刺して立つ姿は圧倒的強者。

 もしも、最初からアレが戦場に出ていたのなら今頃、生きている人間は一人も居なかっただろう。


「……? ――マズイ!!」


 滞空限界を迎えてゆっくりと地面へと落ちる直前で、黒騎士は剣を地面から抜いていた。

 つまり、何かしらのアクションを起こそうとしている――ヤツが剣を一振りしただけで、何が起こるかわからない。


「――ッ!!」


 足元にあった大木の先端を蹴って再度空中へ。

 無理な体勢での跳躍だったために視界が反転し、頭が地面へ向く事になったが全て無視。


装填セットッ!!」


 魔法を準備しながら、懐から一本の鉄で出来た棒を取り出す。

 長さ20cmでそこそこの太さがある先端が尖ったソレは、何の変哲もない鉄の棒だ。


 元々、投げナイフを使っていたが、白華と契約したあの日に俺はそう言ったナイフでさえ触る事が出来なくなった。

 魔刀と契約した者は、魔刀以外の刃物を持つ事が出来ない――ソレは知っていたが、今まで使えていた投げナイフでさえ使えなくなるとは思わなかった。

 白華はこのことに対して『無意識に私が嫌がってるのかも?』と考察していたが、実際の所何もわかっていない。


 で、色々試した結果、禄に加工されていない鉄の棒なら問題ない事がわかった。

 つまり、コレは投げナイフの代わりだ。


「……っ」


 ダーツのように右手で持って振りかぶるように構える。

 風に吹かれ、揺れる視界の中で黒騎士はゆっくりとした動作で剣を振り上げている所だった。


 落ち着け、姿勢も何もかもが最悪だが何も問題はない。


「ふぅ……」


 目を細めて、時を待つ。

 狙うはヤツが剣を振り下ろそうとする瞬間だ。技の出さえ潰せばそんなに威力は出ないはず。


 全てがゆっくりと動く中で――時は来た。


発射インパクト!!」


 即座に魔法を発動し、鉄の棒を投擲する。

 その反動で俺の体はクルリと回転して、足が地面の方へと向いた。


「行けっ!!」


 放たれた鉄の棒は空気摩擦によって全体を赤く染め上げ、融解しながらも黒騎士の手元へと飛んでいき――


「……!?」


 ――黒騎士によって弾かれた。


 完璧なタイミングだった……だが、ヤツは超高速で飛来するアレを難なく弾いて見せたのだ。


『見られたね』

「ああ……」


 地面へと着地し、前方へと走り出す。

 白華の言う通り、俺が落下する中で黒騎士はゆっくりと俺の方を見て――笑った気がした。


「アイツはまた地面に剣を突き刺したが……何が起こるかわからないし、急ごう」


 走りながら、黒騎士とは確実に戦う事になると思った。

 そして、魔法を一回使ってしまった事を本気で後悔した。

白華「ねぇねぇ、風魔法の部隊って必要なの?」

裕「そりゃ、必要だろ」

白華「なんで? 別に軍隊の魔法士が担当すればいいと思わない?」

裕「それじゃ、戦場に到着する頃には魔力が尽きて――……」

白華「ユウ?」

裕「そういや、白華は魔力切れとか起こした事ないな……」

白華「え? うん。でも、サオリも魔力切れなんて起こした事ないよ?」

裕「精霊大弓って消費魔力量とんでもないはずなんだけどなぁ……」

白華「ユウ……? ……サオリー! ユウが遠い目したまま帰ってこなくなっちゃった!!」


掃除をしていた沙織「えぇ!? どういうこと!?」


裕「魔力が少ないのは俺だけか……」


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