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謁見

 馬車の乗り心地は良いとは言えないものだった。

 てか、これに長時間乗っていたら絶対にケツが痛くなる自信がある。

「そういえば、どうして俺が居るって……というか、俺の顔がわかったんだ?」

 気になった事を対面に座るシエルに聞いてみる。

 どうせ、王城に着くまで暇だしな。

「ミサキが言ったんです。ユウさんが王都に来ていると。そこで向かってみるとミサキに聞いていた風貌の男性が居たので……それに、その服装です」

 アイツ、どういう風に俺の風貌を伝えたんだろう?

 てか、よく俺がここに来たってわかったな。

「服装? あぁ、制服はこっちの世界では浮くか」

 だが、シエル姫が着ているドレスも結構な技術力で作られている気がするな。

「浮くことはありませんが、目立ちますね。前の勇者が服飾関係の技術を伝えてそのような服は作られてはいますが、それを着るのは裕福な家庭か服装をすごく気にしている人だけなので」

「なるほど」

「ところで、ユウさんは封印塔が崩れた事と何か関係が?」

 あぁ、いつかは聞かれるとは思っていたが……さて、どうやって誤魔化そうか。

 流石に自分が壊しましたって言うのはヤバいよな。

「あ~、封印塔ってなんだ?」

 俺が聞くと、シエルは微笑んで俺の腰に差してある凍華を指さした。

「その刀が封印されていた塔ですよ。ここには私とユウさんしか居ませんし、口外もしないので別に隠そうとしなくていいですよ」

「……バレていたのか」

「昔、調べていた事があるので私はその鈴でわかりましたね」

「ほかにもわかるヤツは居たりするのか?」

「研究者や……後は、王族ならばわかるかもしれませんね」

 そうなると、どうやって凍華を持ち込むかな。

 このままだと、捕まりそうな気がする。

「ユウさんには、この後父上……王と謁見して頂くのでこのままではダメですね」

 うへぇ、王と謁見とかしたくねぇ。

 露骨に俺が嫌な顔をしていたのか、シエルはクスリと笑う。

「ただ単に挨拶をするだけですよ。とても短い時間です」

 なら、いいんだけどな。

「そういえば、他の奴らはどうしてるんだ?」

「勇者様達はお姉様がお世話をしていますのでわかりませんが、他の方たちなら元気ですよ」

 ん?

 勇者は他の奴らと管轄が違うのか?

「あぁ、私は末っ子なんです。なので、王位継承権もないので……勇者様達のお世話は王位継承権を持つ者がするという仕来りなんです」

「そうだったのか……なんか、すまん」

「お気になさらないでください。将来はどうなるかわかりませんが、今は自由にさせてもらっていますので楽ですよ」

 シエルはそう言って笑う。

 そういえば、シエルは凍華の事を調べてた事があるって言ってたな。

 もしかしたら、俺の前世について何かわかるかもしれない。

「さっき、調べてたって言ってた事なんだけど――」

「興味ありますか!?」

 俺が聞くと、シエルは身を乗り出してきた。

 え、えぇ……?

「興味ありますよね! では、お話します!!」


 そこから、王城に着くまで俺はシエルから延々と俺の前世の話をされた。

 凍華に聞いたところ、いくつかは真実だが所々脚色されている部分があるらしい。


「っと、もう着きましたね」

 シエルの話が始まって20分くらい経っただろうか。

 そこでようやく馬車が止まった。

「あ、あぁ……そうみたいだな」

「残念です。もっと話したかったのですが……」

 いや、俺はもうおなか一杯です。

「まぁ、ユウさんは私の管轄になると思いますのでいつでもお話できますね!」

 マジかよ。

 正直、もういいんだけど……。

「そ、そうだな……」

 俺は引き攣った笑みを浮かべながら、シエルに返事をする。

『兄さん、少しお話があるのですが』

「どうした?」

『王族は私の存在を知っているらしいので、私が謁見についていくのは得策ではないと思います』

 まぁ、確かに。

 だけど、どうするかなぁ……。

『私としても兄さんから離れるのはとても不本意なのですが……そうですね。美咲さんのほうに先に合流させていただいてもよろしいですか?』

 美咲に?

 まぁ、確かに俺はクラスメイトたちとは仲良くないし、美咲の安否も実際に見てみないと何とも言えない。

「そうだな……じゃあ、途中まで一緒に行ってそこから別れよう」

『わかりました』

「桜花、起きてるか?」

『んー……』

 どうやら、まだ寝ているらしい。

 なら、桜花は連れていく事にしよう。丸腰は流石に怖いしな。

「シエル、謁見には武器を持ち込んでもいいのか?」

「え? 基本的にはダメですけど……それに、その刀はちょっと……」

 ダメなのか。

「コレに関しては、対策があるからいいんだけど……まぁ、わかった」

 桜花も凍華に連れて行ってもらおう。

 凍華と一緒なら、桜花に万が一何かあっても大丈夫だろうしな。

「それでは、移動しましょう。王がお待ちみたいです」

 執事らしき人物と何やら話していたシエルは、俺を先導して歩き出した。



「流石王城って感じだな」

 真っ白な壁に囲まれた廊下を歩きながら、俺はそう感想を述べた。

「みなさん、そう言うんですね。あっ、そろそろ王城ですよ」

 シエルの言葉に反応して前に目を向けると、大きな扉の前に兵士が二人立っているのが目に入った。

「そうか。ちょっと失礼」

 俺は大扉の少し手前で曲がり角を入る。

 シエルはそれに対して不思議な顔をしながらついてくる。

「凍華、人化してくれ」

 制服の下から凍華を鞘ごと抜いて床に立てる。

 凍華を抜いた時にシエルが息を飲んだのがわかったが、そこはスルーする。

 凍華が光り、収まった時には既に人化した凍華が立っていた。

「凍華、桜花も連れて行ってくれ」

「それでは、兄さんが丸腰になってしまいますが……」

「問題ない。何かあったらどうにかするさ」

「わかりました」

 俺が桜花を抜いて差し出すと、凍華はそれを割れ物でも扱うかのように受け取った。

「くれぐれも、頼んだぞ」

「兄さんも親ばかが進行してきましたね……大丈夫です。桜花ちゃんは命に代えても守り抜きますから」

 お前もなかなかの姉バカっぷりだと思うけどな。

 意気込んでいる凍華に苦笑を浮かべてから、シエルのほうに向きなおる。

「シエル、俺の案内が終わったら凍華達を美咲の所に案内してくれ」

「わ、わかりました」

 シエルは混乱しているのか、何も聞かずに頷いてくれた。

 ここで質問攻めにあわないのは助かるな。

「よし、じゃあ凍華はここで待機していてくれ。シエル、行こう」

「「はい」」

 二人の返事を聞きながら、俺はシエルと共に歩き出した。



 大きな扉の前に着くと、兵士がシエルの顔を見て敬礼する。

 その後、何やらシエルと共に話した後、大扉が徐々に開きだす。

「では、ユウさん。くれぐれも無礼のないように」

「ああ。あまり礼儀作法に自信はないけど、頑張るよ」

「はい。では、終わりましたら迎えに来ますね」

 シエルはそう言って俺にお辞儀をする。

 それに対して頷き、俺は大扉の中へと入っていく。

「……」

 大扉の中に入った俺が目にしたのは、大勢の人だった。

 両端に5人ずつ並んだ人と正面の王座に座った王。

 王の右隣に立つ女性。

 俺は少し進んでから、その場で頭を下げる。

「お主が、最後の召喚者か?」

「はい。一ノ瀬 裕と申します」

「ふむ……お主はどこで召喚されたのだ?」

 この質問に対して誤魔化そうとしても、俺はこの世界の地名を全然しらない。

 ここは、素直に答えるしかないか。

「悪夢の森と呼ばれている場所で目が覚めました」

 俺がそういうと、周りがざわつき始める。

「お主が、封印塔を破壊したのか?」

 王の言葉でざわついていた周りが静かになる。

 どうやら、威厳はかなりあるらしい。

「いえ……封印塔というのは、あの崩れていた塔の事でしょうか?」

「左様。あそこには大罪を犯した者が所持していた武器が封印されていたのだ」

 俺が聞くと、王はそう説明してくれた。

 大罪を犯した人物の現世があなたの目の前に居ますよ……。

「そうなのですか……ですが、あの塔が崩れ始めた時、私は既に悪夢の森から出る一歩手前と言った所でした。それに、仮に私があの塔を破壊したのであれば、丸腰だというのはおかしいと思います」

「ふむ……武器をどこかに隠してきているかもしれない」

「お言葉ですが、それほどの武器を隠す場所など召喚されたばかりの私には思い当たりません」

 正直、凍華が人化できる事を知っていたら終わっていた話だが、俺の前世について調べていたと言っていたシエルの反応を見る限り、知られていないと踏んだ。

「それもそうか……では、お主はあの塔の崩壊とは一切関係がない。そうだな?」

「はい」

「わかった。今はその言葉を信じよう……お主はこの国のために魔王を倒すと誓えるか?」

 この国のため、か。

 この世界のためではなく、自国を大事にするのか?

「善処させていただきます」

「貴様っ!!」

 俺の返事が気に入らなかったのか、左の方から声が上がる。

「良い。では、期待しておるぞ」

 王はその男性を制し、話は終わりだと遠回しに言ってくる。

「失礼します」

 俺はそれだけ言って王に背中を向けて歩き出す。

 周りからは殺意が籠った目線を向けられ、冷や汗が流れていくが……。

 すまないが、俺は国のために魔王を倒すなんてする気はないんだ。


 俺は、美咲達さえ守れればそれでいい……。


「感化されてきたかな……」

 前世の自分に思考が引っ張られている事に気づき、俺は苦笑しながら謁見をしていた部屋から出た。


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