水の王都エスティア
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ありがとうございます!
さてはて、この場をどうやってここから切り抜けるか……。
「へ、へへ……その鈴を無料で譲ってくれるなら、俺が口裏を合わせてやってもいいぜ?」
両目を抑えて悶絶していたマスティが状況を見て有利と踏んだのか俺に言ってくる。
コイツ、両目本当に斬ってやろうか。
「何と言おうと譲る気はない」
「なら、衛兵に尋問でもされてその後に手に入れるとしよう」
マスティはニヤニヤと下品な笑みを浮かべながらこちらを見てくる。
それと同時に衛兵の男が二人、こちらに走ってくる。
「おい! これはどういう騒ぎだ!」
衛兵の一人が俺達に聞いてくる。
「こ、コイツがいきなり目を攻撃してきたんだ!」
マスティが露骨に怯えたように衛兵に言う。
衛兵はこちらを見てくる。どうやら、俺に本当かどうか聞いてるようだ。
「……」
ここで本当の事を言ったとしても俺のステータスを調べることになるだろう。
そうなった場合、もしかしたら偽装したステータスでどうにかなるかもしれないが、マスティのレベルが想像よりも高くて偽装がバレるかもしれない。
偽装がバレた場合、どのような罪になるかわからないがリスクがあるのは間違いないだろう。
『兄さん、どうしますか? いっそ、全てを斬り捨てて逃げますか?』
凍華の言葉にそれでもいいかもしれないと一瞬思ってしまった。
「……いや、それは辞めておこう」
『では、どのように? 衛兵の目つきが結構険しくなって来ていますが……』
確かに、今にもコイツらは俺に飛びかかる勢いで睨んできている。
そろそろ、俺も何かアクションを起こさなければならないだろう。
そう思って口を開きかけた時、衛兵の背後から新たな衛兵が走ってきて何やら元々居た衛兵に耳打ちした。
「なに? それは、本当なのか?」
「はい。確かな情報です」
「そうか……」
衛兵は話終えると、こちらを一瞥した。
「シエル姫のご客人とは知らずに申し訳ない」
「は……?」
シエル姫って誰だ?
チラリとマスティを見てみると、顔を青ざめさせてこちらを見ていた。
この反応、本物の姫様っぽな。
『私もそう思います。打開案もないのでここは乗っておいてはどうでしょう?』
そうだな。
「ああ、こちらこそ紛らわしい事をして申し訳ない」
「いえ……では、こちらへ」
俺は衛兵に連れられて列を追い越して歩いていく。
その際にこちらを青い顔をしながら見つめる商人風の人間が数人居た事から、マスティと同じ事を考えていたヤツが居たんだなぁと思いつつも、無暗に鈴を鳴らすのはやめようと心に誓った。
「ご苦労様です」
城門の入り口まで来ると、そこには真っ白なドレスを着た女の子が立っていた。
年齢は目測だが、俺とあまり変わらないんじゃないだろうか。
「いえ、これが仕事ですので。一応、こちらでこの者のステータスをチェックしても?」
「ええ。それは、お願いします」
ドレスを着た女の子――おそらく、この人が件のシエル姫なのだろう――が返事をすると、すぐに衛兵は真っ白な紙を持ってきた。
「……コレは?」
「この紙の上に手を置いてください」
俺が疑問を口にすると、いつの間にか俺の近くに来ていたシエル姫(仮)がそっと小声で教えてくれた。
言われた通りに紙に手を置くと、淡い光を放ちながら紙に字が浮かんでくる……が。
「読めない」
そこに書かれた文字は読めない。
言葉は普通にわかるのに、文字は読めないのか。
『これは、兄さんのステータスが書かれていますね。ただ、偽装した通りになっているので問題はないと思います』
凍華が俺に教えてくれる。
そういえば、凍華はその状態の時にどうやって周りを見てるんだ?
『私と兄さんは、契約をしていなくても所持者となった段階でか細い線で繋がっているんです。その線を使って兄さんの視覚をお借りしています』
「それ、考えようによっては怖いな」
まぁ、何はともあれ偽装は成功したみたいだな。
「思っていたより、Lvもステータスも低いな……」
衛兵の一人……先に俺の所に駆けつけて来た二人の衛兵のうちの一人が小声でつぶやく。
「それは、どういう意味で?」
疑問に思って俺が聞くと、衛兵はシエル姫のほうに顔を向ける。
シエル姫が頷くと、衛兵は説明を始めた。
「私は、数年前までは最前線に居たのですが、そこで強者の気配というのを感じる技術を習得しました。私たちが駆け付けた時、あなたからは確かに強者の気配を感じたのです」
「なるほど……じゃあ、きっと勘違いだったか、あの近くに本当の強者が居たのでは?」
「そうかもしれませんね。これだから、歳は取りたくないのです。さぁ、チェックも終えました」
衛兵は笑いながら、俺に一枚の紙を差し出してくる
受け取って見てみるがやはり読めない。
『王都に入る許可証ですね』
「そうなのか。ありがとう」
凍華と衛兵に礼を言って、俺は王都にシエル姫(仮)と入る。
俺が王都に入るのと同時に、前を歩いていたシエル姫がこちらを振り向き、両手を広げる。
「ようこそ、水の王都エルティカへ!」
言われて、周りを見渡すと水の王都と言うだけあって色々なところに噴水が立っており、道の両脇には水路が設置されていた。
「ああ……さっきはありがとうございました。色々、助かりました」
俺が礼を言って頭を下げる。
「いえ、こちらも色々考えがあってした行動ですから。あっ……自己紹介がまだでしたね。私はシエル・ウェル・エルティカです。気軽にシエルでいいですよ」
どうやら、本当にこの国の姫様らしい。
「これはこれは、ご丁寧にありがとうございます。私は一ノ瀬 裕です。お目に掛かれて光栄です、シエル姫」
生憎、日本で貴族やらなんやらと会う事はなかったから、自己紹介やら敬語やらが間違ってるかもしれないが、そこは目を瞑ってほしい。
「シエルでいいと言いましたよ? あと、口調も崩してもらって構いません」
「ですが……」
「ミサキの幼馴染なのでしょう?」
「……っ!」
美咲の名前を出された瞬間、俺の脳内には『殺る』という考えしかなくなっていた。
『兄さんっ!!』
凍華の柄に手を掛け、少し抜いたところで凍華の声で我に返る。
「――はっ!?」
「……」
シエル姫はこちらを呆然と見ているだけだ。
『兄さん、前世に引っ張られないでください』
「……すまない」
前世の記憶を一部とはいえ取り戻した弊害か?
「お見苦しいところをお見せしました。美咲とは知り合いなんですか?」
「はっ!? なんだか、ユウさんがぶれたように見えましたが……?」
「ちょっと、眩暈がしただけです」
「そうですか……。それで、ミサキとの関係でしたよね? 私とミサキは友達なんです」
シエル姫はそう言って嬉しそうに笑う。
その顔は嘘をついているわけではなさそうだ。
『この人は、信用できると思います』
どうして、そう思う?
『魔力が透き通っていますから。余程純粋な人でなければ、ここまで透き通る事はありません」
今まで、凍華には世話になってるしそれで間違えたことはない。
ならば、ここは凍華を信じるか。
「そうだったのか。シエル、アイツは元気なのか?」
とりあえず、言われた通りに口調をいつものに戻すと、シエルは嬉しそうに微笑んだ。
「はいっ! とてもお元気ですよ」
「なら、いいんだ」
「ユウさんの事もとても気にしていますけどね。とりあえず、王城へ向かいましょう」
シエルはそう言ってすぐそこに止まっている場所に向かって歩き出す。
それに追従しながら、俺は美咲に会える事に自分でも驚くほどに胸が高鳴っている事に驚いていた。




