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偽装

王都に入るための門が近くなるにつれて、チラホラと俺以外の人も見るようになってきた。

「ほぇ~、こういうのを見ると本当に異世界に召喚されたって感じがするな」

 すれ違う人々は俺とは全然違う服装であり、たまに馬車なども通る。

 現代日本では絶対に見れないような光景だ。

 その光景を横目に歩いていると、凍華による桜花への魔刀講義も終わりに近づいているみたいだった。

『そして、最後に私達には属性が一つだけ付属されています。例えば、私ですと氷属性が付与されていますね。こういうのはすぐにわかるのですが……桜花ちゃんはわかる?』

『んー……わかんない』

『そうですか……刀身に顕著に現れるので刀身を見ればわかったりますけど……』

「桜花の刀身は峰の部分が白で刃の部分が黒だったな」

 俺がそう答えると、凍華は考え込む。

『なんでしょう……闇属性、だったら刀身は真っ黒になるはずですし……』

「凍華、それを考えるのは後にしよう。そろそろ王都が見えてきたぞ」

 俺の目の前には長い列が見え始めて来た。

 どうやら、王都に入るための検問の列だろうか。

「てか、何やら凄い視線を感じる気がする」

 先ほどから俺の近くを通り過ぎる人々がやけに俺を……というか、腰に差した二人を横目で見てはそそくさと逃げていく。

『兄さん、一つ提案したい事が……』

「ん? どうした?」

 凍華の言葉に俺は足を止める。

『今すぐ私達に布か何かをかぶせた方がいいと思います』

「それは、何でだ?」

『桜花ちゃんはともかく、私は世間に形が広まっています。何より過去の出来事で恐れられていますから、もしかしたら大変な事に巻き込まれる可能性があります』

 なるほど。

 確かに、前世の俺が使っていた得物として凍華の認知度は高いだろう。

「かと言って、布なぁ……俺の手持ちにないんだよなぁ……あっ、コレでいいか」

 俺は制服の上着を脱いで、腰に巻く。

 凍土は柄と鞘の先っぽだけが少し見えており、桜花は完全に制服に隠れる。

「うん、コレでいいだろう。ちなみに、検問ってどんな事するか知ってるか?」

『そうですねぇ……ステータスのチェックをすると聞いた事がありますね。犯罪を犯すとステータスに表示されたりしますから』

 ステータスを確認されるのか。

 流石に、俺のステータスが異常なのはわかるし、コレを見られたら何かしらの騒ぎに発展する事は簡単に想像できる。

「そう考えると、このまま入るのは不味いな」

 俺は、街道から離れて近くの林に入る。

 いい感じの木漏れ日が差し込む場所を見つけて、そこに座り込み目を閉じる。

「前世の俺なら、何かしらいいスキルを覚えていたはずだ」

 目を閉じて前世の記憶を辿ると、それらしきスキルを使ってステータスを偽装している

シーンとついでに王国の騎士相手に姿と名前を変えて手加減して戦っているシーンが脳内に浮かぶ。


【スキル:模範剣技】により【スキル:偽装】【スキル:手加減】【スキル:変装】【スキル:短剣術】を習得しました。


 脳内に聞いたことがない声が聞こえた。

 それと同時にステータスを開くと、先ほど言われたスキルがきちんと表示されており習得できた事がわかった。

 さっそく、【スキル:偽装】を使って適当にステータスを変えていく。


名前:一ノ瀬 裕

種族:人間

性別:男性

職種:刀剣士Lv.234(アサシン:Lv.20)

魂Lv:73(非表示)

MP残量:21000/45000(非表示)


STR:56400(200)

DEX:66000(200)

VIT:53000(200)

INT:20000(100)

AGI:110000(300)


称号:異性界者(非表示)、前世を思い出す者(非表示)、王女の加護(非表示)、運命の女神の加護(非表示)、魔刀の父(非表示)、偽装(非表示)、手加減(非表示)、変装(非表示)、短剣術


スキル:刀剣マスター(非表示)、超級鑑定眼(鑑定眼)、縮地、軽足、俊足、見切り、模範剣技(非表示)、スピードアップ、魔力石付与術(非表示)


EXスキル:刀剣術(非表示)、一ノ瀬流刀剣術(非表示)


「うん、まぁこんなもんだろ」

 俺は偽装したステータスを眺めながら頷き、その出来に満足していた。

 てか、【スキル:模範剣技】って見たスキルを習得できるってスキルだったのか。

 結構チートじゃね?

『兄さん出来ましたか?』

「ああ、我ながら上手くできたと思ってる」

『職業は何にしましたか? 流石に、そのままではダメだと思うんですが……』

「短剣術を習得したから、アサシンにしてみた。アレ? アサシンって職業あるよな?」

『ありますね。ちょうど短剣術も使うのでいいと思います。ですが、武器などはどうするんですか?』

 凍華の言葉に俺はハッとする。

「武器無しじゃまずいかな?」

『まずくはないと思いますけど……少しだけ怪しまれるかもしれませんね』

 確かに、職業がアサシンでLvも若干ある人間が武器無しっていうのは色々怪しいかもしれない。

 それに、武器を隠してると思われて凍華を無理やり見ようとしてくるかもしれない。

「桜花でどうだろう? 一応、小太刀も短剣みたいなもんじゃないか?」

『そうですねぇ……まぁ、それでどうにかなるかと』

 凍華の言葉を聞いて、俺は制服の下に凍華と一緒に隠していた桜花を鞘ごと腰から引き抜いて右腰に差す。

「アレ? そういえば、桜花がさっきから静かだな?」

『桜花ちゃんなら、ちょっと前から寝ていますよ』

 そうだったのか。

 桜花の柄を一撫でしてから、俺は再度街道に出て王都に向かって歩き出す。

 検問の列はそんなに進んでいなかった。

「これは、結構時間が掛かりそうだな」

『そうですね。このままのペースなら一時間半後くらいでしょうか?』

「そんなに掛かるか……まぁ、気長に待ちますか」

 俺は、自分の番が来るのをだらだらと待つことにして、これからの事を考える。

「なぁ、凍華は何かしたい事とかあるか?」

『そうですねぇ……強いて言うのであれば敵を斬りたいですね。あとは、桜花ちゃんを立派な魔刀にする事くらいでしょうか?』

 凍華の回答に俺は苦笑を隠せなかった。

 コイツは人化した時の見た目がいかに美少女でも……いかに人の言葉を介したとしても、根っこの部分は武器なのだと再認識した。

「そうか。まぁ、冒険者にでもなれば嫌でも敵は斬れるだろうさ」

『それは、とても楽しみですね』

 本当に嬉しそうに言う凍華の柄を撫でてついでに鈴も鳴らす。

「いい音だな……」

 凍華の鈴の音はどれだけ周りが騒がしくてもきっと聞こえるだろうと思えるほど透き通っている。

『ありがとうございます……あっ、兄さん誰かが近づいてきます』

「ん……?」

 俺は凍華の言葉に反応して戦闘態勢まで気持ちを持ち上げる。

 ついでに、いつでも凍華を抜き放てるように左手で制服の上から凍土の鞘を持ち、親指で鯉口を少しだけ切っていつでも抜刀できるようにする。

「あの……少しいいですか?」

 声に振り返ってみると、そこには小太りした男性が立っていた。

「なんだ?」

 警戒を解かずに俺は身体を向ける。

 返事をもらえた事が嬉しかったのか男性はニコリと笑う。

「初めまして、私商人をしております、オールド・マスティと申します。つかぬ事をお聞きいたしますが、先ほどの鈴の音は貴方が?」

「さぁ、何のことかわからないな」

「御冗談を。その腰についている鈴が先ほどのとても美しい音の鈴で間違いないでしょう? こう見えても耳には自信があるんです」

 どうやら、オールド・マスティと名乗る男は確信をもって俺に話しかけているらしい。

「はぁ……じゃあ、あの鈴の音が俺の持ち物から出た音だとしたらどうなんだ?」

「是非ともお譲りいただきいたいのです。今なら金貨2000枚お支払い致します」

『ちなみに、この世界での一般的な収入は月銀貨5枚ほどですね』

 凍華が補足してくる。

 金貨2000枚となると、相当高額って事だ。 

 まぁ、確かにこの先何があるかわからないから金は欲しいが……。

「断る。残念ながら売り物じゃないんでな」

 だからと言って、凍華の物を売る気はない。

「そうですか……」

 男性の両目がキラリと光った気がしたのと同時に男性は目を押さえてうずくまった。

「ぐああああ!!」

「お、おい。大丈夫か?」

 俺が手を差し伸ばすと、男性は恐怖心を顔に貼り付けて後ずさる。

「なんだ……?」

 男性を訝し気に見ていると、凍華がため息を吐いた。

『どうやら、鑑定を兄さんに発動したみたいですね。いくら偽装していると言っても兄さんとこの男性ではレベル差がありすぎるので、反動で目にダメージが入ったのでしょう』

 そういう事があるのか。

 あまり、むやみやたらに鑑定をするのは辞めておこうかな……。

『あわよくば、襲って奪おうとでも思ったんじゃないですか?』

 凍華が説明するのと同時に周りが騒がしくなっている事に気づいた。

 どうやら、俺がこの男性に何かをしたと思われたらしい。

 遠目に衛兵がこちらに走ってくるのも見えている。

「これはこれは、面倒な事になりそうだな……」

 俺は、ため息を吐きながらここからどうするかを考え始めた。

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