デメリット
「うおおおおおおおおお!!」
塔から脱出したのはいいが、俺は現在進行形で落下していた。
凄い勢いで地面が近づいてきているのを見ながら、俺は冷や汗を流しまくっている。
「凍華! 上手く着地する方法とかあるか!?」
『……足に魔力を集中すればどうにかなると思います!!』
『パパ、がんばてー!』
凍華は打開案を言ってくれるが、桜花はどこか能天気だった。
パパのピンチなんですけどねぇ!!
「足に魔力……こうか!?」
凍華達に魔力を注ぎ込んだ応用で足に魔力を集中させるのと同時に俺は地面に勢いよく墜落した。
ズドンッという音と共に地面にクレーターが出来て、土煙が舞う。
「ゲホゲホッ! ふぅ……い、生きてるな」
『兄さん、人間が近づいてきています。急いで離れた方がいいかと……』
「わかった」
凍華の言葉に従って俺は土煙に紛れてその場から移動した。
てか、よく人の気配とかわかるな……。
塔から王都に続く街道に出た俺は走るのを辞めて歩き出した。
『つまり、桜花ちゃんは私と同じ魔刀なんです』
『そうなんだ~』
逃げ居ている間に凍華は『桜花ちゃんを立派な魔刀に育てます!』と言ってずっと説明をしている。
『魔刀にとって、信頼できる主に使ってもらい敵を斬る事こそが誉れなんです』
『ほまれー?』
「まぁ、嬉しいとかそう言った感じだ」
『わかったー! ほまれー!』
俺が補足すると、桜花は意味が本当にわかっているかどうか分からない感じで喜んでいた。
『そして、魔刀が真価を発揮するには主に対価を払ってもらう必要があるんです』
『たいか?』
『そうです。まだ兄さんは行っていませんが、対価を払ってもらう事で私たちは本当の力を引き出す事が出来ます』
前に凍華が話していたやつか。
確か、前世では腕とか渡してたよな。
『対価はこちらから指定するんです。私達が兄さんの何が欲しいのか。それを渡す力と比較して対等であれば契約は成立します』
「対等じゃないとダメなのか?」
ついつい、俺も気になって口を挟んでしまう。
『はい。対等でないとダメなんです。対等でなかった場合、契約は成立しません』
「へぇ~……ちなみに、凍華の対価は?」
『私の場合は、左腕ですね』
「そうなのか。桜花は?」
『ん~……!! わかんない!!』
『桜花ちゃん。自分の内側に語り掛けるんですよ。そうすれば、わかります』
「いやいや、桜花は生まれたばかりだろ? そんな事、出来るわけがない」
『できるもんっ!!』
俺が凍華に苦言を呈すと、桜花はそれが気に入らなかったのかムッとして考え始める。
『兄さんは子供心がわかっていませんねぇ……』
考え込む桜花の声が脳内に響く中、凍華が呆れたように呟く。
子供なんて育てた事ないんだから、仕方ないだろ。
大体、俺はまだ未成年だ。
『こちらの世界では15歳で成人ですよ?』
「そうなのか?」
『はい。まぁ、お酒などの趣向品に年齢制限はないので、成人したら家を継いだり逆に出家したりするくらいですけどね……あぁ、職業選定の儀がありましたか』
「職業選定の儀?」
『はい。まぁ、自分の潜在能力の中で一番高い物がステータスの職業に表記されるようになるってだけなんですけどね。ただ、それによってステータスの上がり方が変わるので、こちらの世界ではとても重要視されているんですよ』
そうなのか。
そういえば、俺の職業って前は学生って書いてあったけど今はどうなってるんだ?
ちょっと、確認してみるか……。
『わかったぁ!』
俺がステータスを開こうとしたとき、桜花の元気な声が聞こえた。
『え? 桜花ちゃん、わかったんですか?』
凍華は困惑したように聞き返す。
『うんっ! パパの目が欲しいの!』
『目……そうですか。基本、魔刀は嘘をついてまで主の部位を欲しがることはありませんから、これは本当の事なんでしょうね』
「こんなに初期にわかるのは異常なのか?」
『異常……とまでは言いませんけど、かなり早い方ですね。通常ならばもっと敵を斬って刀として成長した時に自然とわかるものなんです』
現に、私がそうでした。と凍華は真面目に語る。
なるほど、つまり……。
「俺の娘が優秀すぎるって事か」
『兄さん……親ばかになってますよ? 少し前までは、俺の娘じゃない! とか言っていたのに』
「だって、桜花が俺の事を父親と呼ぶならきっとそうなんだろ? それに……こんなに可愛いんだからこの際義父でもいいかなぁって思ってさ」
『まぁ、気持ちはわかりますけど……あっ、安心してください。桜花ちゃんは完全に兄さんの子供ですよ。魔力がほぼ同じですし』
「魔力でわかるのか?」
『わかりますね。この世界では、同じ魔力は存在しないんです。ただ、血縁者同士だと魔力の質などが似ますので、それで判断する事が出来るんです。あぁ、ちなみにこの同じ魔力はないというのを冒険者ギルドなどで使われるギルドカードに利用されてたりしますよ』
なるほど。
偽装やなりすましは出来ないようになっているのか。
そこまで話して、凍華は桜花に魔刀の心得を再度話始めたので、俺は自分のステータスを確認する事にした。
「オープン」
別に口に出す必要はないが、なんとなく言いたくなった。
ほら、言った方がカッコいいかなぁって思うじゃん?
名前:一ノ瀬 裕
種族:人間
性別:男性
職種:刀剣士Lv.234
魂Lv:73
MP残量:21000/45000
STR:56400
DEX:66000
VIT:53000
INT:20000
AGI:110000
称号:異性界者、前世を思い出す者、裏切り者の加護、魔王女の加護、運命の女神の加護、魔刀の父
スキル:刀剣マスター、超級鑑定眼、縮地、軽足、俊足、見切り、模範剣技、スピードアップ、魔力石付与術
EXスキル:刀剣術、一ノ瀬流刀剣術
「ん……!?」
おかしい。俺のステータスがバグってる。
てか、今まで書いてなかったものまで書いてないか?
『兄さん、どうしました?』
『ぱぱー?』
「あぁ……いや、なんかステータスがおかしくてな……」
俺は、立ち止まって再度ステータスを見るが、何度開き直しても表示されている内容は変わってなかった。
『兄さん、職業を得たりしてませんか?』
察しがいいのか凍華がそう言ってくる。
「ああ、刀剣士になってるな」
『レベルは?』
「234だ」
『なるほど……それはたぶん、お兄ちゃんを倒した時に得た経験値でレベルアップしていますね。それに、私たちを実戦で使ったことで職業を得たのかと……ちなみに、MP残量はあとどれくらい残っていますか?』
「あと21000だな……てか、凍華詳しいな?」
『お兄ちゃんも同じことをやっていたので、覚えていたんです。21000ですか……いささか心許ないですね』
「こういうのって、自動回復したりするんじゃないのか?」
創作物だと、MPとは自動回復したりするものだと書かれる事が多いから、そういうイメージがやはり強い。
『通常の職ならば、その認識で合っています。ただ、刀剣士の場合はそうじゃないんです。刀剣士のMPとは使い切りであって、元々持っていたMPを使い切った場合回復する事は二度とないんです』
なんだと?
それが本当だとしたら、俺は残り21000のMPを使い切ったら魔法が何一つ使えなくなる。
それだけならまだいいが、スキルも使えなくなったりしたら生きていく事さえこの世界では困難と言えるだろう。
「それじゃあ、どうするんだ? MPなしの状態で純粋な技術のみで戦っていくのか?」
『いえ……そのために私たちが存在しています。剣術士と魔刀はお互いが揃って初めて一つの完成形なんです』
「どういうことだ?」
『私たちに対価を払い契約する事で、私たちが保有しているMPを兄さんに譲渡する事が出来るんです。そして、私たちはMPを自動回復します』
そういうことか……。
つまり、純粋な技術以外で戦わなければならない場合、俺は凍華や桜花に対して腕や目を差し出さなければならないのだ。
「……すまんが、契約に関しては保留にさせてくれ」
『勿論です』
俺は、お礼も込めて凍華の柄を一撫でしてようやく遠目に見えて来た王都に向かって歩みを再開した。
 




