塔からの脱出
さて、ここにずっと居てもやる事はないし、とりあえず王都にでも行こうと判断したまではよかったがここで問題が一つ。
「この塔って、どうやって出るんだ?」
現在俺たちが居るのは、外の景色から判断するに塔の最上階だろう。
結構な高さがあるこの塔から飛び降りるのはまず不可能。
となると、下っていくしかないんだが階段はどこにも見当たらない。
『飛び降りてはどうですか?』
凍華が普通の事を言うようにそう提案してくるが、俺はお前らみたいに頑丈には出来ていないから無理だ。
「それ以外だと、何かないのか? 例えば、階段とかさ」
『そうですねぇ……気づいた時にはここに居たので……』
なるほど。
ん? てか、気づいたらここに居たってどういう事だ?
『あぁ、私はあの戦いが終わった後に眠りについたんです。私が保有していた魔力が底を尽きてしまったので』
その戦いについてはよく思い出せていないが、魔力が底を尽きるほどということは想像を絶するほどの激戦だったのだろう。
「なるほどな……」
確かに、凍華が起きて居たら触った人の腕を斬りおとしてるもんな。
『パパー』
どうするかと考えて居ると、桜花が俺に話しかけてくる。
「どうした?」
『かいだん、あそこにあるよー?』
脳内に桜花が見ている場所が浮かんでくる。
それは、今いる部屋の端のほうにある壁だった。
「ふむ……」
一見壁にしか見えないが、この子がそう言うのであれば調べてみる価値は十分にあるだろう。
「てか、未だに娘が出来たなんて思えないけどな」
自嘲気味に笑いながら、壁に近づいて触ってみる。
手に石特有の冷たさが広がる。
「うーん……?」
やはり、ただの壁だったのか。
全体的に触ってみたが、どこにも仕掛けがあるとかではなくただの壁だった。
『いっそ、壊してしまってはどうですか?』
「壊していいのか?」
『いいんじゃないですか? 桜花ちゃんもこの先に階段があると言っていますし……』
まぁ、こんな壁を壊したところで誰かがこの塔を見に来るとは思えない。
そもそも、壊した後に早急に脱出すれば俺が犯人だってバレないし責任を追及されることもないだろう。
「よし、壊すか」
凍華に手を掛け、右足を一歩前に出す。
腰を落として若干前のめりになり、対象を見据える。
所謂、抜刀の構えだ。
「ふっ……!!」
一気に凍華を抜刀して、壁を斬りつける。
「……あれ?」
俺の予想だと、これで壁が崩れる予定だったが凍華は壁に弾かれて傷一つ付ける事はできなかった。
『思った以上に頑丈みたいですね」
「そうみたいだな。ただの石なら斬れるはずだったんだが、どうやら普通じゃないらしい」
まぁ、冷静に考えれば極悪非道の限りを尽くした前世の俺が使った武器だ。厳重に封印されているのが普通だよな。
「まぁ、でも……本気を出せば壊せない事もないか」
先ほど斬った感覚的に、俺の中で誰かが壊せないことはないと言っている。
ならば、それに従って全力で当たらせてもらおう。
『え? あの、兄さん……全力を出す必要は……』
「桜花、力を貸してもらうぞ」
『はーい!』
凍華はどこか困惑しているみたいだが、ここでもたついている暇はない。
桜花を抜いて、左手に持つ。
「すぅ……はぁ……」
集中。
身体に流れている魔力を自覚し、それを凍華と桜花に流し込むんだ。
前世の記憶を頼りに俺は魔力を二人に流し込んでいく。
『うっ……!? 兄さん、これは多すぎです!!』
『パパぁ……』
「えっ? あっ……まぁ、抜くことは出来ないからこのままいくぞ!」
どうやら、集中しすぎて流し込み過ぎたみたいだが、抜く方法はわからないからそのまま振るうしかない。
「ふっとべえええええええ!!」
両手を振るい、壁を斬りつける。
すると、膨大な魔力が俺たちを包み込み――。
その日、王城に居た人々はその光景を目にした。
王都に居た人々はその音を聞いた。
封印塔が轟音を建てて、崩れるところを。
「なっ、なっ!?」
シエルはその日も美咲と一緒に訓練場で勇者達の訓練を見ていた。
だが、その時に轟音がして外を見てみたら封印塔が崩れ去っていくところだった。
「というか、何ですかこの膨大な魔力は!?」
何百年も傷一つ付いた事がないと言われている封印塔が崩れているのも目を疑う光景だが、それ以上にそこから漏れ出している魔力にシエルは目を疑った。
その魔力は今まで感じたこともないレベルであり、人間が出せるとは到底思えない程だったのだ。
「シエル姫ー!!」
驚愕しているシエルの元に一人の騎士が走ってくる。
「至急、お伝えします! 封印塔が何者かによって破壊されました!」
「……見ればわかります」
「そのため、安全策のために移動を……!」
「ここには勇者様達がおります……それよりもお父様たちの安全を優先してください」
シエルの言葉に迷う騎士。
「大丈夫です、私たちが守りますから」
シエルの隣に座っていた美咲が、騎士にそういうと騎士はしばらく考えていたが、お辞儀をして走り出していった。
「ねぇ、シエル……あの塔って崩れて大丈夫なの?」
走り去った騎士を見送った後、未だ崩れゆく塔を眺めながら美咲が口を開く。
「大丈夫ではないですね……あそこには、一振りの魔刀が封印されています」
「魔刀って、前に話してた?」
「はい。最上位の魔武具ですね……それが、何者であれ誰かの手に渡ってしまったら大変なことになるでしょう」
シエルは思った。
あの塔を破壊したのは、最近なりを潜めている魔族たちかもしれないと。
だとしたら、そこからこちらが受ける被害は想像を絶する事になる。
「もしかしたら、ミサキたちに戦ってもらうかもしれません」
そう美咲に言ってから、シエルは再度塔を眺めた。
一方、塔を壊した張本人である裕は現在進行形で落下していた。
「やっばいなコレ……どうすっかなぁ」
『兄さん、冷静に考えている場合じゃないですよ!?』
『たのしー!』
落下しながらも考え込む裕に対して凍華は突っ込んでいた。
桜花は、この落下をアトラクションか何かと思っているのかとても楽しそうだ。
「とは言ってもなぁ……コレ、流石にこのまま落ちたら死ぬよな」
裕は周りを見渡す。
所々に階段らしき物は見えるが、裕が落下している場所からは遠すぎる。
加えて、上からは瓦礫が降ってきている現状だ。上手く階段に着地したところで上から瓦礫に押しつぶされてぺしゃんこになる未来しか見えない。
「よし、一か八かやってみるか」
裕は空中で身体を捻って今まさにこちらに落ちてきている瓦礫に足を付ける。
「よっと!」
そのまま瓦礫を蹴って次の瓦礫へ。
その次も蹴って次の瓦礫へと裕はどんどん壁際まで移動していく。
「凍華!」
『わかってます! いつでもいいですよ!!」
裕は凍華に魔力を込めて、一気に振りぬいて壁を破壊する。
そして、瓦礫を蹴って再浮上して穴から塔の外へと脱出したのだった。




