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先へ進むために①

 廊下は黒に染め上げられており、そこに足を踏み入れれば身動きが取れなくなる事はこれまでの戦いで熟知していた。故に、壁を蹴り、壁を走り、その漆黒の巨体を持つ狼へと接近し、白華《しろか》を振るう。

 漆黒の狼は俺を迎撃しようと何かの魔法を放つが、それを空中で身を翻す事で避け、どうしても避けられないような魔法は背後から飛んできた銃弾が相殺してくれる。

 今も乾いた音と共に飛んできた銃弾が死角から迫ってきていた魔法を撃ち落とした。魔法って撃ち落とせるんだなぁと思いつつも一切の油断なしに狼の首を両断する。


 この狼との戦闘も初めてではない。

 たまたま地下へと続く階段を見つけ、進んできたのがかれこれ一時間前でありコイツらはその時から出現していたのだから。


「終わったか……」


 白華を鞘へと納めながら、靄となって消えていく狼を見つめる。

 周囲に気配はなく、とりあえずは戦闘終了だと心を落ち着かせる。


「お疲れ様です」

「ああ、フェルもありがとう」

「いえ、私は何も……」


 いつの間にか近くまで来ていたフェルに礼を言うと、もう何回聞いたかわからない謙遜を口にする。

 最初、この小さな身体で本当に戦えるのか? と疑問にも思ったが、そんなものは杞憂であると言わんばかりにフェルは俺のサポートを完璧にこなしてくれていた。

 今まで、なんやかんやと一人で戦う事が多かったから誰かに合わせるという戦い方が出来ないにも関わらず、フェルは何の苦労もなく俺に合わせてくれているような気さえする。


「ユウ様、一つだけご報告しなければならないことがあります」

「……? 何かあったのか?」


 どこか怪我でもしたのだろうか?

 今までは翠華《すいか》が知らないうちに回復してくれていたし、軽い怪我だったら佐々木が治療してくれたりしていたが、今は二人ともここには居ない。

 回復役《ポーション》なんて物がこの世界に存在しているか知らないが、そういう物も持っていない。


「実は……コレです」

「銃弾が六発?」


 フェルが掌に乗せて見せてきたのは六発の銃弾だった。きっと、彼女が持っているライフル専用の銃弾なんだろう。


「コレが残りの弾となっております」


 その言葉で俺はハッとした。

 そうだ。俺は刀という決して消費することのない武器で戦っているが、彼女が持つ武器は銃弾という物が存在しなければ戦う事が出来ない物だ。そして、ソレは有限なのだ。


「そうか……それじゃあ、出来るだけ温存してくれるか? もしかしたら……いや、確実にこの先で使わなければならない場面があると思う」

「……承知しました」


 自分が無力となってしまう事が嫌なのか、唇を噛みしめながらフェルは頷いた。

 まだ出会って少しの時間しか共にしていないが、この子がどういう子なのかはある程度理解していた。

 要は、自分には戦う事以外に存在意義がないと思っているのだ。いや……正確には、俺が彼女に求めている事は“戦う事”だと思っている。だから、戦えなくなった自分は用済みとなり捨てられるとさえ考えているのかもしれない。


「あー……別に、戦えなくても置いてったりしない。だから、その、安心しろ」

「……っ! はい」


 どこか気恥ずかしくて目を逸らして言ったが、どうやらフェルにはちゃんと伝わったようだ。


「あと、コレを渡しておく。使うときはないと思うけど、一応な」


 手渡したのはエスティア王国で買ったナイフ。あの時に予備も含めて三本買ったのに既に最後の一本となっていた。

 フェルは実際のところはわからないが、見た目だけなら15歳とかそこら辺で身長もギリギリ150cmを超えているかどうかくらいしかない。だから、このナイフを持って白兵戦をやれなんて事は言わない。あくまで、護身用だ。


「あの……丈夫な紐などもあれば貸していただきたいのですが」

「紐? 紐かぁ……なら、これでもいいか?」


 懐からいつぞや右手に巻き付けるのに使ったワイヤーを取り出してフェルに渡す。何に使うのかはわからないが、コレの頑丈さは俺自身が知っている。


 フェルはワイヤーを引っ張ったりしてから小さく頷いた。


「はい、コレなら大丈夫そうです」

「そうか。なら、先に進むとしよう」


 再び歩き出し、たまに出てくる漆黒の狼を倒しながら進み続けるとホールのような広い空間に出た。


「ここは……」


 何があったもいいように白華に手を掛けながら進む。

 こんな地下で何かを燃やしたのかどこか煙臭く、一定間隔で立っている蝋燭のおかげで真っ暗というわけではないが、それでも視界はいい方ではない空間を進む。


「あら……こんな所で何をやっておるのじゃ?」

「――」


 声がした方を見てみれば、太い柱の後ろからヴェルザイムの王女であるリル・ベラ・ヴェルザイムがその隣に何時ぞや俺にいきなり襲い掛かって来た少女を連れて、ゆったりとした動作で出てくる。


「いやなに……ちょっと探し物をしていたら迷い込んじゃってさ」

「おやおや、それは大変じゃのぉ……では、妾達が上へご案内しようかの」

「それには及ぼない。どうやら、探し物はこの先にあるみたいでさ」


 今まではよくわからなかったが、地下に降りてから確実に凍華達に近づいているのがわかってきていた。

 それ故に、ここで引くわけには行かない。それに、リルには聞きたい事もある。


「ふぅむ……それは、困ったのぉ」


 口ではそんな事を言いながらも、リルの表情はどこか微笑んでいて全然困ったという事を感じさせない。

 それどころか、この先に起こる事を予見しているかのようだ。


 まぁ、ここまで来て何も起こらずに通してくれるとは思ってないけどさ。


「それで? 大人しく通してくれるのか?」

「……最初はそれでもいいと思っていたのじゃが……“願望の少女”をお主がその手に収めた今、どうやらそういうわけにもいかないようじゃ」

「願望の少女……?」


 それは、フェルの事だろうか?


「ふむ。お主は何も知らないと見える……が、それも因果か」

「何を一人で――ッ!!」


 瞬間、殺気。

 反射的に動いた右腕が白華を抜き放ち、フェルを庇うようにして立つ。剣先は真っ直ぐにリルへと向けられており、今すぐにでも斬らねばならないとさえ感じた。


「そう急くな。こういうのは楽しまなければ損というものじゃろ?」


 こっちには余裕なんてものは無いのとは逆にどこか余裕そうな表情を浮かべたリルは少女へと手を伸ばした。

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