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交差

 失った物も多い。

 失った者も多い。

 失った記憶も多い。


 様々な“もの”を切り捨てて歩き続け、たった一つの“者”だけを手に入れた。

 俺は、俺の軌跡に後悔はない。



―――――



 俺が記憶を失うのを怖がっている?

 俺が佐々木達よりも自分の記憶を優先している?


「――ッ!!」


 白華しろかを一気に抜き放つ。

 刃は衝撃波を生み出し追跡者チェイサーが立っていた場所を両断し、そのまま遥か先まで切り裂く。


『ユウ……』

「大丈夫……大丈夫だ。俺は……大丈夫だ」


 白華を鞘へと納める。

 何も、言い返す事が出来なかった。確かに、あの瞬間に俺は自分の記憶が欠けてしまう事を恐れた。だが、ソレは佐々木を見捨てるとかそういうわけじゃない。

 何としてでも、助ける。


「行こう……気配はわからないが、一部屋ずつしらみつぶしにして探すしかない」

『うん』


 歩き出しながら、俺は思う。

 果たして、この城の中に居るのか、と。



―――――



「ここも、ハズレか」


 もう、何部屋目になるのかもわからない空き部屋を眺めながら呟く。

 一国の城というだけあってその部屋の数は途方もない数であり、こうしている間に佐々木達に何かあったらと思うだけで焦燥感に駆られる。

 だが、その中でも心のどこかで「焦っても意味がない」と“俺ではない俺”が語り掛けて来る。コレは今までの戦いで並行世界から借りた俺という存在の残滓だ。コイツらは戦いが終わってからも俺の内側に残り続けている。


「……ん?」


 自らの内側に住まう存在について考えていると、どこからか微かに歌声が聞こえてくる。

 その声は子守歌のようにスッと俺の中に入ってくるが、それでいてどこか物悲しそうだ。一体だれが歌っているのか。


「こっちか?」


 歌声に誘われるように歩みを進める。一歩踏み出すごとにその声はハッキリと聞こえるようになっていき、不思議と脈数が跳ね上がる。


「……」


 そして、今まで見て来たのと同じ何の変哲もない扉の前。

 ドアノブに手を掛けたが、どうやら鍵が掛けられているようで開かなかった。ならば無理やりにとも思ったが、相当強固な鍵のようでドアノブごと壊すという方法では無理だった。


『斬る?』

「まぁ、ソレしかないよな」


 二歩引いてから白華に手を掛ける。

 精神を統一し、扉へと向かって一気に抜き放つ。若干の抵抗を感じるがソレさえもねじ伏せるつもりで力を込め、一気に両断する。

 多少の抵抗を感じたものの、そのまま力で押し切って扉を両断した俺は部屋へと踏み込む。


「……」


 部屋は俺が借りていた所とは違って全てが豪華だった。

 敷いてあるカーペットから置かれている家具。天井から吊るされているシャンデリア。その全てがどれも素人の俺から見ても価値があるとわかるレベルの物ばかりだ。


「……」

「……、」


 そんな中に一人、窓際に座ってこちらを見ている少女が居た。

 肩甲骨ほどまである綺麗な白髪を後ろへ流し、その身をシンプルながらいい素材で出来てるであろう服で包んだ少女。

 だが、その中でも一番目を引くのはその瞳だろう。

 俺の事をジッと見つめたまま動かない淡い青色の瞳。ソレは全てを見透かそうとしているようで……それでいて、俺の事をその深い海に引き込もうとしているとさえ感じるほどの存在感がある。


 目を逸らす事は出来ない。

 一度でも目を逸らしてしまったら、目の前から少女が消えてしまって二度と出会う事は出来ないとそう感じさせるからだ。

 それに、初対面のはずなのにこの少女には全てをさらけ出したくなる。


 この子を守りたい。この子に泣きつきたい。抱え込んでいる全てを吐き出してしまいたい。


 そう、思ってしまう。


「ん……?」


 と、そこで視界の端にある物を見つけた。

 決して、この世界に存在するはずがない物。否、存在などしてはいけない物。ソレ一つで簡単に命を奪い、誰かを不幸にしてしまう代物。


「狙撃銃……M1903A4か? いや、ベースはソレだろうけど所々変わってるな」


 俺の中にいる“別世界の俺”が狙撃銃の正体を解き明かす。そして、同時に壊せと叫ぶ。

 この“俺”は、銃のせいで全てを失った経緯がある。力を借りたのは安田との決闘の時だけだが、それ以降ずっと俺の中に住んでいる。


「ッ……」


 ダメだ。頭がおかしくなる。

 別に俺はあの狙撃銃に対して特に思うところなんてないはずなのに、壊したいと思ってしまう。いや、あれ? 壊したいんだっけ? 俺は……あの銃に……銃という物に全てを……。


「――ッ」

『いつの間に……』

「……」


 自分の考えがわからなくなって、感情がごちゃ混ぜになり、自分を見失いそうになった。そんな時、いつの間にか目の前に移動していた少女がそっと両手で狙撃銃を持ち、まるで俺に献上するかのように片膝をついて差し出してくる。


「なんの……つもりだ……?」

「……」


 狙撃銃に付けられている花形の装飾品がカチャリと音を立てる。

 それが少女の肩が僅かに震えた事によるものだと冷静に分析しつつも、様々な何故? という疑問が思考の大半を占める。


 何故、少女は俺に狙撃銃を差し出すのか。

 何故、少女は震えたのか。

 何故、見ず知らずの俺に何の警戒心もなく近づいてこれるのか。


 何故、何故……何故――……。


「貴方が、苦しそうだったので……」

「――」


 初めて聞いた少女の声はとても綺麗で、耳に入ってきているのにどこか消えてしまいそうだった。だが、それ以上にその言葉が心に突き刺さる。


「俺が……?」

「はい……壊したい、んですよね? コレを失ってしまえば、私は無力となってしまいます。ですが、貴方が望むのであれば私はソレを受け入れます」


 それが当たり前の事と言わんばかりに少女は言い切る。


「……大切な物なんじゃないのか?」

「確かに、コレは私にとって大切な物です。ですが、貴方と比べたら大したことのない物だとも言えます」

「俺達は初対面だよな? なんで、そこまで俺に肩入れする?」

「確かに、私たちは初対面です。ですが、私はずっと待っていたんです――貴方を」


 意味が分からなかった。

 なんだったら「コイツ、ちょっとヤバいんじゃないか?」とさえ思った。

 だが――


「わかった。だが、ソレを壊す気はないから……」

「よろしいんですか?」

「ああ……もう、大分落ち着いた」


 ――だが、俺もこの少女を探していた。そんな気がした。

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