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平行発動

「魔法の平行発動? そんな事が可能なのか?」


 火の国へと続く街道を歩きながら、一ノいちのせ ゆうは呟いた。

 実際、歩いているのは裕と佐々木だけなのだが、裕は佐々木と話しているわけではなく、マントの下や両腰に差した魔刀まとうと話していた。


《魔法……というよりも、魔術ですね》

「魔法と魔術があるのか。でも、この世界に来てそこそこ経つけど魔術なんて聞いた事ないぞ?」

《今の時代で一般的に使用されているのは魔法ですからね。数千年前までは魔術が主流だったんですが……》

「二つの違いってなんだ?」

《魔術とは高度な技術が必要な物です。あらゆる現象を具現化し、通常ではあり得ないような事象を発生させる謂わば万能な物です。それを、誰でも使えるように簡単にしたのが魔法ですね》


 裕が「へぇ……」と納得したように呟くと、凍華とうかの声が聞こえていない佐々木が何の事かと首を傾げる。

 その事に気づいた裕は聞いた事をそのまま伝えた。


「へぇ~。じゃあ、魔術の方が万能だったの?」

《万能……というのは……あ、コレでは二度手間ですね》


 凍華に言われて背中から大太刀と引き抜いた裕はソレを地面に立てる。

 一瞬輝いた大太刀は、光が収まった時には青みがかった長い白髪を風になびかせ、白地に水色の刺繍が入った和服を纏った女性が立っていた。

 年齢は裕と比べて1、2歳年下といった感じであり、整った顔は全ての人を魅了するかのようだった。


「ふぅ。コレなら佐々木さんにも聞こえますね」

「あ、ごめんね」

「大丈夫ですよ。それで、魔術は万能かという話でしたよね。結論から言ってしまえば万能ではありません。少なからず出来ない事はありましたから」

「それは、死者を生き返らせるとかそういうのか?」

「そうですね。兄さんの言う通り死者を生き返らせる事は魔術では不可能です。ただ、錬金術などにはそういった分野があったと記憶しています」

「あっ! 錬金術なら王都に居た時に本で読んだよ。でも、今はもう使える人がいないんだよね?」

「そうなのか?」

「うん。200年前に非人道的な実験をした錬金術師が居て、それが問題になって……」


 そこまで聞いて、裕は「魔女狩りみたいなものか」と結論を付けた。


「んで、魔術の平行発動だったよな。魔法よりも難しい物を同時に使えるものなのか?」

「そこは、適正によるとしか言えません。ですが、兄さんなら別の方法でそれを実現する事が出来ます。私達、魔刀は刀になっていたとしても意識がありますし、魔術を使う事も可能です。兄さんと私達は契約をした段階で繋がっていますから、魔術を兄さんに対して発動する事も出来ます」

「そうだったのか。でも、凍華とか翠華すいか寝華しんかは結構生きてるから魔術を使えるかもしれないが、桜花おうか白華しろかは使えないんじゃないか?」

「確かに、二人はまだ産まれたてと言っても過言ではありませんからね。でも、桜花ちゃんは教えれば出来ると思いますし、白華ちゃんも思い出せば使えると思いますよ?」


 凍華の言葉に白華の記憶がない事を失念していた裕は、気まずそうに目を逸らした。

 当の本人は桜花と一緒に刀状態のまま眠っているのだが、何となく言ってはいけない事を言った気がして嫌だったのだ。

 

「それにしても、まだ春辺りだってのにやけに暑いな……」

「火の国にもう入っていますからね。火の国はその土地全てで鉱石が採れる事から、国内で精錬も行っています。そのため、気温が他と比べて高いらしいですよ」

「マジか……あんまし、暑いのは得意じゃないんだよなぁ」


 魔刀を隠すためにコートやらマントを身に着けているから、更に暑い。

 いっそ、脱いでしまいたいが魔刀はこの世界では【裏切者が使った武器】として有名だし、誰かに見られでもしたら一悶着ありそうだから無理だ。


「みんなに人の形になってもらうのは?」


 自らが纏っていた白いマントを脱ぎながら佐々木が言う。

 その姿が何故か色っぽくて思わず目を逸らしてしまったが、その先に凍華がジト目で立っていたために目線を彷徨わせる事になった。


「いや……凍華達は服装が特殊だからな。和服とか、この世界に来て龍剣山りゅうけんざん以外で見た事がない」

「確かに、言われてみればそうだね。まぁ、元の世界でも和服ってあんまり見なかったけどね」

「まぁな」


 そんな会話をしながら歩いていると、凍華が良い事を思いついたといった感じで手を合わせた。


「それでは兄さん、ここで平行発動を試してみるというのはどうでしょうか?」

「ん? 具体的にはどうするんだ?」

「私は氷系統の魔術がある程度使えます。その中には周囲の気温を下げる物もあるんです。ソレを兄さんに掛ければどれだけ服を着ていても快適に過ごせると思うんです」


 なるほど。

 確かに、ソレが可能なのであればこの暑さからも解放されるだろう。

 そうと決まれば即実行といわんばかり刀の姿となった凍華を背負い直し、意識を集中させる。

 凍華曰く、平行発動をするためにはお互いの間に繋がっている回路を広げる必要があるらしく、ソレは俺自身のイメージによって大きさを変える事が出来るらしい。


「イメージ、ねぇ……」

《なんでもいいんです。兄さんが思い浮かべやすいものです》


 そう言われて最初に思い浮かんだのは何故かパイプだった。

 元の世界に居た時に何かの番組で見た水道管。普段は地下に埋め込まれているソレが予想以上に大きかった事に驚いた事を思い出した。


《回路の拡張を確認しました。では、魔術を発動します……【冬の夜の呼びウィンターナイト・コール】……》


 凍華が魔法を発動した瞬間、今まで死ぬほど暑かったのが嘘のように涼しくなる。

 むしろ、コレくらい着込んでいなかったから寒いんじゃないかと思う程だ。


「凄いな……さっきまでの暑さが嘘のようだ」

《それならよかったです。では、【身体強化】を発動してみてください》


 言われた通りに身体強化を発動させる。

 すると、涼しいまま身体がスッと軽くなる。コレは身体強化と凍華の魔術の両方がきちんと発動しているという事だ。


「そういえば……何で魔法って同時に使えないんだろうね?」

「ん?」

「ほら、元の世界の創作物とかだと何個も平行発動させてたりしたけど、こっちの世界だとソレは出来ないでしょ?」


 佐々木がそういうファンタジー物を読んでいるとは意外だったが、確かに言われてみるとそういう創作物では一気に魔法を発動して「俺ツぇええええええ!」ってやってたな。


《兄さんたちが話している創作物の事はわかりませんけど、こちらの世界では脳のキャパシティが足らないからと言われていますね》

「まぁ、創作物と同じなわけがないか。それより、魔法を使うのってそんなに頭を使うのか?」

《物によりますね。兄さんは龍神りゅうしんと契約をしているので、あまり難しいと感じていないかもしれませんが、通常であれば身体強化でさえもかなりの集中力を使うんですよ?》


 そう考えると、龍神との契約ってのは本当にチート級の物だな。

 ただ、俺は身体強化くらいしか使える魔術も魔法もないんだけど。


 凍華から聞いた事を佐々木に話しながら歩く事二時間くらい経ったが、未だに火の国は見えてこない。狼神ろうしんから遠いとは聞いていたが、このペースで行くと到着するのはいつになるかわからない。


「……やってみるか」

「え? ……ふぁっ!?」


 立ち止まり、佐々木を抱きかかえる。

 身体強化を発動させている状態ならば、人一人くらい簡単に持ち上げられるし、この感じ的に全力で走ったとしても速度が落ちる事はなさそうだ。


「かなり揺れると思うから、ちゃんと捕まっていてくれよ?」

「え、えぇ……? まさか、このまま走るんじゃ……」


 佐々木が全部言い切る前に俺は両脚に力を込め、その場から大きく一歩踏み込む。

 ガコンッ! と地面が陥没するのを無視してそのまま全力で駆けだした。

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