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【閑話】一時の平和

お久しぶりです。

スランプに陥ったり、仕事が忙しかったりと更新が遅れてしまい申し訳ございません。

これからは定期的に更新できるかな? と思います。


皆さまのお陰で40,000PVを突破する事が出来ました!

ありがとうございます!

「……」


 出発すると決めたはいいが、色々と足りない物が多すぎて俺達は未だに山頂に居た。青空の下、何とも過ごしやすい気温の中で俺と佐々木は向かい合って座って居た。


「なんというか……」

「ん? どうしたの?」


 俺の声に縫物をしていた手を止めて、佐々木が顔を上げた。

 別に、作業を止めてもらってまで話したい事があったわけではないのだが、ここで黙ってしまうのは悪手だという事は美咲相手に経験済みだ。


「いや、何というか、お袋みたいだなって」

「お、おふくろ……」

「ああ。佐々木って、結構家庭的だろ? 料理も出来るし、こうやって服の補修も出来るわけだし」

「凍華《とうか》さんと翠華《すいか》さんも出来ると思うけど……」


 確かに、凍華も翠華もそういう事は出来ると思うんだが、佐々木はそういう事をやっている姿がやけに板についているというか……。


「元の世界でも、そういう家事的な事をやってたのか?」

「え? あ、うん。私の両親って共働きでいつも忙しそうだったから、妹の世話は私がしてたんだ」

「妹が居たのか?」

「うん。結構歳は離れてたけどね。一ノ瀬君は一人っ子でしょ?」


 何故知っている?

 そう思ったのが顔に出ていたのだろう。佐々木はくすくすと笑いながら「美咲ちゃんが言ってたから」と教えてくれた。

 詳しく聞いてみると、どうやら美咲は俺の事を佐々木に色々と話していたみたいだ。俺の個人情報、扱いが雑すぎない?


「他にも色々と知ってるよ。餃子が好きな食べ物とか、キュウリは苦手とか。あとは、辛党だけど甘党でもあるとか」

「マジで詳しいな……」


 ある意味、何も知らなかったらここまで情報を掴んでいるという事に警戒しただろう。だが、美咲が喋った事は事実だろうし、呆れの方が強い。


「まったく、アイツは人の個人情報を何だと思ってるんだ……」

「あはは。でも、許してあげてね。一ノ瀬君の事を話してる時の美咲ちゃんは本当に楽しそうだったから」


 言われなくても、満面の笑みで俺の事を誰かに喋っている姿が目に浮かぶ。

 アイツは、何かと昔から俺の事を誰かに喋りたがっていたからな……。


「大丈夫だ。なんかもう、慣れた」

「そっか。本当に二人は昔から仲が良かったんだね」

「ん? そこらへんの事は聞いてないのか?」

「うん。美咲ちゃんは昔の事を話したがらないから……」


 佐々木の言葉に目を閉じる。

 つまり、美咲は過去にあった“あの事件”について未だに割り切れていなかったのか。


「そうか。まぁ、昔から仲が良かったと言えばそうかもな」

「そっか」


 佐々木も何かを察したのか、それ以上聞いてくる事はなかった。

 こういう察しの良さが人を引き付けるんだろうな。と考えながら左腕を擦る。元々あった肉の腕を失った左腕は硬い感触がした。


「……」


 元々あった腕には、大きな傷跡が残っていた。

 それは、いつかのどこか、遥か昔に負った傷であり、俺にとっては“初めて誰かを守った”という勲章でもあった。



 もう、既に記憶が薄れているくらいに昔、俺と美咲はまだ小学校に入りたての時だった。

 当時、通学路に何やら不審者が出るとかで警戒されており、集団下校という物が実施されていた。それは、同じ方向に帰る子供5,6人で下校するという物だ。

 俺と美咲もそういう集団と一緒に帰っていたのだが、家が少し遠いという事もあって最終的には二人で帰っていた。

 まぁ、俺自身、不審者なんて信じていなかったというか別に気にしていなかったし、美咲も「裕くんがいるから大丈夫」と言って特に気にしている様子もなかった。

 そんなこんなで普段と変わらない生活を送っていた俺達だったが、とある日……そう、まだ春だというのに若干暑かった夕暮れに事件は起こった。


「ヒッ!!」


 小さな悲鳴だった。

 美咲は今ではちゃんと隣を歩くようになったが、当時は何故か俺の右後ろを歩いていた。そのせいで、悲鳴が聞こえるまで気づかなかった。

 急いで振り向いてみれば、そこには口元を抑えられ、抱きしめられるように抑え込まれている美咲の姿があった。


「あーあ。バレちゃったじゃん」

「な……おま……」


 どうしてそんな事になっているのかと混乱している俺に、美咲を捕まえていた黒づくめの男は若干笑いながらそう言って、右手に持っていたナイフを俺に突き出した。


「おっと、動くなよ? お前が動いたり、声を出したりしたら真っ先にコイツを殺すからな」

「……ッ」


 その言葉に動けなくなった……いや、違う。俺は元々動けなかった。

 生まれて初めて「俺は殺されるかもしれない」という恐怖心に身体が竦んでいたのだ。今に思えば小学生だから仕方がないとも思う。

 そんな俺を見た男はニヤニヤとしながら一歩ずつ下がり始める。


「そうだ。いい子だ。大人しくしてれば、てめぇは――」

「――んッ!!」

「いってぇ!!!!」


 だが、彼女は違った。

 美咲は勇敢だった。自分が捕まっているという事よりも、俺に危害を与える可能性を持った男を許せなかったと後々聞いたが、それでも恐怖に打ち勝って行動を起こした。

 手を噛まれた男は、そのまま突き飛ばすように美咲を離した。

 そのせいで前のめりに倒れる事になった美咲。そんな彼女に対して男は手にもったナイフを振り上げた。


「てめぇ!! いてぇじゃねぇか!!」

「――ッ!!」


 美咲が息を飲む音が聞こえた気がした。

 それでも、美咲は男から目を逸らさなかった。キッと睨みつけていた。


「あ……アアアアアアアアアアアアアッ!!」


 ナイフが振り下ろされる瞬間、俺の身体は前へと動いていた。

 今まで出したことがない速度で前へと進み、そのまま美咲と男の間に割り込んだ。


「……ッ!!」


 人間、咄嗟に何かから身を守る時は腕が出るというのは本当のようで、俺は無意識にナイフから身を守るために左腕を掲げていた。

 左腕に何か冷たい物が侵入する感覚がしたが、そんな事よりも先に俺は男へと体当たりをしていた。


「ガッ!?」

「アアアアアアアアッ!!」


 小学生といえど、人一人に全力で体当たりをされればどんな大人でも体勢を崩す。

 男も例外ではなく、そのまま背中をアスファルトへと打ち付け、俺はマウントを取る形となった。


「死ねッ!! 死ねぇッ!!」

「ガッ! グッ!!」


 俺はありったけの力を込めて男の顔面を殴った。

 頭の中には自らが殴っている男を殺すという事しかなかった。


「やめて! もう、いいから……!!」

「……ッ!」


 そんな言葉と共に俺の右腕は美咲に抱きかかえられた。

 どれくらいの時間殴ったのかはわからないが、男は既に気を失っていて、隣には泣きながら俺を止める美咲の姿しかなかった。


「ごめん……ごめんね……」

「……」


 そんな美咲の姿を見た後の記憶はない。

 次に目を覚ました時にはどこかの病室で、後々来た警官に男が捕まったという事を聞いた。

 俺の左腕は、ナイフが刺さったまま体当たりをするという無茶をしたせいで中間から肘付近に掛けてバッサリと斬られていたが、奇跡的に動かなくなるという事はないと医者に言われた。

 だが、傷跡は残ったし、完治するまで死ぬほど痛かった。


「裕くん……」

「美咲」


 それから二週間ほど入院して、退院する日。

 俺は久しぶりに美咲と会った。


「ごめんね……私があんな事をしたから……」

「気にするな。俺の方こそ、ごめん」


 それは、すぐに助けてあげられなかった事に対する謝罪だった。

 俺が恐怖に竦んでいなければ……それ以前に、男の接近に気づいてさえいればこんな事にはならなかったと本気で思っていた。


「裕くんは何も悪くないッ!」

「美咲……」


 美咲の大声を聞いたのはソレが初めてで最後だった。

 その後、どうやって彼女を慰めたりしたのかは忘れてしまったが、あの事件以降、美咲は俺の隣を歩くようになったし、何かと左腕を気にするようになった。

 とっくに乗り越えていたと思っていたが、どうやら彼女はずっと気にしていたらしい。

 まぁ、あんな体験をしたのだから当たり前と言えば当たり前なのだが。



「出来たっ!」

「ん……」


 佐々木の元気な声で過去の旅から帰ってきた。

 顔を上げれば、そこには満足げに修繕した服を広げていた。パッと見てみてもどこに穴が空ていたかなんてわからないほどに完璧だ。


「お、ありがとな」

「いえいえ。私、こんな事くらいしか出来ないから」


 そんな事はないと思うが、それを口にしたところであまり意味はないだろう。

 佐々木から服を受け取って、代わりに凍華が淹れてくれたお茶を差し出す。どういう仕組みなのかはわからないが、凍華がいつも使っているお茶は適温が保たれているし、味も変わらない。


「ありがと」


 コップに注がれたお茶を飲んで一息ついている佐々木を横目に、俺は次の目的地である火の国がある方向を見つめつつ、美咲が今どうしているのかを考えていた。

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