発見
現在、俺は魔刀達と向き合っている。彼女たちの顔には、それぞれ色々な表情を浮かべており、今ここに居ない旅の仲間を心配しているようだった。
「で? 佐々木が居なくなったって話なんだが……」
「はい。兄さんの所に行ったっきり帰ってこなくて……てっきり、一緒に帰ってくるものだと思っていたんですけど……」
全員の代表として凍華が俺に説明してくれる。
彼女は、魔刀の中でもお姉さん的な立場らしいという事がここ最近でわかった。何か重要な事を伝える時などは決まって彼女の口から発せられる。
「俺が佐々木と別れたのは結構前になるな……あそこからここまで徒歩十分掛からないくらいだし、普通に考えたらもう帰ってきていてもおかしくはない」
「はい。それが帰ってこないという事は……恐らく、何かあったのかと」
凍華の言葉に思わず舌打ちをしてしまう。
戦闘後という事もあって、俺は気が抜けていて周囲に放っていた魔力を納めてしまっていた。そのせいで周りの気配という物を感じ取れていなかった。
そういう時に限ってこういう事が起きるというのは、凄く運が悪い。
「やられたな……そっちで他の気配とかは感じなかったか?」
魔刀達はそれぞれ気配に敏感だ。
それは、俺のように周囲に魔力を放っているとかそういうわけではなく、魔刀特有の能力とでも言えるくらいのもので、精度はかなり高い。
「いえ……何も感じませんでした。それどころか、兄さんがこちらに来るまで佐々木さんの魔力は兄さんの傍に感じていた程です」
「どういう事だ?」
「何者かが、意図的に佐々木さんの魔力を偽装した……という事ですね。コレは“同じ魔力は存在しない”という特性からして不可能に近い物ですが、かなりの力を持っていればもしかしたら……」
つまり、佐々木を攫ったヤツは相当な手練れという事か。
それも、この世の法則を完全に無視できる程の力を持っている可能性が高い。いくら、俺が人間の理を超えたと言っても、それはあくまで“人間の”であって“この世の”ではない。
「格上か……」
「はい。探し出すのにも、救い出すのにも、かなりの苦戦が強いられると思います」
凍華はそこで一旦言葉を切って、一瞬だけ迷った後に俺の目を真っ直ぐと見つめて来た。青い瞳は何かを覚悟していて、それでいて何かを期待するような色を含んでいる。
「兄さん……兄さんの目的は美咲さんを救い出す事ですよね?」
「ああ。そうだな」
「正直に言ってしまえば、その目的に佐々木さんは必要ありません。傷であっても、私や翠華がどうにかできますし、魔法で治療出来ない怪我に対しても一般的な知識があります。それに、今ここで佐々木さんを救いに行くとなると、時間も浪費する事になりますし、何よりも強敵との戦いで命を落とす可能性さえ考えられます」
「……何が言いたい?」
「兄さんの目的だけを考えるのであれば……佐々木さんはここで見捨てる方がメリットが大きいです」
その言葉にカッと頭に血が上り、凍華を睨みつける。
だが、その視線を受けても凍華は真っ直ぐと俺の目を見つめていた。そして、言外に問い掛けてくるのだ「どうするんだ?」と。
確かに、凍華の言う通り美咲を救い出すだけなら見捨てる方がいいんだろう。だが……それでは、俺は他の奴らと一緒になってしまう。誰かを見捨て、捧げ、自分を守る。俺が嫌ったあの国の上層部と同じになってしまう。
「……助けに行く」
俺がそう口にすると、凍華以外の魔刀達はみんなホッとしたように息を吐いた。それを横目に凍華を見てみれば、凍華もどこか微笑んでいるような雰囲気を纏っていた。
「わかりました。先ほどは、失礼な事を言ってしまって申し訳ありません」
「いや、必要な事だったさ……すまんな、嫌な役割をしてもらって」
「いえ。それが私の役目ですから」
凍華はあえて俺に現実を突きつけた。それは、今まで目的のためにしか行動してこなかった俺がこの先どうなるかを知っていたからだろう。
コレは、他人には説明できないが感覚的にわかる。前世の記憶では、俺は“桜”を取り戻すためだけに戦い続け、最終的には周りに親しいと呼べる人間は誰も居なくなっていた。その生き方を前世で後悔した事はないと思うが、それでも見ている方からしたら寂しい生き方なんだろう。
だから、凍華は俺が同じ道を歩もうとするのであれば、どうにかして止めるつもりだったのかもしれない。いや、もしかしたらそれさえも受け入れて付いてきてくれた可能性もあるか。
「兄さんは、目的のためだけに動いていませんけどね……」
「ん? 何か言ったか?」
「いえ。それよりも、どうやって探すのかは決めているんですか?」
「それが、何も思いつかない。いっそ、この森を全て焼き払ってみるか?」
「それは……アレからかなりの時間が経過していますので、佐々木さんがこの森に居るとは限りません。それに、森を焼き払った場合は佐々木さんが巻き込まれる可能性もあるので推奨できませんね」
焼き払う事が出来ないとは言わない事に苦笑しながらも、真面目にどうするかを考える。俺が魔力を放出したとしても索敵できる範囲はせいぜい100mくらいで、この広大な森をカバーする事は出来ない。歩き回ってもいいが、それだと時間が掛かる。今は一分一秒でも惜しいのだ。
「私に考えがあります。魔刀が気配に敏感なのは知っていますよね?」
「ああ」
「私達、五人の気配探知と兄さんの気配探知……それらを合わせれば一気にこの森全てを探る事が出来ます」
「そんな事が出来るのか? 言ってる事は理解出来るんだが……」
「可能です。ただ、それだけの事を探るという事は、それだけ多くの情報が兄さんの脳に流れ込んでくるという事です。兄さんの身体ならば死に至る事はないとは思いますけど、相当な負担が予想されるかと……」
「リスク無しで何かが出来るとは思ってない。それに、強大すぎる力は何かしらのデメリットがある……そうだろ?」
俺がそう言うと、凍華は微笑んで刀状態になる。他の魔刀達もそれを見て刀状態になりはじめ、俺はソレを両腰に差していく。
《通常であれば、まずはお互いの魔力を同調させる必要があるのですが……私達は契約しているのでそこら辺は大丈夫です》
「そうか。んで、どうすればいい?」
《いつものように魔力を周囲に放出してください。そこに私達が魔力を乗せます》
「了解だ」
この後に来るであろう痛みを覚悟するために大きく深呼吸し、いつものように体内に感じる魔力を周囲へと放出する。
《リンクします》
周囲に放たれた俺の魔力。その上に凍華達の魔力が上乗せされ、森へと広がって行く。
それはまるで、静かな水面に石を投げ込んだ時のように波紋を広げ、俺の脳内に様々な情報を送り込んでくる。
「くッ……!!」
脳内に送られてくる情報が増える事に頭痛が悪化してくる。その痛みに魔力の放出を止めそうになるが、歯を食いしばって維持する。
「まだか……ッ!!」
この森がどれくらいの広さなのかは正確には知らないが、これ以上となると流石に俺の脳も耐えられない――そう思っていると、山頂に佐々木の反応を見つけた。
「見つけたッ!!」
魔力の放出を止め【身体強化】を発動させて、俺は大きくその場から跳ぶ。
そのまま、見つけた場所へと向けて枝を足場にしながら移動を開始した。




