再戦、森にて
寝華を右腰に差して、これからどうするかを考える。
さっき、寝華に言われた事が心のどこかに引っかかる。アイツは『出来たら殺してくれ』みたいな事を言っていたけど、何となく絶対にやってほしい事として言われた気がしている。
「はぁ……いってぇ……」
若干動くようになった右腕を動かして、頭を掻こうとすると肩に鋭い痛みが走る。いつもだったら、この程度の傷はすぐに完治するからあんまり気にならないんだけどな……。
「兄さん、とりあえずご飯にしませんか?」
「ん? そういや、昼飯を食べてなかったな」
ご飯と聞いて喜ぶ白華を佐々木に任せて、凍華がご飯の準備を始める。俺も何か手伝おうとしたのだが、「怪我人はジッとしていてください!」と怒られてしまったので、さっきまで座って居た切り株に座り直してボーっとしていると、割と早く飯が出来た。
それをみんなで食べていると、周囲にソナーのように広げていた魔力に反応があった。だが、その反応はすぐに俺の探知範囲外へと外れてしまう。
「誘われてるな……まぁ、俺も用事があったから乗ってやるか」
白華と桜花に声を掛けて刀状態になってもらい、ソレを左腰に差す。すると、片づけをしていた佐々木が俺の行動に気づいたらしく近寄って来た。その顔には、本気で心配するような色が浮かんでおり、それに対しては申し訳ないとも思う。
「どこか行くの……?」
「ああ。ちょっと、野暮用でな」
「行かないでって言っても、一ノ瀬君は行くだろうし止めはしないけど、激しい運動だけはしないで。肩は縫ったばかりだから、まだ危ないの」
「わかった」
「あと、絶対に帰ってきてね?」
「ああ」
佐々木の頭に手を置き、凍華に対して佐々木を任せたという気持ちを込めて横目で見る。俺の言いたい事を感じ取ったらしい凍華は複雑そうな顔で頷く。恐らく、彼女としては契約者である俺に付いて行って俺の事を守りたいのだろう。
その気持ちは理解できるのだが、今は佐々木の事を守ってあげてほしい。俺が出て行っている間に何が起こるかわからないしな。
「それじゃあ、行って来る」
深くお辞儀をする凍華に見送られて出発し、歩き続ける事数十分。
俺の左腕と片目はその機能を停止しており、佐々木達居る場所から相当遠くに来たというのを感じていると、目的の場所に辿り着いた。そこは、あの反応が無くなった場所だ。
『……来たか』
「来てやったよ」
大木の後ろからスッと血狼騎士団の鎧を身に纏った男性が出て来た。声と脇腹に傷がある鎧からして、俺が直接戦ったヤツだろう。
「それで? 用件はなんだ? まさか、世間話をするためにここに呼んだわけじゃないだろう?」
『うむ……では、単刀直入に言おう。姫様をこちらに渡してほしい』
「何のために? もう、お前たちの国も寝華が姫様をやっていた国も滅んだんだろ? 今更、何の為にコイツが必要なんだ?」
『……その国を再建するためだ。我ら血狼騎士団と姫様が居れば、国を再建することなど容易い。近くにある国を適当に攻めて奪い取ればいいのだからな』
「本気で言ってるのか? そんな事をしても、一般人はついてこないだろ」
『お前は知らないだろうが、この世は力が全てだ。力無き者は力有る者に支配される定め……それが、この世の摂理だ』
「話にならないな。俺は確かに国の事とかは知らないけど、お前たちが言ってる事が現実的じゃないって事はよくわかるよ。それにな、俺はコイツに右腕をくれてやったんだ。お前たちに渡したら、俺の右腕は一生動かなくなるじゃねぇか」
『右腕一本など、安い事じゃないか。それとも……ここで、命を落とす事が望みか?』
騎士と俺は同時に得物の柄へ手を掛ける。騎士から発せられた殺気に身体が反応しての行動だったが、俺がここで臨戦態勢を取らなければ、今頃殺されていたに違いない。
佐々木の忠告がある手前、戦いたくはないのだがそうも言っていられない状況。最悪、傷が悪化する可能性があるが、寝華をむざむざ引き渡すくらいならば、その方がいい。
『速度はやはり早いか……』
「……やる気なのか?」
『お前が姫様を渡さぬと言うのであれば、そうせざる負えないだろう』
「……」
コレは、お互いに譲れない物があるという事なんだろう。詳しい理由はわからないが、コイツらは国を再建したがっていて、そのためには寝華が必要。
対する俺は、寝華をくれてやる気はない。
『欲しい物があるのであれば、戦って奪い取るしかない。そうしなければ、一生手に入らない……お前も、わかっているだろう?』
「まぁ、な……」
脳裏に美咲の顔が浮かぶ。
俺は、力が無いから奪われた。だから、今度は俺が奪う。そのためには、こんな所で躓いている時間はどこにもない。
『行くぞッ――!』
「――ッ!!」
高速で迫って来た剣に、俺は咄嗟に抜いた白華を合わせる事でどうにか初撃を防いだ。
俺と騎士を中心に、甲高い金属音が響き渡った。




