治療とフォロー
右肩の傷を翠華が観察してから、静かに首を振った。
「ダメです。剣は抜けても、私の魔法は弾かれてしまいます」
「じゃあ、縫うしかないみたいだね」
血を抑えていたタオルを外して、佐々木が肩を縫い始める。麻酔無しでの縫合というわけでかなり痛いが、剣に刺された時よりはかなりマシだ。
「ごめんね……この世界での麻酔って、麻薬とかそういう物しかなかったから……」
「ソレを使われるくらいなら、麻酔無しの方がありがたいよ……」
麻薬とか、何が起こるかわからない。
元の世界での麻薬でさえ、廃人になるレベルなのに異世界の麻薬とかそれ以上にヤバい物になっている気しかしない。
「兄さん。兄さんの血が染み込んだタオルですけど、こちらで処分してもいいでしょうか?」
「ん? あぁ、頼む」
「はいっ」
どうやって処分するのかと横目で見ていると、凍華は枯れ木でタオルを囲んでから、火を付けた。
え、そんな処分の仕方なの? てか、山火事とか大丈夫なんだろうか……。
「わぁ~、綺麗だね!」
「そうですね」
てか、桜花は何で凍華と一緒にソレを見ているんだろうか。教育的に大丈夫なのか不安だな。
「あれ? そういえば、白華はどこ行った?」
「白華ちゃんなら、あっちで落ち込んでいましたよ。治療が終わったら、後で慰めてあげてください」
火が安定したのを確認した凍華が教えてくれる。
アイツ、戦闘後から人型になっていなくなったと思ったら、落ち込んでいたのか……。
「ん? てか、何で落ち込んでるんだ?」
「それは……ほら、アレですよ」
「アレ……ですね」
凍華と翠華が顔を見合わせて頷き合う。
何やら、魔刀同士でわかりあっているようだ。
「俺にはわからないんだけど……」
「大剣を両断出来なかったからだと思います」
言われて「あぁ……」と納得した。
そういえば、いつぞやも似たような理由で落ち込んでいた時があった気がする。
「佐々木、あとどれくらい掛かりそうだ?」
「繊細な作業だから……! もうちょっと掛かりそうっ」
「わかった」
この間に寝華から話を聞いてもいいんだが、白華も部外者じゃないし一緒に聞いていた方がいいだろう。
ちなみに、寝華は人型のまま桜花と一緒に焚火を見ている。いつの間に移動したのか。
やる事もないからボーっとしていると、佐々木から縫合終了の報告があり、服に袖を通して立ちあがる。
「よし、白華を迎えに行ってくるか」
「私も行くっ!」
「ん、そうだな。桜花も一緒に来てくれ」
と言っても、人型では急な事態に対応できないから刀状態になってもらい、ソレを左腰に差してから凍華が教えてくれた方へと歩き出す。
森は時々、野生の動物と思わしき反応はあれど敵対してくるような物はいなかった。そのお陰でサクサク進む事は出来るが、木の根とかが地面から突出していて歩きづらい。
悪路をどうにか進んだ先にある小川に白華は居た。素足になり、そのせせらぎに足を付けて何か考え込んでいるようだ。
「白華……」
「あっ……ユウ……」
「こんな所に居たのか。心配したぞ」
「あの……その……」
「ん? どうした?」
白華は俺の前まで来たが、俯いていてその表情は見えない。
「……ごめんなさい」
「どうして謝る? 白華は俺に何かしたのか?」
「ううん……斬れなかったから……」
「それは、あの大剣を?」
「うん……」
別に気にしなくていいのに……白華は他の子達よりも、そういう事を気にする節がある。いや、俺が白華をそういう使い方ばかりしているからか……。
「すまん……俺が、お前を苦しめているのかもしれない」
「違うッ! ユウは何も悪くない! 私がちゃんと斬れれば、問題ない事なの!」
「俺は、白華が悪いと思ってない。武器は、一人じゃ意味がないんだ。使い手がきちんと武器を使いこなせて初めて物が斬れる。だから、俺のせいでもあるんだ」
「ユウ……」
顔を上げた白華の目は、やはり泣いていたようで赤くなっていた。その頭に手を置いて俺はそっと笑いかける。
「だから、白華のせいだけじゃない。もしも、悔しいんだったら一緒に頑張ろう」
「うんっ……!」
抱き付いて来た白華を受け止め、肩車をしてから俺達は凍華達が待っている場所へと戻るために歩き出した。
◇ ◇ ◇
「兄さん、おかえりなさい」
「ああ、ただいま」
帰ってみると、凍華達は焚火を囲んで座って居た。椅子にしている木は一体どこから持ってきたんだろうか。
俺達の席と思わしき空いている場所に座ると、寝華が顔を上げた。
「それじゃあ、話をさせてもらうね」
「ああ、頼む」
「そうだなぁ……まずはどこから話すべきかなぁ」
「とりあえず、寝華は亡国の姫なのか?」
「そう言われてた時もあるねぇ……君は、魔刀についてどこまで知ってる?」
「どこまでって……あんまり知らないとしか」
そもそも、魔刀っていう武器について未だによくわかっていない。人型にも刀型にもなるっていうのと、それぞれに何かしらの能力を持っているという事しか知らない気がする。
「魔刀っていうのはさ、元々は“人間”なんだよ」
「なっ――!?」
「やっぱり、知らなかったんだ? 君の事だから、人型と刀型になれる不思議な武器とでも思ってたんじゃない? でもね、実際は違うんだよ。魔刀っていうのは、元々は全部この世界で生きていた人間。凍華お姉ちゃんも、白華ちゃんも、翠華お姉ちゃんも……私も。みんな、元はこの世界で生きていた人間なんだよ?」
「そ、そんな……」
そんなバカな事があるのか? 元々、この世界で生きていた人間が武器になるなんて事が――いや、待て。俺は一つだけソレを知っている。
魔王の嫁――その称号を持っている人間は、魔王の手によって武器になる。
美咲が刀になった時がフラッシュバックする。まさか、魔刀ってのは全部――。
「君が何を考えているか契約でわかるけど、それは半分だけ正解かな。確かに、魔王の嫁って称号のせいで武器になる子もいるけど、ソレで魔刀になったのは歴代で二人だけだよ」
「それじゃあ、お前たちはなんで……」
「さぁ? お姉ちゃん達や白華ちゃんの事はわからないけど、僕がこうなった理由なら話せるよ……でもさ――」
そこで寝華は口を閉じて、俺の顔を真っ直ぐと見て試すように笑った。その顔に思わず息を飲んでしまう。それ程までに言いようのない威圧感があったからだ。
「君は、ソレを聞いて尚、僕の事を武器として使えるかい――?」
寝華が発した声は、深く、静かに、俺の耳に響き渡った。




