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強敵

 迫りくる大剣を紙一重で避けようとして止める。ヤツは片手で振るっているが、アレは俺が両手を使ってようやく持てるくらいに重い物だ。それが高速で振られた場合、紙一重で避けたとしても風圧だけで、俺の頭は消し飛ぶだろう。

 となれば、大きく距離を取って避けるか、もしくは白華しろかで受け止めるしかないだろう。だが、受けるといっても最初と違って勢いがある斬撃を受けるのは、いくら“龍血りゅうけつちぎり”で強化された俺の肉体といえど、無傷で済む物ではない。そこら辺の相手なら、無傷でやり過ごす事も出来るだろうが、幾度か切り結んでいてわかった事として、目の前の相手は俺と同等かそれ以上の実力を保持している。


「面倒な相手だよ、本当にッ!!」


 大きく後ろに跳んで大剣を避ける。だが、すぐに大剣は軌道を変えて真上から俺を両断しようとする。


「――ッ」


 両手で白華を構えて、その刃で大剣を受け止める。両腕に尋常じゃない衝撃が走り抜け、地面にヒビが入り、大気を揺るがし、木々の葉を大きく揺らす。


『ほう? 案外、耐える』

「ふざ……けんなよ。こちとら、“身体強化”もフルで使ってるんだぞ……ッ!!」


 ガチガチと音を立てる白華を全力で押し上げて、大剣を弾く。その勢いを利用して前へと身体を推し進め、ヤツに斬りかかる。


「『――ッ!!』」


 大剣で受け止められた白華の刃は、その色を紅く染めて大剣を切り裂かんとばかりに食い込んでいくが、その太さに途中で止まってしまう。


「チッ……」


 出来れば、この一撃で大剣を両断しておきたかった。というのも、ヤツはこの大剣以外には腰に差している直剣くらいしか武器を持っていないからだ。直剣が相手の得物となれば、そこに重量の暴力は存在せず、いくらか俺が有利に戦えるはずだ。


『……吸血の悪魔か』


 ヤツは、紅く染まった白華しろかと出血している俺の親指を見て呟いた。奥の手として、白華に血を吸わせずに戦っていたが、どうやらあまり意味はなかったらしい。


「うおおおおおおおおッ!!」

『ヌゥンッ!!』


 咆哮――白華に魔力をつぎ込み、食い込んでいる刃を引き抜いてから軽く一歩下がって、再度斬り込む。だが、ヤツは即座に大剣を回転させると、傷がない方の刃でソレを受け止める。先ほどと違って傷一つ付けられないという事は、大剣に魔力が流し込まれているのだろう。


「両刃ってのは、こういう時に卑怯だなッ!!」

『ふんッ! 貴様の得物が持つ鋭さ程、卑怯ではないッ!!」


 互いに当たれば即死するレベルの攻撃を放ち、時には相手の斬撃を捌く。


「――ッ!!」


 チラリと背後を見れば、佐々木は俺達から大きく離れて事の行く末を見守っていた。あそこまで距離が離れているのであれば、俺が力を使ったとしても被害に合う事はないだろう。


《兄さん、いつでも行けます》


 凍華とうかの声を合図にして、白華を全力で地面に突き刺す。


『ムッ――!!』


 衝撃と轟音を撒き散らしながら、俺とヤツを砂埃が包む。それによって、お互いの位置は見えないはずだが、ヤツは素早く“俺が先ほどまで居た場所”に大剣を振るう。


『いない、か……』

「……」


 ヤツが大剣を構え直した音を聞きながら、俺は白華を鞘へと納め、右手を背中へと伸ばす。位置取りを確認し、きちんとヤツの背後を取れている事を確認。


「行くぞ」

《いつでも、どこまででも……》


 凍華の返事にニヤリと笑いつつ、両脚に力を入れて一歩踏み出す。ドンッ! と音がし、地面が陥没するがそれさえも無視する。


「オオオオオオオオオオオオッ!!」


 背中に背負った凍華の柄をしっかりと掴んで、砂埃を霧散させながら抜刀する。


『背後かッ!! ヌゥンッ!!!』

「オォッ!!」


 抜刀するのと同時にヤツは素早く反応して大剣を構えようとするが、ソレは既に遅い。凍華は俺が叩きこんだ魔力を鞘内で噴出し、抜刀の速度を上げてくれていたからだ。


 青い刃が煌めく。

 木漏れ日さえも反射しながら振るわれた凍華はヤツの大剣を両断し、そのまま刃を返して、真下から即座に切り上げる。


『ムゥッ!!』

「――!!」


 切り上げを寸での所で避けたヤツは、そのまま左腰に差してあった直剣を素早く抜いて、目にも止まらぬ三段切りを放つ。

 だが、俺も凍華もソレが見えないわけでも捌けないわけでもない。俺の目は桜花との契約により、あらゆる物が見えるし、見えてしまえば凍華に捌けない物はない。


 金属音が三回、周りに響き渡る。


「……」

『……』


 ヤツは斬撃を放ちおわった体勢で、俺はそれを捌いた体勢で止まる。

 静寂が周りを包むが、俺達は動かない。


『――ッ!!』

「――ッ!!」


 前動作無しで放たれた鋭い突き。ソレを凍華で弾く。

 弾かれた直剣は俺の真横を通り過ぎる予定だったが、ヤツの信念か、俺の右肩へと突き刺さった。


「ぐぅっ!!」

《兄さんッ!!》

「一ノ瀬君ッ!!」


 右手から凍華が抜け落ち、鮮血が舞う。チラリと見た感じだと、直剣は完全に俺の肩を貫通していた。


『……ゴハッ!』


 ヤツが兜から血を吐き出す。

 俺は“左手に持った桜花”をチラリと見る。桜花はヤツの甲冑を貫通して、脇腹につばまで突き刺さっていた。


『こ、コレは……』

「……」


 ヤツが自らに刺さっている桜花を見つめ、少し考えた後に何か納得したように頷いた。


『なるほど……最初に突き刺した得物を回収していたのか……』

「あんたに右肩を刺された時にな」

『あの一瞬でか』


 俺がわざわざ凍華を使う時に背後に周ったのは、有利を取るためだけではない。何度か斬り合う内に立ち位置が入れ替わっていたために、桜花を回収するためには移動しなければいけなかったのだ。

 本当であれば、凍華の切り上げ後に追い打ちとして使う予定だったが、まさかあそこで避けられるとは思わず、その結果突きへのカウンターとして使う事になってしまった。


(化け物だな……)


 切り上げの回避、突きの速度……全てを考えたとしても、目の前に居る相手は正真正銘の化け物だろう。亡国最強の騎士団というのも、嘘ではなさそうだ。


「……」


 桜花の柄をしっかりと握ったまま、相手の腹を蹴り飛ばして引き抜く。


『ぐぅっ……』

「我慢してくれ……俺なんて、肩に刺さりっぱなしなんだぞ……」


 桜花を振って血を飛ばし、右肩に刺さった直剣を見る。

 コレを抜くのは中々に痛そうだ……。


『殺さぬのか……』

「あんたには、色々と聞きたい事があるんだよ。だから、今ここで死なれると――」


 言葉の途中で悪寒が走り抜ける。

 今、ここで少しでも何かしたら、俺達は死ぬという悪寒だ。


「い、一ノ瀬君……」

「……マジか」


 チラリと声がした方を見てみれば、佐々木は“無傷の”血狼騎士団けつろうきしだんの鎧を纏った何者かに捕まっていた。

 それだけではなく、よく周りを見てみれば、同じく無傷の鎧を纏った男たちが俺を包囲していた。中には、あの近江騎士団このえきしだん団長の肩を貫いた矢を構えているのも居る。


《囲まれましたね……》

「全部で五人か……相手取るのは、流石に無茶だよな」

《佐々木さんも捉えられていますからね……どうしますか? 私達だけならば、逃げる事も難しくはないと思いますけど》

「冗談だろ? そんな事をしたら、俺が龍剣に殺されちまうよ」

《ふふっ、そうですね。では、どうしますか?》


 凍華に聞かれて、俺は考える。

 右腕は動かない。龍神りゅうしんと契約した俺は、この程度で動かなくなる事はない。それでも動かないという事は、この直剣に何か魔法でも仕込まれているのだろう。


 使えるのは、左腕だけ。

 武器は問題なし。


「やるしかないだろ」


 桜花を鞘へと納めて、ゆっくりとした動作で凍華を拾う。それだけで、ギリッと弓が更に引かれた音が聞こえてくるのだから、生きているという実感が無くなりそうだ。


《はい。いつでも、どこまででも》


 凍華の声を聞きながら、俺は左腕でしっかりと構えた。

 相手は、一人でも苦戦するほどの敵が五人。圧倒的に俺が不利なのはわかっているが、ここで逃げ出す事など出来るはずがなかった。

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