美咲とシエル
私が【スキル:刀剣術】を持っている人がいなかった事に人知れず落胆していると、視界の端にどこか浮かない表情のミサキさんが目についた。
今は訓練場へと移動しており、召喚された人々が自分のスキルを試しているため、私以外は誰も気づいていないらしい。
「ミサキさん、どうかしましたか?」
「あっ、シエル姫……」
ミサキの隣に腰を下ろす。
この訓練場はコロシアムのように円形に作られており、中心の訓練スペースを囲むように観客席が設けられている。
これには理由があり、年に一度我が王国で開かれる武闘大会の会場としても使われるため、こうした作りになっているのだ。
「シエルでいいですよ。兄弟の中で一番下なので王位継承権もありませんしね」
「ん……わかった。私も美咲でいいよ」
「わかした。それで、どうかしたんですか?」
私が再度問いかけると、美咲は俯いていた顔を上げて遠くを見た。
「裕君……私の幼馴染が無事かどうか心配でね」
「この世界に召喚されているのですか? 確か、目が覚めた時には居なかったという話でしたけど……」
ミサキは私の言葉を聞いて、微笑む。
その横顔は、女の私でさえ思わず見惚れてしまうほどに美しい。
「なんとなくだけどね、私には裕君が今どこに居るのかがわかるの……きっと、いつも一緒に居たから本能的に感じるんだと思うんだけどね。そして、裕君はこの世界に召喚されてる」
そう確信しているかのように言葉を紡ぐミサキ。
「愛の力……ですね」
「あ、ああぁ……愛!?」
私が何気なく言った言葉に過剰に反応するミサキ。
「え……? ミサキと幼馴染さんはお付き合いをしているんじゃないんですか?」
「つ、付き合ってないよ!? 確かに、裕君とはずっと一緒に居たし、これからも一緒に居たいとは思うけど!」
あぁ……。
これは、お互いに好意を持っているのにそれを自覚せず、尚且つ奥手だから仲が発展していないやつですねぇ……。
「ミサキは、その人の事が好きなんじゃないんですか?」
「好き……とか、恋愛感情とかはわからないの。ただ、一緒に居すぎて傍に居るのが当たり前で……そう、私の半身みたいな人なの」
ミサキはそう言ってから、再度遠く――悪夢の森とそこにそびえ立つ封印塔を見た。
「シエルは、好きな人とかいないの?」
「えっ、私ですか?」
「うん! シエルってお姫様だから、いい人と出会う機会も多そうだからさ!」
ミサキの言葉に私は思わず考え込んでしまう。
「笑わないって約束してくれますか?」
「絶対に笑わないよ!」
「じゃあ、話しますけど……これは、私が昔この城に出入りしていた魔法使いのおばあさんから聞いた昔話なんですけれど……」
私はあの昔話をミサキに話す。
本来であれば、誰にも話さない事だがミサキには話しても大丈夫だと、何故かそう思った。
「――っていう話なんですけど、その【裏切者】と呼ばれた男性に私は恋をしているんだと思います。あの時から、ずっと……」
話し終えてからミサキのほうを見ると、ミサキは唇を尖らせていた。
「あの……ミサキ?」
「こんな可愛い子に惚れられてるなんて……純のバカ」
「え? 純……?」
確か、ミサキの幼馴染の名前はユウだったはず。
では、ジュンとは一体……?
「あれ? 私、今何か言ってた?」
「ええ、ジュンのバカと」
ミサキは首を傾げる。
「ジュン? 誰だろう……」
ミサキは再度考え始めてしまう。
そこで、私はミサキに心の中で謝りながら【スキル:鑑定眼】を発動させる。
名前:桜木 美咲
種族:人間
性別:女性
職業:学生・???
STR:60
DEX:60
VIT:50
INT:???
AGI:100
称号:異世界者、???、???、???
スキル:位置探知、火魔法下級、水魔法下級、風魔法下級、???、???
表示されたミサキのステータスを見ながら私は眉を寄せる。
ミサキのステータスは一部が見れないのだ。
私は、???の部分を見ようと【スキル:詳細鑑定】を発動する。
「うっ!!」
瞬間、バチンッという音とともに目に激痛が走る。
「え!? シエル!?」
ミサキが心配そうに私の顔を覗き込む。
それに大丈夫だという意思表示をしながら、先ほどの現象について考えていた。
これは、本で読んだことだが【スキル:詳細鑑定】は相手と圧倒的な力の差があった場合はそれをレジストされ、反動を受ける事があると書いてあった。
つまり、私とミサキの間には圧倒的な力の差が存在していて、レジストされたという事だ。
(でも、なんで……?)
ただ、ここで疑問が残る。
ミサキのステータスはINTは見えなかったが、それ以外は他のクラスメイト達よりも低いし、一部はこの世界の人間と同じくらいしかない。
対して、私のステータスは召喚された人に比べたら圧倒的に低いが、昔からの英才教育のお陰で一般人よりは高い。
ミサキと見比べてみても、レジストされるほどの戦力差はないはずなのだが……。
「シエル? 本当に大丈夫?」
「え、あっ……大丈夫です」
私がそう答えると、ミサキはしばらくこちらを見てから頷いてまた悪夢の森と封印塔を見る。
「裕君に会いたいなぁ……」
訓練場から響いてくる爆音や剣戟音を背景にミサキはそう呟いた。




