タイムリミット
そろそろ周りからの視線が痛くなってきた所で、佐々木は俺から離れた。
目は泣いた事で赤くなっており、顔はそれ以上に赤かった。
「ご、ごめんね。安心したらつい……」
「いや、別にいいんだが……」
俺達は付き合いたてのカップルか!!
てか、外は戦闘中なのにこんな事をやってる場合じゃねぇ!!
「それより、佐々木も早く逃げろ」
「そうはいかないよ……ここには、まだ患者さんが居るんだよ?」
コイツ……どこまでお人よしなんだ……。
佐々木の目からは、負傷者が全員居なくなるまで絶対に逃げないという意志を感じた。
どうやら、先に逃がすという事は出来ないらしい。
「はぁ……コレなら、外のを片付ける方が楽かね」
《まぁ、恐らくはそうでしょうね。佐々木さんの意志はとても固いと思いますし》
「俺が魔力補充剤を使って、どれくらい経過した?」
《約30分程です》
つまり、あと30分で外の魔物を全て……もしくは、この国の兵士達だけで対処できるまでに減らさないといけないわけだ。
「やってやれないわけではないよな」
《兄さんなら余裕ですよ》
凍華の口からそんな言葉が聞けるなんて思っていなかった。
コイツはこういう場面でお世辞を言うようなタイプではないし、きっと本気でそう思ってくれているのだろう。
「一ノ瀬君……?」
「あぁ、すまん。大丈夫、俺が何とかしてくるよ」
やってやろう。
そろそろ、俺も強敵との戦いばっかりでストレスやら何やらが溜まってきた所だ。ここら辺で無双してもいい頃合いだろう。
「……信じてるから」
佐々木は何かを言う事を我慢して、そう呟いた。
それに対してしっかりと頷いて、俺はテントを出た。
「さぁ、やるか」
《はい。私達の強さを見せつけてあげましょう》
軽く一回だけ凍華を振るってしっかりと敵を見据える。
俺は決して強くはないときちんと自覚している。だが、そこら辺の魔物に負ける程弱くもないとわかっている。
「行くぞッ!!」
なら、油断しなければいい。
一瞬たりとも油断しなければ、魔物相手には無双できるはずなのだから。
◇ ◇ ◇
一歩踏み込む度に凍華を振るい、魔物の上半身と下半身を永遠にさよならさせて行く。
ゴブリンやオークなどの魔物が群がってくるが、それも全て斬り捨て、捌ききれない魔物は凍華の刀身から放たれている冷気によって凍らされるか動きが鈍くなった所を落ち着いて処理する。
そうやって戦っていくうちに周りの兵士達も士気を上げ、殲滅スピードはかなりの物となった。
一見順調そうに見えるが、俺の身体は絶好調とはとても言えない状態だった。
魔力増幅剤が切れるまでの時間に近づくにつれて、どんどん力が入らなくなっていくのがわかる。
集中していなければ、もう何回転んだかわからないし、何回凍華を落としていたかわからない。
「あと何分だッ!?」
近くに居たオークの腹を切り裂き、その勢いを利用してゴブリンをまとめて三匹切り裂く。
《あと15分です》
戦闘開始から既に15分が経過しているという事に驚きを隠せない。
俺の体感ではまだ5分くらいだったんだが……。
「凍華、俺の左手と柄をまとめて凍らせろッ!!」
一つ目の巨人の拳を躱し、お返しとばかりにその腕を斬りおとす。
痛みに暴れる一つ目に潰されるゴブリンを見ながら、俺は冷静に回避する。
《……わかりました》
凍華の声がした後、ピキッという音と共に俺の右手は柄ごと氷漬けになった。
冷たさは感じない。それどころか、どこか暖かささえ感じている。
「よし……」
軽く振ってみて、異常がない事を確認する。
何はともあれ、コレで俺の手に力が入らなくなったとしても凍華を落とす事は無くなったのだ。
「残り15分、キッチリと暴れさせてもらうぞ!!」
暴れていた一つ目の肩に飛び乗り、首を刈り取る。そのまま飛び降りて遠くに居た集団へと斬り込む。背後に残っていた生き残りは、一つ目に押しつぶされて死ぬだろうと予想しての行動だった。
前へと進む。
足に力が入らなくなってきてバランスを崩しかけるが、それでも凍華を振るう事だけは止めない。
《あと10分》
左足に力が入らなくなったが、まだ右足が残っている。
近場に居たゴブリンの頭を左手で掴んで身体を支え、その間に凍華で近づいて来た魔物を一刀両断する。
残りの魔物を確認する。
まだ、兵士達だけで対処できる数ではない。ここから更に半分は削らないと難しいだろう。
《あと5分》
右足に力を入れて、飛び上がり、一つ目の真上で倒立反転。
首を切り裂いて、背後へと膝をつきながら着地する。
右足にも力が入らなくなった。
《あと3分》
両脚に力が入らなくなった事で立ちあがれなくなった。
そこを勝機と見たのか、ゴブリンが大量に俺へと群がってくる。その手にはボロボロだが確実に命を奪えるであろう剣や斧を持っている。
だが……俺も簡単に殺される気はない。
ゴブリン共を十分に引き付けてから、凍華で薙ぎ払う。
左手を地面に付けて、片手倒立で跳びあがる。
「あ、コレ……ヤバいかもなぁ……」
《あと2分ですけど、戻るのは難しそうですね》
「魔物の数ももう少し減らさないとか……」
敵の中心に居た三つ目の狼を踏み潰しながら着地し、凍華の間合いに居る魔物を全て斬り殺す。
だが、コレでも足りないだろうし、それはわかっている。
俺がここに着地した理由は一つ。
「凍華、発動しろ!」
《いいんですか?》
「ああ。全部持って行け!!」
俺の身体から全ての魔力が凍華へと吸い取られるのがわかる。
《――序曲:氷姫の嘆き。発動します》
バツンッという音と共に俺の意識はブレーカーが落ちた時のPCみたいに途切れた。
最後に目に映った光景は、綺麗な氷の世界だった。
(ざまぁみろ……勝ったぞ)
最後の最後、俺はそう思った。




