物語の始まり
まず初めに、この小説を開いて頂きありがとうございます。
まだまだ拙い部分もあると思いますが、皆さまに楽しんで頂けるよう精一杯執筆させて頂きます。
異世界ものの物語は、個人または大多数の召喚系だとしても始まりはどれも一緒で召喚されて目が覚めて、そこから王女様とかから説明があって……そういう物のはずだ。
なのに、俺の『コレ』は一体どういう事だ?
「兄さん?」
俺が召喚された場所は、円形に石で造られた一室。
部屋を真横に横断するように存在している窓から外の景色を見る限り、ここが相当な高さである事は明白。
そして……俺の事を兄さんと呼ぶ白髪ロングの髪と同じく白地に水色の模様が入った和服を着る少女。
そんな異様な光景にも俺がこうやって冷静に物事を観察できている理由は、この光景を最近夢で見たからにほかならない。それらの情報から導き出される結論は……。
「なるほど、全部わかった。コレは俺の夢だな」
そうだ。そもそも、異世界転移とかあり得るわけがない。もちろん、そういうライトノベルとかは大好きだし、沢山読んできたがそれが自分の身に起こるなんて事はないはずだ。
「いやぁ……最近はテスト勉強とかで忙しかったし、疲れてるんだな」
「……」
納得して頷いている俺を少女はニッコリと微笑んで見つめている。
「……アレ? おかしいな? 俺の経験上、夢だとわかったらすぐに目を覚ますはずなんだけど……? なんで目が覚めないんだ?」
頬をつねったりしてみるが、少し痛むだけで目が覚める気配など微塵も感じない。
「兄さん。考え事は終わりましたか?」
「え? あ~……終わったというか、まだ解決してないというか……」
「でしたら、こちらでお茶でも飲みながら考えませんか?」
そう言って少女は自分が座って居る目の前に置かれている椅子を指さす。
「……ああ、そうだな。そうしようかな」
目が覚めない以上、反対する理由がない俺は少女の薦めに従って向かいの椅子に座る。
それと同時に少女は湯呑に入った緑茶をそっと俺の目の前に出してくれた。
「一体、いつの間に……あぁ、いや、俺の夢なんだからこんな事もありえるか」
そう結論を出して、俺は出された緑茶を啜る。
「ん……? いつも飲んでるヤツと少し味は違うけどこれはこれで美味しいな」
「お口にあったようで、よかったです」
少女は満面の笑みで笑ってから、いつの間にか自分の前に用意していた湯呑を持つ。
「さて、兄さん……残念ながらここは夢の世界ではありません」
「え……?」
目を伏せながら言った少女の言葉に俺は息が詰まる。
夢じゃない? マジで? それって、異世界にマジで召喚されちゃったって事?
「……つまり、俺はハブられ召喚されたって事?」
「ハブ……? まぁ、兄さんだけ別の場所に召喚されたのは間違いないですね」
なんてこった……!!
「まぁ、召喚される経緯に関しては思い出して頂いた方が早いと思いますよ」
そう言われて俺はここで目が覚めるまでの事を思い出そうとする。
「ダメだ、何も思い出せない……」
思い出そうとしてもそこの部分だけがくっきりと無くなってしまっている。
昨日の夕飯とかは思い出せるのに……。
「転移障害ですね。転移者は稀に転移する前の記憶が抜けてしまう事があるんです。でも、大丈夫ですよ脳には記憶としてきちんと保存されていますから、決して失ってしまったわけではありません」
「そうなのか……」
「本来であれば、ゆっくりと思い出せばいいのですが……時間もないので荒治療で行きましょう」
少女はそう言って立ち上がり、俺の所に来る。
改めて観ると、かなり可愛くて少しドキリとしてしまう。
「では、失礼します……」
そっと割れ物を扱うように両手で俺の頬に手を添える少女。
「兄さん……」
少し熱っぽく吐き出された吐息に俺の心臓は爆発寸前だ。
「……っ!!」
そんな事を考えていると、バチリと頭に電流が走る。
その後、耐えきれるレベルではない頭痛。
「ぐっ……! ああああああっ!!」
「では、いってらっしゃいませ」
少女のその言葉を最後に、俺は意識を手放した。




