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九十七話 寮生活1日目

「いやぁ、食った食った」


寮に戻ると、もう夕食の時間だったのですぐに夕食を食べに食堂に行った。

 ちゃんと美味しかった。この世界来てからまずい飯を食ったことは数えるほどしかないな。それだけ食文化が進んでるってことか。それとも料理人の腕が全体的にいいのか。

 そうして、今は部屋に戻ってきた。

 荷物が多いというわけでもなかったので、別に片付けとかに時間はかからなかった。


「風呂の時間までちょっと時間あるなぁ。なあ、なんか話そうぜ」


俺が頷く前にフィンレーはもう話し始めていた。

 いや、別にいいけど一体何を話すんだよ。


「俺はあんまり自信なくてさぁ。明日からの授業を乗り切れる気がしないんだ。お前はどうなんだ?」


魔法への適正率があれだけ良かったのにか?

 俺、この世界での授業で何をするのか、よく知らないが魔法が使えて、それなりのステータスさえあれば基本的にどうにかできるようなもんなんじゃないの?

 まあ、こいつがこう言ってるんだからそういうわけじゃないんだろうな。なんだろう、他にいるものって。

 …………………明日になったら分かるし、別にいいか。

 とりあえず俺も首を横に振っておく。


「お前も自信ないのか………まぁ、一緒に頑張ろうぜ。分かんないところは教えてやるよ」


おお、それはありがたい。

 一応予習みたいなのはしたが、それでも自信はないからな。

 心強く……はないか。こいつがもうちょっとバカじゃなかったら。いや、嘆いても仕方ない。頼れる時には頼らせてもらおう。


「イフリート、魔術って難しいのか?」


その質問は魔法と比較した時の発動が、だろうか。

 そうだとしたら、俺には答えにくい。だって魔法使えないから。

 そもそも魔法を使う感覚というのが分からない以上、俺は魔法と魔術を比較できない。

 というわけで俺にその質問をするのはどうかと思うんだが。

 困っているのを察したのか、フィンレーが慌てて付け加える。


「あ、ああ、魔法と比べて、ってわけじゃなくてだな。お前の感覚として、魔術の発動は難しいのか、って意味で……」


あぁ、なんだそういう。

 そういう意味でなら、俺は即答した。

 難しくない、だ。


「そ、そうなのか? 魔術ってのは難しい印象があったんだが」


俺は首を横に振る。

 まあ、俺だけって可能性もあるけど。

 ネット小説とかでの異世界転生物はだいたいそうだが、基本的に地球での現象や科学力で再現された炎だったりなんだったり、さらに持ち前の想像力のおかげで、魔術をイメージすることはそう難しくない。

 しかも俺は、一度発動すれば感覚を覚えてられるので、最初一回使えれば、あとは割とどうにかなるのだ。


「へぇ、俺にはお前がすごいのか、魔術が簡単なのか判断がつかないけど」


二度目の人生だから、かなぁ。

 お前らと歳は同じだが、15年は違う世界で、ある意味では魔法と呼べなくもないものに触れてきたからな。

 まあ、魔術をオススメはしないけどね。

 俺が魔術を使えるのは、そもそも地球での15年間の経験があるというのが大きい。あと、一度ルナに魔術を使ってもらった時は、異常に時間がかかった上に威力はとんでもなく低かった。

 魔法でもイメージは必要らしいが、魔術で完璧にイメージした場合の威力と同じだけの威力の魔法に必要な魔法でのイメージは、ふわふわしたものでいいらしい。もちろんイメージの精度を上げれば魔法の威力はその分上がっていく。

 そうして比べたら、当然楽な方が良いし、戦闘では使いやすいだろうな。

 魔術を構築するイメージで魔法を使えば、だいぶ強力だと思うんだけどな。


「俺も魔術使ってみようかな」


おい、それはダメだろ。

 すぐに俺は止めた。

 100パーセントに近い適正率を持ってるのに、魔術にも手を伸ばすのは大変だと思う。


「ダメか。良いと思うんだけどな、魔法と魔術の二刀流」


確かに憧れはするが、格好良さと強さは必ずしも同じ方向にあるとは限らないだろ。

 というか、そんなことされたら俺が羨ましさで何するか分からないからやめてくれ。


「っと、そろそろ風呂の時間か。行こうぜ」


俺は着替えを取り出そうとして、服を入れた棚を漁る素振りを見せる。


「なんだ、準備してなかったのか? 先に行ってるからあとから来いよ」


俺は頷き、探すフリをしながらフィンレーが部屋から出るのを待った。

 完全に部屋から出るのを確認すると、俺はようやく一息ついた。


「はー、ほぼ1日言葉を発しないのって思ってたより疲れるんだな」


学園来て、久しぶりの一人時間である。

 少し休んでから、俺はベランダに出て、下へ飛び降りた。

 地面に衝突する、というタイミングで受け止められる。リルファーだ。


「1日ぶりですね、主様」

「久しぶりでもないけどな」

「久しぶりですよ!」


そうかぁ? 俺にはそう思えないんだけど。

 学園に行くと分かった時に、リルファーの方から頼まれた。


『1日に一回、私が学園の方に出向くので会って話をしてください!』


なんで1日に一回話さなきゃいけないんだと思うんだが、理由を聞いたらなんでも、


『主様から学園について話を聞いて精神的にきついようでしたら私が連れて帰ります。そのために毎日経過を聞く必要がありますし、連れて帰るのにも少し準備が要りますので』


らしい。まあ、俺としては精神的にヤバくなったら連れて帰ってもらえる、という魅力的な提案に逆らえなかったのだ。

 フィンレーと部屋に戻って話している時に、ベランダにフィンレーには見えないようにして現れたので、風呂ということでフィンレーがいなくなるタイミングを見計らった。


「それはそうとして、アーノルドとアクトは大丈夫か?」

「二人とも元気ですよ。怪我もありません。ちゃんと仕事してましたよ」

「そうか、それは良かった。お前は怪我とかはないとして、ちゃんとご飯食ってるか?」

「もちろんです、アーノルドの料理は美味しいですから。それより主様は大丈夫なのですか?」

「まあ、今の所学園ではほとんど喋ってないから精神的には大丈夫。明日から本格的に始まるから、きつくなるとしたら明日からだな」

「そうですか、では明日からを楽しみにしておきます」

「楽しみにはするな。そろそろ行かないとバレそうだから、また明日な」

「あっ…………はい」


そんなシュンとするなよ。

 また明日会えるだろ。


「どうにかして一人になれて、ちゃんと時間あるタイミング探してみるから」

「お願いします。それでは」


俺は魔術を使って、三階の自分の部屋のベランダまで戻る。

 リルファーが手を振っているが、そちらを見るだけにして中に入る。

 俺は急いで、着替えを持って大浴場に向かって走る。

 すると、寮母のソフィアさんがいて、注意された。


「走らないでください。まだ時間には余裕があります」


すいません、という意味を込めたお辞儀をして、俺は早歩きに切り替える。

 脱衣所にはもう誰もいない。全員もう入ってるのか。俺も急がねば。

 すぐに服を脱ぎ、空いているカゴに着替えやら脱いだ服やらを放り込み、急いで風呂に入る。

 まあ、仮面はつけたままだけど。

 入り口の一番手前にフィンレーがおり、俺に気付いて声をかけてきた。


「おぉ、イフリート。遅いから心配したぜ、大丈夫か……ってお前! 風呂入る時くらい仮面外せよ!」


そういうわけにはいかんのだ。

 俺から仮面を外してみろ。震えて会話どころか、人と目を合わせることもできるかどうか。

 確かに真っ当な意見はあるが、俺にはそういうわけにもいかんのだ。諦めてくれ。

 俺は空いていたフィンレーの隣に座り、髪を洗い始める。


「お前、そんな髪長くて邪魔じゃないの?」


俺は全力で首を横に振る。

 俺だって切れるなら切りたい。でも『自己再生』があるから、どれだけ再生速度を遅めても、結局この髪の長さに戻ってきちゃうから、そこはもう諦めている。

 そのせいでこの長い髪を洗うのは無駄に早くなった。いつまでも誰かに洗ってもらおう、というわけにもいかないので。


「確かに、女みたいな身体してるよなぁ」


んなマジマジと見なくてもいいだろ。

 何度でも言うが、俺はなりたくてこの身体になったわけではない。

 髪洗い終わって、身体も洗った。よし、湯船に浸かろう。

 男の象徴がないことについて、何か言われるかも知れないと思ったので気配を極限まで消して風呂に入った。クラウスとかなら気配を消しても気づかれるかも知れないがやらないよりマシだろ。

 さぁ、どのタイミングで言われる……………。

 あれ、特に何も言われない。

 もしかして……………………思ってるよりバレない?

 なぁんだ、そこまで警戒しなくても良かったのか。緊張して損した。

 安心した俺は風呂でくつろいだ後、他の奴らが上がるより早めに上がって、体拭いて服を着る。

 ん? なんか足りないような………………………あっ、ローブが無い。

 おかしいな、ちゃんとカゴに入れといたはずなんだけど。どこ行った?

 探してみるが、近くにそれっぽい物体は無い。


「ん? イフリート君、どうかしたのかい?」


む、もう上がってきたか。となると他の奴らもそろそろ上がってくるだろう。

 うーん、明日もう一度探すか。ローブを積極的に使うわけでも無いし、あれは確か龍人しか使えないみたいだし、別に今すぐ欲しいわけじゃ無いしな。

 俺は何でも無いと身振り手振りで伝え、風呂場を後にした。

 どこ行ったんだろうか。

 考えながら歩いていると、廊下の向こう側に人影が見えた。ここは一階だから三年生…………でもあっちにも階段あるし二年生の可能性もあるな。

 脱衣所にはローブ無かったし、誰かが盗んだ? いや、流石にないと思うけど。

 でも盗まれたとしたら、一年生の可能性はないから、犯人は二年生か三年生ってことになるよなぁ。

 いや、どうせ明日朝から探すつもりだし別にいいか。

 そんな失礼なことは考えないようにしよう。

 階段を上って、三階に上がった時にクラウスさんに追いつかれた。


「明日から授業が始まるね。俺は楽しみだが、君は?」


いや、できることなら永遠に来ないで欲しいんだが。

 俺は首を横に振る。

 皆さんと違って、俺はこの学園に何かを求めているわけじゃないんだ。よって特に楽しみなことはない。


「そうか。君からすればこの学園の授業ですらつまらないのか。さすがだね」


おーい、深読みが過ぎるぞー。

 いくら何でもその解釈はおかしいだろ。

 多分ほとんど何言ってるか分かんないぞ。皆の常識的な知識は俺にはないぞ。


「それじゃあ、また明日」


クラウスさんの部屋、ここだったのか。

 俺たちの部屋と三つ離れてるだけか。思ってたより近かったんだな。

 俺も自分の部屋に入ると、制服片付けてから床に座って待っていた。

 しばらくすると、フィンレーが戻ってきた。


「おう、イフリート。お前一番遅く風呂入ったのに一番早く出たな」


そこは気にしないでくれ。

 早く着替えないと、男のアレがないことを気づかれるかも、と思ったんだよ。

 フィンレーも制服を片付けると、少し言いづらそうにしながら、小さい声で、


「多分気付かれたくないことだとは思うんだけど、お前その………男のアレ無かったよな。隣で洗ってたから見えちまってさ。ごめん」


バレてた。

 で、でもこの感じだと、フィンレー以外にはバレてない、と思われる。

 バレちまったものは仕方ない。他の人にはバレないように一層注意しよう。


「も、もちろん他の奴には黙っておくからさ」


それでお願いします。

 よし、とりあえずこれで一旦この話は終了だな。


「! もう消灯時間か! やべ、もう寝ないと。お前二段ベット、どっちがいい?」


俺は上を指差した。


「良かった、俺は下が良かったんだ。じゃあ、おやすみ」


慌てて部屋の電気消して二段ベットの下でスヤスヤと寝息を立てだした。

 こいつ寝るの早いな。

 俺もすぐに二段ベットの上に行くと、眠りにつこうとする。

 さて、明日中にローブが見つかるといいんだけど。

 そう思いながら、俺は眠った。



   ↓



 次の日。

 俺は早く起きて、男子棟を探してみたが、ローブは見当たらなかった。

 うーん、もう他に心当たりはないんだけどな。

 どこにもないとなると、自然消滅…………いや、それこそないか。勝手に動き出したわけでもあるまいし。

 色々と可能性を考えながら、フィンレーと一緒に食堂に向かう。

 食堂が賑わっているのを見るのは2度目だが、あんまり長時間見たい光景じゃないな。こんなに人がいるのは目が回る。

 一点ばかりを見ないように、視線を移しながら耐えていると、ある生徒に目が止まった。

 あれって…………間違いない。

 適当に朝食を貰って、俺は目に止まった生徒が座っているテーブルの違う席に腰をかけた。

 俺には気づいていないようで、朝食をとりながらブツブツ呟いている。

 片手にフォーク、もう片方の手に何やら布を握っている。

 多分二年生かな。メガネかけてる。


「付与されているのは所有者の魔力吸収と、その魔力を使っての所有者の容姿を変化させる魔法の発動。だが、なぜ魔力吸収を? 所有者の命を危険を晒すような効果を付与する必要はあるのか? むしろ一体誰が使えるんだ? 何のために作られたんだ? ふふふ、何にせよ興味深い。これは中々良い拾い物をしたようだ」


そう、何を隠そう、この人が持っているのは俺のローブだ。

 さて、どうしたものか。

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