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九十二話 3位決定戦&決勝戦

現在、俺たちはトーナメント会場にいる。

 もう少しで3位決定戦が始まる時間だ。正直今すぐにでも帰りたいのだが、『強欲』の魔王様が俺の隣に座っていて、そんなことしたらすぐにとっ捕まえられる。右腕らしき人もいるし。


「期待しているぞ、イフリート君。約束、覚えているな?」

「もちろんですよ、魔王様ー」

「ふむ、ここまであからさまだと、いっそ清々しいというものだ」


チッ、さすがに感情を入れなさすぎたな。

 くっそー、そりゃ覚えてるよね。3位決定戦、つまり昨日の試合でルナに負けた相手に圧勝しろ、とのことだが。俺なんかが実力者差し置いて3位になるとかダメだと思うし、そもそも無理だと思ったから提案された場では、お茶を濁して乗り切ったと思ったんだけど、そう簡単にはいかなかったか。


「うちの魔王様がすいません」

「いえ………………大丈夫です」

「本当に申し訳ありませんでした。ああいう性格でして」


さっき魔王の右腕っぽいと思っていた、メイド服の女性が謝ってきた。

 ああ、この人苦労してるんだなぁ、なんて思いながら、そうは言っても俺はこの人も苦手な方なので出来る限り目は合わせないようにして、うまい具合に乗り切った。

 まあ苦手じゃない人の方が少ないんだけどね!

 ちなみに昨日、戦闘中に仮面を壊してしまったため、またブラクの店で同じ作りの仮面を買った。新しい仮面は、前のがなんか禍々しい感じだったのに対して、かっこいい感じになっている。

 まあ、今は仮面もつけたしフードも被っている。だから目を合わせないようにするだけで済んでいる。何もしてなかったら、俺は多分喋れずに逃げているだろう。


『準備が整いました! これより3位決定戦を行います!』


もう始まってしまうのか。

 はぁ、嫌だなぁ。もういっそ無抵抗でやられてしまおうか。

 そう思っていると、隣の魔王様がボソっと呟いた。


「乗り気ではないようだ。一人でも殺した方がいいか……」

「魔王様、ちゃんとやるからそれはやめてください」


なんで『魔王種』はそういう発想で以って、俺を追い詰めてくるのか。そういう思考回路をしている人が『魔王種』になるのだと考えざるを得んな。

 ふぅー。さっき言っちゃったしちゃんとやろう。

 相手の正面まで行って、一度呼吸を整える。

 そして直列思考を使用し、魔術の構築を開始。


『それでは、3位決定戦…………開始っ!』


その言葉と同時に構築を完了させた魔術を相手選手に叩き込んだ。

 気絶するくらいの威力にしたから、多分もう試合終わっただろ。

 予想通り、相手選手は戦う前に地面に倒れ伏した。本当に申し訳ない。

 これで十分ですか、という意味を込めた視線を魔王に送る。すると、十分だ、という笑みが返ってきた。

 もうこういうことはしたくない。

 あれ、全然試合終了の声がかからない。


「あの………もう終わったと思うんですけど」

『あっ、はい! 試合終了! トーナメント第3位は種族代表『龍人』イフリート選手です!』


あーあ、3位になっちゃった。

 嬉しくはない。残ったのは、罪悪感と魔王への恨みだけである。

 まっすぐに席に戻り、ルナに声をかける。


「ルナ、相手は『魔王種』だけど頑張れよ」

「勝ってくる」

「おう」

『それではトーナメント決勝戦を行います! 種族代表同士の対決です! 『猫人』VS『魔王種』! 勝負の結果は明白かと思われましたが、昨日の第一試合もあります! どちらが勝つのか、全く予想がつきません!』


ルナが席から降りて、オムニヴァーの向かい側に立つ。

 張り詰めた空気を感じた。


『トーナメント決勝戦……開始っ!』


始まる。

 なんの工夫もなしだと俺には見えないが、直列思考を使って知覚する速度を引き上げることでなんとか見える状態にする。

 オムニヴァーはもう『魔王種』だとバレているためか、あの大盾をすでに装備していた。

 ルナも『色彩操作』を使って、透明化する。

 先に仕掛けたのはルナの方。俺とオムニヴァーの試合を見ていたこともあり、大盾の効果範囲はすでに把握しているようで、最小限の迂回を経てオムニヴァーの懐へ潜り込む。

 ちなみに俺は魔力を広げて、魔力感知しているため二人の動きが分かる。

 懐に潜り込むところまで完璧だったが、おそらくオムニヴァーも気づいている。

 すぐに大盾から手を離し、両腕で自分の眼の前を殴りつけた。ルナの動きが分かっている。だが、俺みたいに魔力感知で感知したわけじゃないようだ。

 その証拠にルナが後ろに回ったことに気づいていない。

 ルナが背中を切りつける。綺麗に決まった。俺、ほとんど攻撃決まらなかったんだけど、さすがはルナだ。

 すぐに後ろへ蹴りを放ち、ルナを牽制するオムニヴァーだが、それより早くルナは距離を取っている。

 あれ、距離取っていいのか? 多分大盾を警戒してのことだろうが、オムニヴァーに透明化への対処の時間を与えることになるぞ。

 体力ではいくらルナでもオムニヴァーには敵わないだろう。長期戦は不利になる。なら対処のための時間を与えずに押し切るのが一番良い、と思うのだが。戦いの心得がある奴の思考回路はよく分からん。


「じゃあ、遠慮なく!」


そう言って、オムニヴァーが大盾を取るのと同時に、魔力を広げる。

 これで透明化のアドバンテージは消えたぞ、大丈夫かルナ。


「そこか!」


魔力感知を取り入れたことでオムニヴァーの動きに迷いがなくなった。

 確実にルナの居場所を感知して、攻撃を行っている。

 もちろんルナも回避行動を取るが、回避後の位置も予測して放たれる魔法に手こずっているようだった。

 オムニヴァーの攻撃を何とか回避しながら、ルナが少しずつ接近する。でもいつものスピードの比べて明らかに遅い。あの速度だと、余裕でオムニヴァーは対処できる。


「おらぁ!」


オムニヴァーが膝蹴りを放った。

 が、ルナは何とか反応し、ナイフで防御する。それを感知したオムニヴァーが攻撃をすぐさま腕に変え、ルナの背中目掛けて殴る。ルナは対応しきれずナイフ一本での防御も間に合わない。


「かっはっ!」


もろに喰らったルナは、透明化が解けていた。大きなダメージだと思う。痛みでうまく体が動かせないくらいには。

 だが、今の攻防、オムニヴァーの完全な勝利ではなかった。

 防御に回した手とは逆の手でオムニヴァーの腹に魔法を喰らわせていたのだ。オムニヴァーは余裕で対処できたことで、むしろ隙が生まれたようだ。

 引き分けか、もしくは若干オムニヴァーが与えたダメージの方が上か。

 どっちにしろ、体力の絶対値が違う。たとえ引き分けでも後々のことまで考えると、ルナの方が劣勢だろう。


「……『水癒』」


ルナが自分に向けて魔法を使った。うまく立ち上がれない今の状況で自分に向けて使うんだから、回復魔法だろう。この世界に来て初めて見た気がするな、回復魔法。


「なあ、ルファー。あれって回復魔法だよな。どういう効果なの?」

「回復魔法は体の傷を治す魔法です。今ルナが使ったのは水属性の方ですね」

「体力も回復するのか?」

「まあ、多少は回復しますが、使用するときに使う魔力の量と回復する体力の量では、使う魔力の方が多いので、体力の回復はないです。むしろ減ってます」

「なるほど」


つまり今ルナは戦闘続行のためだけに回復魔法を使ったのか。

 確かにさっきのオムニヴァーの殴りはルナの背骨に一番ダメージ与えてそうだったからな。あのままだと動けなかっただろう。

 そうこうしているうちに、戦闘が再開している。

 ルナは透明化を解いていて、姿が見える状態で戦っていた。

 フェイントをひたすらかけて、オムニヴァーがフェイントにつられた時にナイフで傷をつける。というのを狙ってやっているようだが、いかんせんステータスに差がある。

 今の所オムニヴァーがフェイントに引っかかっている様子はない。兆しもないな。

 このままじゃ体力がなくなって負ける、と思った時、ルナが急に消えた。

 そして急に現れた。

 透明化を一時的に発動させたのだ。急に消え、現れる。これが眼の前で起きたオムニヴァーは若干の戸惑いを見せた。

 ルナは透明化を使っては解き、使っては解いた。

 オムニヴァーは魔力感知を解いたのだろう。体力の消耗を抑えようとしたのか、ただ単に面倒くさかったのか。どちらにしろ、透明化したルナの動きを把握できていなかった。

 次第にオムニヴァーは勘を頼るようになり、ルナを追えなくなっていく。

 そしてついに、ルナが攻撃を当てた。スライディングしながら足に切り傷を負わせた。

 オムニヴァーが痛みに少し顔をこわばらせ、もう一度魔力感知を使用した。どうやら今までは体力の消耗を抑えたかったようだ。攻撃を受けて消耗を気にしてられなくなったか。

 また透明化したルナの居場所をしっかりと把握される。


「ちょこまかしやがって………!」

「捕まえてみて」


そう言った直後、ルナが透明化を解き、そして増えた。

 何を言っているのか分からないと思うが、文字どおり10数人にまで増えたのだ。

 おそらく『色彩操作』で俺たち全員の目に映る色を操作し、まるでルナが増えたかのように見えさせている。

 リアルタイムでルナ全員が動き、どれが本物なのかを分からせないようにする。

 オムニヴァーだけに使用すればいいと思ったが、『魔王種』ともなれば、観客が目で追うルナを見抜くこともできると判断してのことだろう。

 それにしてもすごいな。全部本物かと思うほど、よく動く。これだけ並列に動かすのって、相当頭使うんじゃないか? ルナは大丈夫なのだろうか。

 だが、ルナ全員にきつそうな表情は見られない。

 もうオムニヴァーに斬りかかる、まさにその瞬間だった。


「面倒くせぇ!」


オムニヴァーが大盾で全てのルナを喰らおうとした。

 全てのルナを大盾が通過した。大盾が喰えないものはない。勝ったのはオムニヴァー。

 だが、すぐに違和感が襲う。


「な…んで血が出ねぇ」


オムニヴァーは大盾で全身を喰らったわけではなく、下半身だけを、上半身だけを、右半分だけを、左半身だけを通過させたのだ。

 だから本当なら、本物のルナから血が出るはず。だというのに、そこにあるのは『色彩操作』で映る景色を変えて作られた、実体を持たないルナ。

 実体がないから大盾を通過させても何もない。

 つまり、今俺たちの目に映っているルナの中に本物はいなかった。

 その真実に辿り着くと同時に、オムニヴァーの背中を何かが刺した。


「マジか……」


オムニヴァーがそう言いながら、後ろへ魔法を放つ。

 俺も魔力感知ですぐに何が起きたのかを察する。本物のルナが透明化して背後を取り、オムニヴァーの背を刺したのだ。

 なるほど、一旦透明化を解いたのは、『色彩操作』で増やした中にいると思わせるためか。

 増やした中にいると思わせ、視線を集中させることで、自分が透明化して近づいても悟られない状況を作り出したのか。オムニヴァーは急にルナが増えたことで、魔力感知より視界の方に頼ってしまったのか。

 背中を刺した、ってことはオムニヴァーは多少動きづらくなっているはずだ。戦力を確実に削いだ。

 ルナは透明化を解かないまま、次の行動をとった。

 透明化を一時的に解除する、ということを繰り返すとともに、『色彩操作』を使って偽物も作り出し、先ほどよりもさらにオムニヴァーは撹乱しに行く。

 先ほどまでよりもさらに効果は上がっているだろう。

 オムニヴァーは大盾を振り回して、前方の広範囲をカバーしているが、余裕はないように見える。しばらく防戦一方だったが、そこはさすが序列3位。

 10秒と経たないうちに、


「よし、慣れた」


魔力感知も併用し、ルナの動きに完璧な対応をみせた。


「ほう。まあ、さすがだな」


ルファーもこの評価である。


「私なら即座に対応できるがな」


別にそこまで張り合わなくても。

 とにかくもう錯乱は通用しないか、と思ったところでルナはさらに予想しなかった方法をとった。

 唐突に視界がおかしくなる。目に映る色が変だ。なんだこれ、急にどうしたんだ。

 魔力感知で周りを探るが、観客全員が同じ状況に陥っている。オムニヴァーも例外ではない。

 受け取る情報の八割が劇的な変貌を遂げ戸惑っている。


「クッソ、どうなってんだ!」


魔力感知でどうにかルナの居場所は分かるが、それと視界の情報が一致しないという奇妙な感覚。

 多分オムニヴァーも同じ状況だ。魔力感知でルナの位置は特定しているが、どうしても目から取り入れる情報を頼りにしてしまっている。魔力感知で特定したルナ目掛けて攻撃をしたようだが、全く見当違いの場所に攻撃してしまっている。

 状況は一気にルナ優勢に。

 『色彩操作』はすごいと思っていたが、『魔王種』にまで通用して、しかもここまで多彩で応用の効く技能だったとは。さすが固有技能。『自己再生』も負けてないが。

 ルナはオムニヴァーに斬撃を放ち続け、確実にダメージを与えていく。『魔王種』の膨大な体力が少しずつ削れていっているだろう。

 だが、どうにも決定力に欠ける。失礼にもそう思ってしまった。ルファーのように一撃一撃が、とんでもない威力なわけではない。オムニヴァーみたいに当たれば何でも喰らう強力な武器があるわけでもない。俺みたいにすごいしんどいとはいえ必殺の一撃みたいなのがあるわけでもない。

 決め手に欠けている。まあ、俺も並列思考や直列思考を使っての、魔術の並列、高速使用を行わなければ同じ状態に陥るんだけど、そこはそれ。

 今の所ルナが持っている攻撃方法はナイフでの斬撃だけ。この圧倒的優勢の状況でも使わないことからおそらく魔法でナイフの斬撃に勝てる威力のものはないようだ。


「なかなか面白い技能ではあったが、使い手本人に爆発力がないんじゃ俺には勝てねぇよ」

「!」


そうこうしているうちにオムニヴァーが慣れた、もしくは魔力感知の情報と視界の情報を一致させた。

 どちらにしろ、ルナに攻撃を届かせられる状態になった。

 鋭い踏み込み。そして大盾を持たない方の腕で鳩尾に一撃。多分手加減はなかった。

 ルナは勢いよく吹っ飛び、壁に当たって床に倒れた。

 視界不良も治る。ルナが倒れたからか。


『し、試合終了! 勝者、『魔王種』!』


優勢を一瞬にしてひっくり返した。

 あれが、序列3位。改めて思うが、俺よくあんな奴とちゃんと戦えたよな。ルナとの試合を見ていて、なんで戦えてたのか不思議になった。

 っと、そんなこと言ってらんねぇ! ルナ大丈夫か!?

 足に『身体硬化』を施してから観客席から飛び降りて、ルナの元へかけよる。


「おい、ルナ大丈夫か?」

「…………あんまり大丈夫じゃない」

「気持ち悪いとは思うが、血飲むか?」

「いや、いい。休めるところにまで行く体力は残ってる」

「肩でも貸そうか? 多分使えないけど」

「大丈夫………」

「そうか」


ルナは腹を押さえてながら、ゆっくり会場を後にした。すぐ戻ってくるとは思うけど。

 ついていこうかとも思ったが、やめておいた。

 悔しいんだ。多分俺がオムニヴァーに負けて少し感じた悔しさとは全く別の。だから俺がついていったらダメだと思った。

 観客席に戻ろうとした時に、『強欲』の方の魔王が降りてきた。


「これでトーナメントの全試合が終了した。優勝が他国のトップ、ということで参加を許した私を悪く思う者もいると思うが、そこは許してくれ」


お前のせいでオムニヴァーが参加して、リエルが危ない目にあって、ルナが悔しがってるんだ。もうちょっと罪悪感を感じろ。

 国民がお前を許しても俺はお前を許さん。


『表彰式はルナ選手が戻り次第行います』

「イフリート君。君は第3位だ。残りたまえよ。黙って帰らないように。逃がしはしない」

「チッ」


さすがに止められたか。

 第3位の表彰されても別に嬉しくないんだけどな。いや、1位でも2位でも嬉しくないけど。

 まあ、いい。

 とりあえずルナが戻ってくるまで待つことになった。

 とにかく、トーナメントの全試合が終了し、結果は『龍人』俺3位、『猫人』ルナ2位、『魔王種』オムニヴァー1位という、序列とは? と問いたくなるようなものになった。

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