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八十九話 王城で

「ここは…………」


『強欲』の魔王に連れてこられたのは、城だった。

 いかにも、王族が住んでます! っていう感じの。

 何でこんなところに。


「ついてきてくれ」

「まだ、二人が来てないが」


ルファーとオムニヴァーだが、一度追いついたのに、この魔王がなんでかさらに速度上げたせいで、見えなくなった。

 トーナメント会場からこの城まで、割と距離があるし、速度上げたのは半分より前だったから、差は俺が思ってるより広いだろう。

 未だに姿が見えないから、待ってても時間がかかると思う。


「別に話に必要ではないからな。いなくとも問題はない」

「まあ、そうなんですけど」


問題があるのは、どっちかっていうと俺なんだよ。

 明らかに豪華そうな城(初めて入る)に一人で入る、というのがどれほど俺にとって負担なのか、あんたは分かってないだろう、魔王様。

 ただ、まだ姿は見えない。くそ、援軍は絶望的か。腹を括ろう。

 大きな扉を通って、城の中に入ると、俺は思わず声を上げた。


「うおぉ……!」


まだ玄関みたいなところだけしか見ていないのに、俺は玉座の前で勇者が召喚されている光景を容易に想像できた。

 まさしくここは異世界の城だった。

 広い階段を上って、二階へ。

 そして、恐らくこの城の中央に通された。

 玉座だった。

 王様いた。


「へ?」

「挨拶をしておこうと思ってな。余が頼んだのだ」


………………はっ、思考が止まっていた。

 いや、ちょっと待ってくれ。いくら何でも城入ってすぐに王様に会うのはどうかと思うんだよ。庶民の感覚と違うことは何となく分かるけど、欠片でもいいからこっちの気を遣って欲しかった。

 と、とりあえず跪いて………えぇとあと何すればいいんだ!?


「それほどかしこまる必要はない。面をあげよ」

「は、はい!」


勢いよく顔を上げる。

 王様は、3〜40歳くらいの渋い感じの男性で、風格がすごい。

 王族ってこんな感じなんだな。


「うむ、これからもこの国でよろしく頼む」

「よろしくお願いします」

「行くぞ」

「あっ、はい」


ちょっと言い方にトゲというか、圧があったな。なんの念押しなのかはよく分からないが。

 それを聞く前に魔王様が歩き出してしまったので、俺も慌ててついていく。

 名前も聞けなかったんだけど。いくら何でも短すぎない?

 玉座の部屋から出るときに、一度振り向いて、


「失礼します!」


王様はニコニコ笑っていた。

 笑ってるはずなのに怖かった。あれが権力者か。

 魔王様についていくと、会議室みたいな部屋に来た。煌びやかな長机があって、椅子にも装飾が施してあった。正直落ち着かない。


「座れ」

「はい」


言われた通りに座ると、魔王様はちょうど俺の向かい側に座った。


「さて、話したいことがあるのだが、構わないだろうか?」

「拒否権ないでしょう」

「その通りではあるが」

「じゃあ、どうぞしてください」

「率直に行こう。君には今後どんな目的があっても他国に出ないでもらいたい」

「それはまたどうして?」


別に俺が国に出ようが出まいが、何かの影響になることはないと思うのだが。


「理由は主に二つだ。

 一つ目に、君が『龍人』であるためだ。試合を見ていたが、どうやら君には再生能力もあるようだ。つまり君を手に入れれば、金に困ることはない。誘拐などもこの国でなら対処はしやすいが、他国ではそうもいかない」

「はぁ」

「二つ目に、君の強さを世間に広めたからだ」

「広めたつもりないですけど?」

「気づいていなかったのか」


すごい呆れたように額に手を当てて、首を横に振った。

 なんだその対応は。そもそも俺は強くないだろ…………あれ、そうも言い切れない?


「君は自分が強くないと思っているのだろうが、『暴食』の魔王にあれだけ善戦したのに、強く映らないはずがないだろう」

「うっ、言われてみれば」

「しかもあのトーナメントはすべての国の間者が見ていた。君のことは報告されるだろう。それを見越しての開催だし、してくれなければ困るのだがな」

「どういうことです?」

「君という新たな戦力を他の国に知らしめるためだ。この国に対しての干渉が減るようにな」

「なんてことしてるんですか!?」

「不服なのはもちろん承知だが、諦めてくれ」


くそ、この魔王! 『魔王種』でなければ殴ってたぞ!

 確実に他の国への威嚇に俺を使いやがったな。あーあ、目立ちたくなかったのに。

 いやまあ、こればっかりはやっちまったからもうどうしようもないし、諦めるしかないんだけどさ。


「そんな君が、ほかの国に入れば、確実に捕らえられるだろうな。加えて先ほどの理由もある。この国に返してはくれないだろう」

「そうなったら俺には諦めろと? 助けもなし?」

「いや、助けられなくはない。というか確実に助けられるのだが、あまりほかの国に警戒されたくなくてな」


助けられるのかよ。すごいな。

 まあ、ないとは思うが、そうなったら自分の力でどうにかするしかないか。


「理解してもらえただろうか?」

「まあ、分かりました」

「それは良かった。さて、今後のことだが、これからは君は我々の国のものであると前面に押し出していく」

「言い方! …………いやまあ仕方ないのか」

「今までとは少なからず違う生活になってしまうと思うが、そこは了承してくれ」

「分かりました」

「素直でよろしい。そしてその一環として、トーナメントの3位決定戦があるのだが、それで圧勝してくれ」

「……………………」


それは………どうしようか。

 俺としてはライナーやオムニヴァーと戦ったのが特別で、それ以外は本気で戦うつもりなんてないんだが。なんでか知らないけど、本気出したら強い人と戦えたけど、本気出さなかったら絶対負けるんだよなぁ。

 でも、今この魔王様は、俺に本気を出せと言ってるようなもののわけだし……………むむむむ。

 悩んでいると、部屋の外が騒がしいことに気づいた。


「なんだ?」

「大変です、魔王様!」

「どうした?」


兵士っぽい人が、慌てた様子で入ってきて、何が起こっているのかを説明してくれた。


「現在下の階で不法侵入者二人が暴れています! 我々では手に負えないほど強く、一人は『主様を出せ!』、もう一人は『あいつらどこ行った!?』と言っています!」


俺は頭を抱えた。

 魔王様も同じ気持ちだったようで、同じように頭を抱えていた。


「魔王様」

「ああ、行こうか」


そう言って、下の階へ降りる。

 予想通り、ルファーとオムニヴァーがいて、城の兵士を粗方倒していた。


「何してんだお前は!」

「あっ、主様! なんだ、やっぱりいるではないか! なぜ誰か分からない、など言ったのだ!」

「なんで主様で通じると思ったんだ! 俺とお前の関係性知らない奴には、主語抜けてるようなもんだぞ!」

「オムニヴァー、君も何をやっているのだ」

「あぁ? こいつらが俺たちを通さないから教育してやってたんだよ。力量差も分からないとは」

「それについては申し訳ない」

「チッ、張り合いのねぇ」


オムニヴァーたちが思いっきり強者の発言をしているが、俺にはそんなことより、倒れた兵士たちが心配なんだけど。

 これで誰か死んでたりしたら、絶対に今以上に面倒臭くなってしまう。


「おい、ルファー。ちゃんと手加減したよな?」

「………………も、もちろんです」


こ、こいつ!

 妙な間があって、どもって、しかも嘘ついてやがる! 俺に嘘は通用しないって言ってあるのに! こいつ馬鹿なんじゃないの?

 い、いやそんなことより、ルファーを信じると、倒れてる兵士の中に、もしかしたら重傷者が……!

 えぇい!

 俺は倒れている兵士を全員見て回る。そうしたら少しは状態が分かるかもと思ったからだが、正直よく分からん。

 くそ、こうなったら全員に治療をするしかないか。


「ルファー、倒れてる兵士を全員横一列に並べてくれ!」

「なんでそんなことを………」

「は・や・く・し・ろ」

「はいっ!」


思わず殺気が出てしまった。

 まあ、そのおかげでルファーが言うことを聞いてくれた。

 ルファーが流石の手際で、倒れていた兵士たちを横一列に並べる。

 使いたくないといえば使いたくない。だが、使っても使わなくても面倒事に巻き込まれる気がするので、どうせなら使って面倒臭くなろう。

 腕を傷つけて、出血する。『自己再生』の再生速度は最大まで遅くして、血が滴り落ちる状態にする。

 そして、兵士たちの口の真上に腕を持って行き、走って血を兵士たちの口に垂らす。

 全員の口に血を垂らし終わったタイミングで、


「今口に入ったものは飲んでくださいね」


全員素直だったようで、言われた通りに血を飲んだ。抵抗あるだろうにすごいな。俺なら人の血は飲みたくない。まあ、伝えてないけど。でもなんとなく味で分かる気がする。

 とりあえず頭に響いてくる声の数が床に寝ている兵士たちの数とピッタリ合うので、大丈夫だろう。

 『譲渡』の許可を出して、『自己再生』劣化版を兵士たちに発動させる。

 すると、兵士が起き上がってきた。


「あ、あれ? 全く動けなかったのに」

「俺も同じだったのに」

「一体何が………?」

「言われた通りに口に入ったものを飲んだが………まさか高級ポーション!?」

「なっ、んなわけないだろう! 俺たちなんかに使うわけはずが!」

「そ、そうだよな」


兵士たちが、自分たちに何が起きたのかを話し合っていたが、俺はそんなことよりちょっと話したい奴がいた。


「なあ、ルファー」

「はい」

「動けなかったんだって」

「……はい」

「全く」

「…………はい」

「やりすぎだよね、どう考えても」

「………………はい」

「反省してください」

「で、でもオムニヴァーだって私と同じように兵士を……!」

「あいつは責任を負うのが自分だからいいの」

「どんな理由!?」

「お前がなんかしたら責任負うの俺なんだから、気をつけて下さいー!」

「……分かりました」


はあ、とりあえず一件落着。


「イフリート、一体今のはどういうことだ?」


知ってた。

 そうだよね、そりゃ興味あるよね、魔王様。

 だから嫌だったんだよ、使うの。背に腹は代えられんが。


「俺の技能です」

「ほう、詳しくは?」

「言えません」

「なるほど、自分に不利益か。ではまた違う時に聞かせてもらおう。さて、オムニヴァー」

「んだよ。別にいいだろ、手は抜いてたよ」


おい、ルファー。オムニヴァーですら手加減してたってのに、お前してなかったよな?

 ルファーは俺の視線に気づいたのか、すぐに視線を逸らした。

 さて、こいつどうしてやろうか。

 なんて考えていると、兵士の人たちが俺の方へ寄ってきた。


「君が助けてくれたのか?」

「………えぇ、まあはい」

「ありがとう!」


ガッと両手を掴まれた。

 急すぎてびっくりしたんだが。なんでそんなことするんだよ。


「こんなところで死んでは妻に叱られるところだった!」

「はあ、大変ですね」


両手を掴んできた30代前半くらいのおっさん兵士がそう言った。

 早く手を離してくれないかと思っていると、今度は違う人がお礼してきて、掴まれる手が変わった。

 そんなことが何回も続いて、もう手掴まないでほしいんだけど、と思っていると、ようやく終わった。


「ふぅ」


なんで皆、そんなコミュ力高いの。

 俺にはついていけない。お礼言われても、動機が感謝されるほどの善意じゃないから素直に受け取れない。

 ちょっと疲れた。


「じゃあもう帰っていいですか?」

「ああ、トーナメント会場に戻ってもらって構わないぞ。とりあえず最優先で伝えるべきことは伝えたからな。残りは追々……という形になる」


よし!

 まだルナは戦ってるかな? できれば見たいんだけど。

 えぇと、今からトーナメント会場に戻るまでにどのくらい時間かかるかな………ルナならすぐに終わらせそうだしもう終わってるかもしれないけど。

 とりあえずルファーの背中に乗せてもらって、最高速度で突っ走ってもらえれば、もしかしたらギリギリ間に合うかもしれない。

 よし、そうと決まればすぐに行こう。

 考えていたせいで気付かなかった。誰かが近づいてくる気配に。


「ちょっと、何の騒ぎよ。集中できないじゃない」


不意に声がしたので、その方向を向くと、長い金髪をなびかせて、階段の踊り場からこちらを見てくる整った顔をした少女がいた。背は俺より高いな。

 青い目がこっちを見据えていた。自分で言ってて気持ち悪いが、綺麗な目だった。


「王女か。珍しい、部屋から出ない時間帯だと思ったが」

「うるさすぎて、集中できないの! 何があったのよ」


王女様らしい。なるほど、なんとなく偉そうなのも納得だ。魔王様とも普通に話してるし。

 普通に可愛いと思う。王女様だし、これくらいの容姿が普通なのだろうか。

 その辺よく分からないが、それに見惚れることができなかったのは、とんでもなく嫌な予感がしたからだ。

 本能が告げてくる。この場から一秒でも早く逃げ出さなければ、確実に恐ろしい目に遭う、と。

 俺は『血への渇望』を発動させ、この城へ入る時にくぐった大きな門へ向かって走り出す。

 が、それを止められた。


「ねぇ、どうして逃げるのかしら?」

「!?」


追いつかれた!? 階段の踊り場からここまで結構距離あったぞ!?

 い、いやそれよりこのままでは逃げられない。ステータスにここまで差があるとは!

 ど、どうしよう。逃げ出そうとしたから、印象は最悪だろうし、もしかしたらこの場で打ち首とかあるかもしれない。

 明らかに気が強い感じだし、やりかねない。


「そんな怯えなくたっていいじゃない。失礼ね」

「す、すいません」


咄嗟に顔を隠す。

 表情でバレたか。


「顔も隠さなくっていいわよ、って」


強引に顔を隠していた手をどかされる。

 誰か助けてくれ、俺が一番苦手なタイプだ!


「あなた、遠くから見て思ったけど、近くで見て確信に変わったわ! すごく可愛いじゃない!」

「はい?」


何言ってんの、この人?

 俺の顔をジロジロ見ながら、すごい興奮した様子で、


「うん、うん、うん! ぜぇーったいあなたなら似合うわ! ちょっと来て!」


俺を引っ張って、王女様がどこかへ向かう。


「王女よ、どこへ行くのだ?」

「私の部屋よ! この子借りてくわ!」


有無を言わさず、俺を連れていく。

 後ろからしか見えないが、すっごい楽しそうな笑みを浮かべている。

 あー、悪い予感的中。俺はこれから何をされるのだろうか?

先週からそうでしたが、無理のない範囲で土日連続投稿にしようかなと思っています。

 投稿時間は20時です。もしかしたらたまに朝の8時になるかもしれません。その時はごめんなさい。

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