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八十六話 準決勝初戦、開始

トーナメント準決勝(三回戦)当日、初戦。対戦カードは種族代表同士。

 イフリートは既に会場に来ていて、オムニを待っていた。

 そろそろ始まる、というところでオムニも到着。


「遅かったじゃねぇか」

「お前が早すぎるんだよ。俺は時間通りに来たぜ」

『両者、準備はいいようなので、少し時間は早いですが、始めたいと思います。よろしいですか?』

「大丈夫だ」

「構わねぇぜ」

『それでは、準決勝第一試合……開始!』


掛け声と同時に、イフリートは『血への渇望』を使用。

 虚をつく形で、オムニめがけて右拳を振るう。

 が、ステータスの差が大きすぎた。


「遅ぇな」


いつの間にかオムニはイフリートの後ろに回り、頭を掴み、地面に叩きつける。

 オムニとしては拍子抜け、という感じだったが、イフリートの攻撃はそれだけではなかった。

 昨日と同じ手法、風邪によるクッションを魔術で作り、地面との衝突を避ける。今回は低反発を意識して構築したため、跳ね返ることはない。

 倒れた姿勢から左腕でオムニを狙い、魔術を放つ。


「『炎天龍』」

「!」


手加減などない、本気の一撃。

 それに気づいたオムニは、大きくのけぞる形で『炎天龍』を避ける。


「あっぶね! 油断してたわ」


軽口を叩きつつ、イフリートの放った一撃の威力に驚嘆する。


(あれだけの魔法を最初っから使った。まだまだ体力には余裕があるってことか)


何やら深読みされているようだが、それに気づかずイフリートは追撃を試みる。

 まだ試合が始まって10秒と経っていない。だというのに、もうイフリートは『操風』を使い、体を動かすスピードを魔術によって加速させ、拳と魔術を織り交ぜた攻撃を繰り出す。


「おぉ、わっと! ほっほぉ!」


楽しそうに避けるオムニ。

 それはつまり、まだ余裕だという表れだ。

 楽しそうな表情を浮かべるオムニにイラついたイフリートが、さらに攻撃の速度を上げる。

 イフリートは気づいていないが、その怒りが魔人技能『憤怒』によって、イフリートの身体能力を上げている。


「さっきの撤回するぜ! お前は速い! が、飽きた!」


一瞬で懐に入り込むと、オムニはイフリートの顔をまた鷲掴んだ。

 そして、イフリートがそれに対応する前に、オムニが鳩尾へ一撃。

 さらにイフリートの顔を掴んだまま、横に一回転し、今度こそ地面に叩きつけた。

 咄嗟に『身体硬化』を施すことさえ出来ず、『龍人』としての脆さのまま硬い地面へ。とんでもない衝撃がイフリートを襲うと同時に、仮面は壊れ、イフリートの顔が原形を留めなくなる。

 半分以上が潰れたところで、オムニによって蹴り出され、会場の壁に衝突する。

 先ほどまでのイフリートの優勢さが嘘のよう。


『ま、まだ1分と経っていません。しかし、とんでもない試合が繰り広げられています!』


実況は、無視した。

 先ほどまでイフリートの顔が潰れていた場所に広がる血の海を。

 もうほとんど戦える状況ではないと頭が理解できていなかった。

 まあ、それはイフリートが『自己再生』を持っていなかったら、だが。


「は、っはは! お前、昨日の戦いを見てもしやと思っていたが、再生者か!」

「知らねぇよ」


そう言って立ち上がるイフリートの顔は、再生がほとんど終わっているとはいえ、まだ最初に潰されたあたりはまだ再生しきれておらず、赤黒い肉が見えていた。

 観客の顔が青ざめる。

 すぐに再生が完了する。

 気にしていた素顔が露わになっているが、イフリートは特に気にしている様子はない。というか気づいていない。


(『自己再生』の再生速度を最大にしておいてよかった。あいつにステータス勝負で勝つのは無理だ。まあ、他の方法でも勝てるかは分からないけど、ステータスより可能性はあるはずだ。ステータス以外で勝負しろ)


考えをまとめると、すぐにオムニの方を向き直る。

 まだ『操風』は解けていない。

 即座に自分の状況を見極めると、戦略を組み立てる。

 そして、最初にするべきことをする。


(こいつ、動きが変わった。さっきまでより思考が深くて、多い感じだ)


直列思考と並列思考だ。

 確実にオムニの挙動に対応するために、序盤だというのに脳への負担を考えずに、迷わず使用した。

 脳への負担は跳ね上がっているが、その分イフリートはオムニの速度に対応しつつある。


(さっきまでと違って、オムニを目で追える。これなら!)


距離を詰めて、接近戦に持ち込もうとするオムニに対して、イフリートは冷静に攻撃の軌道を見て、回避する。

 それと同時に魔術を構築し、回避した腕に喰らわせる。それほどのダメージにはなっていないと思うが、腕の片方を弾くことができた。

 一瞬ではあるが、守りは両腕があるときよりも薄くなっている。今なら攻められる。

 直列思考、並列思考をフル稼働させ、周囲の状況の把握と、魔術の構築、自分の身体での攻撃とその制御を同時並行で無数に、普通の人間の倍のスピードで処理する。

 オムニの片腕が戻り、守りに入るまでおよそ0.05秒とない。だが、それで十分。

 刹那の間に構築した魔術全てをオムニの上半身にくまなく放つ。反動も含めてすぐに戻ってくる片腕は魔力感知によって動きを把握することで、軌道を予測。進行方向上に限られた時間の中で『身体硬化』を使った腕を配置することで、止められなくても一瞬の減速を作る。

 その隙にもう一度、構築した魔術を放つ。


「ぬぅ、ぐおおおおぉぉ!」


二、三メートル押され、ローブも消え去りながらも、なんとか耐えたオムニは、笑っていた。白い歯を見せて、初めて見せるフードの奥の爽やかながらも力強い顔は笑っていたのだ。

 今の攻撃に絶望したわけでも、痛みに苦しむわけでも、イフリートに飽きたわけでもなく、目の前にいるイフリートとの戦いを楽しんでいた。

 もはや本能。似合わないものに引っ張られたイフリートが、思わず距離をとる。


「良い判断だ。けど見誤ったな。そこはギリギリ俺の射程だ」


瞬間、イフリートの脇腹を何かが抉った。全くの意識外だった後ろから。


「俺は魔法がそんな得意じゃなくてな。手の平から離れれば離れるほど精度が落ちる。そこはギリギリ俺が魔法を使える範囲の内側なんだ」

「嘘、だろ」


手の平以外での魔法の使用。

 およそほとんどの者ができないその芸当を、ここまでの精度で行うオムニに、観客は驚きの声をあげた。


『ありえないところから魔法が飛び出しました! 一体何がどうなっているのでしょうか!?』


今まで純度百パーセントの肉弾戦を繰り広げてきたオムニが魔法を使うという可能性を完全に捨てていたイフリートは、完璧に虚をつかれた。


(少なくても、魔術であいつの魔法に対応するのが難しくなってきた。あいつに勝つ可能性が低くなった)


今のオムニの言った射程を信じるなら、ほとんど会場全域。ほんの少しの射程の外に出たところで、オムニのステータスで近づいてしまえば、もう射程の中。

 そもそもオムニのステータスをもってすれば、魔法なんて使わなくても一瞬で接近することが可能。

 イフリートの勝利の可能性が低くなり、オムニの勝利の可能性が高くなったのは確実だった。


「魔法を使うつもりなんてなかったんだけどな。俺の体だけでお前に勝つつもりだった」


そう言って、何もないところに拳を振り、蹴りを放つオムニに、唐突に痛みが走る。

 全くの予想外。背後から。

 当然後ろには誰もいない。ならば一体どうやって?


「俺にもできるから。手の平以外で使うの。ていうか、俺には本気出せって言っといて、お前は全然手抜いて勝つつもりだったってのは、どうかと思うんですが?」

「そりゃ悪かった、な!」


接近される。

 が、先ほどの攻撃のせいで、背後から攻撃を喰らわされる可能性が出てきたオムニはほんの少しではあるが、思い切った攻撃をためらった。

 イフリートの思う壺だった。試合が始まってすぐに使った『炎天龍』は、さすがのオムニでも当たれば不味いと分かっているため、動きは制限されていた。

 魔術を使う反応を見せ、オムニが警戒をイフリートの放つ魔術に移したところで、拳で殴る。

 反応してくるオムニを、直列思考によって遅くなった視界で捉えると、即座に行動を変え、警戒を拳から移さないようにして、魔術を発動。

 反応は見せるものの、迎撃しきれずにオムニに魔術が命中する。


(くそ、厄介さが格段に跳ね上がった………!)


全方位から、攻撃が飛んでくるということはそれだけ対処が難しい。

 オムニのステータスをもってしても、完全に防ぎきる、というのは至難の技だ。

 加えて、イフリート本人の判断力によって、オムニの行動を見てから正確に次の動きを決めている。ただでさえ難しい対処の難易度は、上がりに上がっている。

 距離をとったところで危険度は変わらないが、それでも一度思考を明瞭にしたかったオムニはイフリートの向けて腕を振るい、距離を取らせる。


(落ち着け、頭に血を昇らせるな。奴は俺の動きを見切っている。今までのステータスでごり押していた時とは勝手が違う。そろそろ他に封じてたものを出していい頃かもな)


イフリートが距離を詰めてくる。

 遠距離から攻撃を放つよりも、近距離で、イフリートの認識してから対応するまでの時間を短くした方が効果的だと考えたからだ。

 が、一度距離をとったことでオムニの頭は、正確に思考を行っている。

 この距離でなら新しい手段が効果的、と判断。

 右腕に魔力を纏わせると、空中に的のように魔力を配置。魔力を纏った拳でぶっ叩いた。

 オムニのステータスと、魔力を纏わせたことで硬度の上がった拳、その二つが合わさったことで発射された魔力の塊の速度はイフリートの認識速度を超えた。

 顔面に直撃。反応できず、その場で縦に半回転する。地面に頭を叩きつけられる。


「よっし! やっぱり見えねぇよな」


オムニが行ったことの内容は前述の通りだが、これまたできる者が少ないため、効果は絶大だ。

 そもそも魔力というのは目で見ることはできない。よって、例え雷と同様のスピードで塊が飛んできたとしても、知覚することはできない。

 今のオムニの攻撃もイフリートには分からなかった。

 同じような攻撃で『魔人』アクトロの、魔力を線状に配置し、その魔力に合わせて衝撃を放つ、という『魔力撃・線』というものがあったが、あの時、イフリートは相棒を自称する存在によって、魔力を視ることのできる魔眼を使えるようにしてもらっていたため、対抗できたのだ。

 今回、魔眼は使えない。自分の力だけでオムニの魔力を見つけなくてはいけない。


(なんだ今の! 急に頭に痛みが! 得体が知れない以上下手に手を出したら危険だ)


 とりあえずイフリートは魔力を円状に広げ、魔力感知を行う。

 それに気づいたオムニ。今までの疑問と合わさって質問せずにはいられなくなった。


「なあ、お前本当に『龍人』か?」

「よく言われるが、残念ながらそうだよ。なんだよ?」

「いや何、それにしてはおかしいと思っただけだ」

「体力が無尽蔵なのは、俺がそういう技能を持ってるからだぞ」

「それだけじゃない。一つ聞くが、何でお前………『魔人』にしか獲得できないはずの魔人技能を持ってるんだ?」

「何でそうだと思ったんだ?」


固有技能の亜種、特定の種族しか獲得できない技能。そのうちの一つが魔人技能である。

 イフリートは、理由は不明だが、そのうちの『憤怒』『怠惰』『強欲』を獲得しており、現在は所有者の怒りの度合いに応じて身体能力を上げる『憤怒』が無意識に発動していた。

 しかし、イフリートの思考は、ただ一点。どういう経路でバレたのか、ということが頭の中を支配した。


(俺が魔人技能を持ってるって言ったのは数えるほどしかいない。もちろん街に来てから言ったことはない。どこだ、どこでバレた?)


ありとあらゆる可能性を考える中、オムニが口を開いた。


「まあ、俺が何で分かったのかはいいんだよ。で、持ってるのか、持ってないのか。持ってるなら何で持ってるのかを言え」

「さあ、どうだろうな」

「そうか、じゃあ勝って吐かせてやるよ」


そう言って、オムニは腕を天に掲げる。

 イフリートがその行動を謎に思っていると、オムニが叫んだ。


「来い!」


その言葉が何に向けてなのかは分からない。

 だが、何となく察した。

 今呼んだものを到着させてはまずい、と。

 そう判断してからのイフリートの行動は速かった。

 直列思考、並列思考を使用し、魔術で接近する。今までよりも威力を上げることで速度を上げた。

 そして魔術で風の剣を作ると、オムニの左肩めがけて斜めに振り下ろす。

 それにすら魔術で加速を促し、一瞬で肩に到達するという刹那。

 『それ』はオムニとイフリートの間に割って入るようにして飛来した。

 真上からの登場によって、風の剣は二つに折られてしまった。

 イフリートはぶつかることを避け、今まで進んでいた方向と逆に魔術を使用し、急ブレーキをかけ、勢いそのままに後ろへ退避した。

 飛んできたあまりの衝撃に会場の床に突き刺さってしまったようで、『それ』は直立している。さらに煙も舞っていて、シルエット以外の確認出来ない。

 煙が晴れるのを待つと、そこには赤黒い色をした大盾があった。大きな顔のような黒いシミがあり不気味さを引き立てている。

 オムニはそれを持ち上げた。


「よしよし、よく来た。わざわざこれを持ってきたんだ。名乗らねぇとな」


会場にどよめきが溢れた。

 参加者のほとんどが震えを止められなかった。

 大盾の放つ圧倒的な存在感、嫌悪感によって、あの場にある大盾がどれだけのものなのかを肌で感じ取ったからだ。

 そして誰かが言った。


「う、嘘だろ。ありえねぇ。あいつは、あいつは!」


顔を真っ青にして怯えてしまい、それ以上は口から音が出なかった。

 それを見て、オムニは笑った。


「どうやら俺を知ってる奴がいるようだが、改めて名乗らせてもらおう。俺の名はオムニヴァー・グラトニー! 『魔王種』が一人、『暴食』の魔王としてこの国の隣国を統治してるもんだ! どうぞよろしく!」


予想外の言葉が出てきて、イフリートは固まった。

 『魔王種』と言えば、序列3位。序列最下位であるイフリートなんかと比べれば雲の上の存在である『魔王種』が目の前にいて、さっきまでそんなこと知らずに戦っていた。


「はあぁぁっ!?」

「さあ、やろうぜ。今度こそ全力で、な」


オムニ改め、オムニヴァーが口角を吊り上げて笑った。

 使い手に呼応するかのように、大盾にある顔に見える黒いシミが口角を吊り上げたように見えた。

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