八十五話 最後の種族代表
昨日と同じように試合するところから退いて、そしてライナーと話した。
「なあ、一つ聞きたいんだが、お前本当に『龍人』か?」
「ステータスにそう書いてあるから、どうしようもないです。俺だって別になりたくてなったわけじゃないし」
「種族と強さが合ってないだろ」
「いや、本来なら種族通りの強さなんだろうけど、ある固有技能のおかげでほとんどのデメリットがあってないようなもんです」
「固有技能って確か、一人しか持ってないもんだよな。転生者だから、お前も神様に貰ったのか?」
「うーん………」
『神種』らしき人物に会ったことは確かなんだが、『自己再生』をもらったのかと聞かれれば、正直分からない。
そんなそぶりはなかったし、姿もよく分からなかった。あいつが俺を転生させた張本人だとは思ってるんだが。
「俺は『転生神』っつー、転生を司ってる神様に会ってよ。その後、もう一人神様が出てきて、固有技能を貰ったんだ」
「ふーん………その『転生神』は自分が『転生神』だって言ってましたか?」
「ああ、言ってた」
ってことは少なくとも俺を転生させたのは『転生神』ではない、と。
でも、ライナーの言うことが本当なら転生を司ってる『転生神』以外に転生させられそうな神っているのか?
「そっちはあんまり実感湧かなかったんだけどよ、俺に固有技能をくれた神様が、ゼウスって名乗った時は驚いたぜ」
「……………ゼウス? ゼウスって、あの?」
「ああ、そのゼウス。いやもう、雰囲気が違った」
地球での神と名前が一緒。偶然か? 今のままじゃ偶然かどうかを判別する方法もないわけだが。
とりあえずこの情報はなんとなく、意味を持ちそうだ。覚えておこう。
「っと、俺はそろそろ行こうと思う」
「そうですか、ってどこ行くんですか?」
「特に決めてない。どうせ自由だ。好き勝手にぶらぶら行くさ」
「俺もそういう旅してみたいな」
「おお、しろしろ。ただ、もし会ったらその時は絶対勝つ。今回の分もまとめて返すぜ」
「あー、覚えておきます」
「じゃっ、またな」
「ええ、また」
そう言って、ライナーはこの場を後にした。
うーん、男らしい人だ。少なくとも俺にはできない生き方だな。
あっ、リルファーたちのこと忘れてた。早く席に戻らねぇと。
↓
戻ったら、遅いとちょっと説教された後に、べた褒めされた。
「ようやく主様の力の一端を有象無象どもに見せつける日が来ました! このまま優勝まで突き進みましょう!」
「す、すごかったです! さすがイフリートさんです!」
「本気出すまでが遅い。最初から本気だったら、瞬殺だった」
前二つはともかく、最後の一つはライナーに失礼だからやめろ。
俺はそうとは思わない。
『自己再生』の再生速度を上げれば、俺が出せる出力に今の所上限はないが、だというのに、手負いで体力がなかったライナー相手に押された。
それなのに瞬殺はさすがに無理だろう。
「今回が特別だったの。優勝なんて無理だ。ルナもいるのに」
「ふっふっふ、優勝は貰った」
「ぐぬぬ、主様、決勝まで残ってルナをボコボコにしてください! この勝ち誇った笑みは不愉快なので」
「あのなぁ…」
他愛ない話をしている間に、ルナの出番になった。
別に心配いらないだろ。まだ『色彩操作』も使ってないわけだし。
まあ、今回も一応言っておこう。
「頑張れ、負けんなよ」
「当然」
頼もしい返事を返して、ルナは行った。
試合の内容としては、ルナは今回『色彩操作』による透明化を使い、相手が対応に戸惑っている間に倒した。
またもや圧勝。でも、あの感じだと別に透明化を使う必要もないと思うが。
「なんで透明化使ったんだ?」
「次の相手の、私への脅威度を上げておこうと思って」
「そんなことしてなんの得があるんだ?」
「1日に一試合だから、無茶ができる。それなら相手が強い方が良い」
「こういう時だけ意見が合うな、ルナ」
「俺にはよく分からん」
「私もです」
強い奴って、だいたいこうなのだろうか?
第二試合が全て終了したため、会場を後にしながら、そんなことを考えていると、誰かにぶつかった。
「うわっ、ぷ。すいません……」
「いや、気にすんな。ん? お前は………」
ぶつかった相手は、大柄でローブを着ておりフードを深めにかぶっているせいで顔が分からない、おそらく男だった。
あれ、こいつ見たことあるな。
えぇっと………………、
「『龍人』のイフリートか?」
「あっ、最後の種族代表の!」
「そうだ、訳あって種族の名前は出せねぇがな」
ルナと同様、今のところ圧勝して勝ち進んでいる、種族の分からない人だ。
席に戻る途中で、こいつについて考察してる人いたな。あんまり内容覚えてないけど。
確か………ステータスが異常に高いからおそらく序列上位みたいなこと言ってたな。正直羨ましい。
「今日の試合、すごかった。あんな魔法のぶつかり合いを見られるとは思ってなかったんでな」
俺のは魔法じゃなくて魔術なんだけどね。
魔術って魔法とそんなに見分けつきにくいんだろうか。
「そこで、なんだが。一つ聞いてくれるか?」
「別にいいですけど」
「俺も勝ち進んで三回戦、準決勝に進んでな。次、お前と当たるんだ」
「はぁ」
あっ、いやな予感がする。とんでもなく。
この感じは、ライナーの時と同じ気が。
「今日の試合のように俺とも本気で戦ってくれないか?」
「嫌です」
きっぱりと断った。
俺は今回の試合で完全に分かってしまった。
本気というのは、とんでもなく疲れる。肉体的に、ではなくひたすら精神的に。二日続けてあんなことをやれというのは、さすがに辛すぎる。
というわけで丁重にお断りさせていただこう。
「何か理由が」
「俺は別に優勝したいわけでも何でもない。なし崩し的に仕方なく出たら、ここまで来ちゃった運が良いだけのやつなんです。あなたみたいに実力で勝ち残ってる人たちと比べたらきっと足元にも及びません。ましてや本気で戦うなんて、とてもとても」
「そうか、そこまで露骨に嫌がられてはダメだな。よし」
諦めてくれたかな。
「方法を変えよう」
「はっ?」
一瞬で男の姿は消えた。
男の発言に思考を巡らせつつ、周囲を見回すと、俺の後ろ、ルナ達がいる場所にいた。
リエルの首を軽くつかんだ状態で。
方法を変えるってそういうことかよ!
ルナとルファーは反応していた。が、冷や汗をかいている。俺はそこから察した。
気が少しでも緩んでいた状態とはいえ、二人の反応が遅れた。
つまり、この男はそれだけ速い。
「今この場で本気で戦うと誓え。誓わないようなら、この娘の首はなくなる」
「リエルから、手を離せ」
「その娘から手を退けろ」
ルナとルファーがそれぞれ言う。
が、男は全く応じない。
「おいおい、分からねぇのか? 今会話及び交渉の主導権握ってんのは俺だ。発言の内容、タイミングには細心の注意を払ったほうがいいぞ」
「あ、っぐ」
リエルの首を掴む手の力が強まった。
そして、俺は後悔した。
普通に話をしようと思った俺がバカだった、と。
こいつは明らかに普通ではない、それを理解するまでが遅すぎた。
とにかく今優先すべきは、リエルの安全。
「分かった。俺なんかの本気でよければ、全力で戦う。だから手を離せ」
「ダメだね。明日、本当に本気で戦うことが確定ではない。それじゃあ、ただの口約束だぜ」
「じゃあ、どうすればいい?」
「これにサインしろ」
そう言って、男が見せてきたのは、『森人』と友好条約を結んだ時に書いた紙と同じような紙。
だが、あれとは何か違う。
「これは誓約書だ。破れば指定したものが壊れる、っていうちっと過激なもんだがな」
こいつ、何をしてでも俺と本気で戦いたいのか。確定事項じゃないと納得できないのか。
ダメだ、今の俺にはどうしようもない。こいつの言うこと聞く以外に選択肢が見当たらない。
「書けばいいんだな?」
「それでいいんだよ」
男はペンも取り出すと、それを俺に渡して書くべき欄を指定してくる。
言われた通りに必要事項を記入すると、男に渡す。
「よし、あとは破れた時に壊れるものだが、こいつな」
「おい、待て」
男が提示したのは、リエルだった。
やるかもしれない、とは思っていた。だが、頭の片隅に可能性がよぎった程度。本当にやるなんて思いもしなかった。
思わず抑えていた殺気が出てしまうくらいには、動揺した。
何故なら、男の言葉に、一つたりとも嘘がなかったから。
「仲間でも人質にとらねぇと約束守らなさそうだからな」
「んなことしなくても、約束は守るからそれはやめろ!」
「信用できないね。ほい、っと」
書かれた。
そして男はリエルから手を離した。
先ほどまで掴まれていた首には謎の模様が浮かび上がっていた。
おそらくこれは、誓約書に書かれた影響だろう。
「ゲホッ、ゲッホ!」
「それは戦いが終わるまで消えねぇ。そいつの命が惜しければちゃんと戦うんだな、イフリート」
リエルに駆け寄り、首がやられていないかを確認する。
模様以外に特に目立った外傷がないことを確認してから、男に向き直る。
「ああ、そうだ。名前言ってなかったな。全部言うのも面倒臭いからな…………オムニだ」
「そうか、オムニ。お望み通りしっかり本気で戦ってやるよ」
「良い殺気だ。明日もその調子で頼むわ」
オムニは笑みを浮かべながら、去って行った。
あいつの背中を見ているのは、何かムカつくので、視線をリエルに戻し、
「大丈夫だったか? 呼吸苦しくないか?」
「だ、大丈夫です。急でビックリしました」
「一応『譲渡』使っておくか」
俺は自分の腕に傷をつけ血を垂らすと、それをリエルの口元に持って行き、
「これ飲んで」
「ちょっと抵抗あるんですけど」
「万が一があったら嫌だから」
「は、はい」
そう言って、素直に血を飲んでくれた。
脳に響く声に、即座に許可を出し、『譲渡』を発動させる。
まあ、抵抗があるのは認める。俺もこうやって自分の血を飲ませることに抵抗しか感じていない。申し訳なく思ってます。でも、効果は凄いからな。
「よし、色々あったし、リエルはまだ危ない状況に置かれてるけど、とりあえず帰ろう」
↓
家に帰ると、俺以外の表情からなんとなく悟られ、アーノルドに何があったのか聞かれた。
隠していても仕方ないと思ったので、アーノルドに説明すると、
「なるほど。旦那様、災難だったな」
と言われた。
ありがとう、アーノルド。本当に良い人です。
それから、リエルに何か異常がないのか、もう一度聞いてみた。
「大丈夫です。今の所、体に異常はありません。元気です」
「そうか? 何も隠してないな?」
「全然平気です! 何でそんなに心配するんですか?」
「死なれたら嫌だから」
「そ、そうですか」
何で顔が赤くなるんだ?
俺は特にこれといったことはしてないと思うんだが…………はっ、まさか!
「急に具合悪くなったのか!?」
「いえ、そういうわけじゃないので大丈夫です!」
「そうか? なんかあったら言えよ?」
「うぅ、何か申し訳なくなりました」
「? 何が申し訳ないんだ?」
「き、気にしないでください」
よく分からないが、とりあえず本人が平気だと言っていて、それが嘘ではないなら大丈夫か。
まだ安心はできないが、とりあえず今はここまでで心を落ち着けよう。
落ち着くと、そういえば、ルファーに聞きたいことがあったことを思い出した。
「なあ、オムニはお前より速かったのか?」
「はい? どうしてそう思ったんですか?」
「いや、リエルの後ろをとったオムニの速度に反応できてなかった気がしたから」
「ああ、その……………気を抜いていまして。即座に反応できなかったです」
少し気まずそうな顔をするルファーに対して、俺は疑問を覚える。
なんで今の発言に、嘘が含まれてるんだ?
考えられる可能性は幾つもはない。パッと上がった可能性を一つを口に出してみる。
「わざとか?」
ビクッと、ルファーの体が反応した。
俺は確信する。
あっ、こいつ何か隠してるな、と。
よく考えれば、ルファーの表情、ちょっとわざとぽかった気がしなくもない。
「ルナはわざとって感じしなかったな。さっきのリエルの発言も含めて考えると、お前とリエルがグルになって何か俺に隠してるな?」
「ギク」
「擬音を口に出すなよ」
「な、何のことでしょー?」
「そこまであからさまな誤魔化しが効くやつはいない」
「……………………」
「ルファー、俺は別に難しい事言ってるわけじゃないんだ。隠してる事を吐け、ってそう言ってるだけ」
「にこやかな顔で、そんな濃密度の殺気を私に向けないでください! 分かりました、言います! 言いますから!」
ルファーは隠していた事を話し始めた。
要約したところ、俺が勝った段階で、もっと俺の本気を見たくなったルファーがリエルも誘って次の対戦相手に、俺に本気を出させるように仕向けて欲しいと交渉しに行ったとのこと。
方法は任せた結果、あんなことになり引くに引けなくなった、らしい。
そういえば、ルファーとリエル、二人揃って席を外した時があったな。なるほど、あの時にか。
ただ、よくもまあ、そんなことしてくれたもんだよ。
俺が本気を理由もなく出すことはないって、分かってるからこそ取った手段だろうけど、自分たちに危険が及ぶようなことはして欲しくない。
「怒ってる………すごい怒ってるけど、許す」
「主様!」
「イフリートさん!」
「イフリート、甘い。許されるって分かってるからやってるところあるよ、多分」
「正直限界ギリギリだ。責任の半分はこんな危険な手段をとったオムニにあるから許せた」
「想像以上に危なかったですね!?」
「ああ、だからもうやめてくれ」
二人とももう反省したようだし、これ以上は言わなくてもいいか。
さて、解除がオムニにしかできないとなると、俺は明日もう一度本気で戦わないといけない。
精神的に辛いので連続してやりたくないと思った直後にこれだよ。フラグだったか、あれは。
まあ、やるしかない以上ちゃんとやろう。
「心配しなくても、後に引けないから全力で明日戦ってくるよ」
お望み通り本気でやってやるよ、オムニ。




