八十三話 同郷との出会い
「朝食も美味い」
「そうですね」
「うん、美味しい」
「はい!」
アーノルドが朝食を作ってくれたんだが、なんかいつもよりも美味しく感じる。
もちろん今までの飯が不味かったわけじゃないんだけど、あんまりちゃんとしてなかったというか、食べ物の形をギリギリ保っているくらいだったから、見栄え的に少し、ね。
言っておくが、俺が作ったわけではない。俺はあんまり料理できないから、どうしようかと思っているとリルファーとリエルが立候補してきたので、台所を任せてみたらこうなった。
後悔しかない。
なので、久しぶりにちゃんとした飯を食べられて良かった。
トーストと目玉焼きとソーセージというごく一般的なものだが、涙が流れるかもしれないくらいの感動が俺を襲っている。
「二人とも雇ってよかった」
「それはどうも」
「俺はこれから頑張る」
敬語を使うな、と風呂場で言ったら、一人称も変わった。まさか元は俺だったとは。
えぇっと、今日のイベントはトーナメントだけ、かな。
うん、他には特にないな。
昨日はだいたい10時くらいに街に行ったはずだから、今だいたい7時半くらいかな。なので、まあ割と余裕がある。
本当のことを言えば、昨日もこのくらいに朝食食べたんだが、それから家の掃除してたら、ほとんどの時間を使ってしまったのだ。
うーん、やっぱり家広くしすぎたかもしれない。
にしても、今日はどんな感じでトーナメントの時間まで過ごそうか。
まあ、行きたいところはある。あるんだけど…………昨日のアレがあるため、あまり前面に押し出していけない。
「…………主様、こんな朝から街に行きたいんですか?」
「………………」
ルファーにバレた。
そこまで顔に出ていただろうか。
「別に顔には出てないですよ、そうかもな、と。まあ、今のは顔に出てましたけど」
「イフリート、昨日のことがあったのにこんな朝から街に行く、って言うの?」
「うわー、怖い怖い! いや、分かってるよ! 分かってるから言わなかったんだよ」
ルナが本当に怖い。
ちゃんと謝ったのに!
これはもう一回謝らないといけないかもしれない。
まあ、それはともかくとして、
「でも、やっぱり街に行くことを仮にも目標にしていた人間として、望まない形とはいえ街に出向けたんだから、行きたいです……」
「何か、言った?」
「いえ、何も!」
くそ、ルナが怖すぎて反抗できない。
分かってるよ? ルナだって護衛役として俺の身を案じてのことだって分かってるよ? でも、俺だって人間なんだから欲望には忠実だよ?
いや、いや、こんなウジウジしてても仕方ない! もう切り替えよう!
「はあ、おい旦那様」
「何?」
「今日はこの家の構造を把握しようと思う」
「ああ、それなら俺が案内するよ」
「いや、自力で把握した方がいい。それに旦那様たちは途中でいなくなるのだろう? アクトとゆっくり見ていこうと思っているからな。急ぐ必要はない。要は邪魔なんだ。どうせ大した掃除も出来ていなんだろう? ついでに掃除もしておく」
「は、はい、分かりました」
アーノルドがなんでこんなに強く言うのかはなんとなく分かった。
ありがとう、アーノルド。
俺、行ってくるよ!
「というわけで、家の主なのに家から追い出されたわけだが、どうせ暇だし、街に行かない?」
「そういうことですか! イフリートさん、良かったですね」
「アーノルド、後で話す必要がある」
「意見があったなルナ。私も一緒に話そう」
おい、アーノルドは別に悪くないだろうが。
主に悪いのは俺だろ。いや、本当にアーノルドには頭が上がらない気がする。
よし、アーノルドに感謝しつつ、街に行こう。
今日はリルファーが乗せてくれそうにないや。魔術使おう。
↓
着いた。
昨日と違って、リルファーに乗ってなかったから、精神的にちょっと疲れた。
でもちゃんと街に着いたぞ。しっかりと仮面をつけ、フードも被った。
門をくぐり抜けると、昨日と同じような街の風景があった。
今は朝の8時くらいだが、普通に昨日と同じような行列がある。
引きこもりだから、大人がどのくらいに働きに出るのか、とかがよく分からないので、これが普通なのかよく分からないんだよな。
「さあ、どこ行く? 俺はどこでもいい」
「子供みたいにはしゃぎますねぇ。身体年齢が低いので、本当にそれっぽくなりますよ」
それを聞いて、俺は動きを止めた。
危ない危ない、ただでさえ体が小さいんだから、気をつけなくては。まあ、実年齢でもまだ子供だから、子供みたいにはしゃぐのは仕方ない。………………いや、開き直るのやめよう。なんか悲しくなってきた。
急に恥ずかしくなってきた。なんであんなことやったんだ。
その後、話し合った結果、とりあえず歩いてみよう、という話になった。
もしかしたら昨日のように行列に巻き込まれてしまうかもしれないが、その時はルナ達が無理やりにでも連れ戻すらしい。ありがたいです。
考えながら歩いていると、ふと俺と同じか俺より小さいくらいの金髪の男の子が、俺たちと同じように行列を避けるようにして歩いているのが目に止まった。
子供一人というのが気になって、少し目で追って、それから近づいて話しかけてみることにした。
「どうしたんだ、一人か? 親は?」
「…………………な」
「そ、そんな喋れないようなことがあったのか? 怪我はしてないか?」
「うるせぇな!」
「!?」
さ、最近の子供ってすごいんだな、色んな意味で。
まさか暴言が飛んでくるとは。
これが反抗期ってやつか。
「す、すいません」
思わず謝ってしまった。
というか今思い出したが、俺子供ダメじゃん。
一体どうして俺は話しかけてしまったのか。バカだ俺は。
「あ、悪い。ちょっと気が立っててな。心配してくれたのにすまん」
「いえ、大丈夫です」
「にしても、この行列には目をみはるものがあるよなぁ」
「まあ、確かにそうですね」
「これを見てると」
「はい、見てると」
「「渋谷のスクランブル交差点思い出すな、実際に見たことないけど」」
「え?」
「え?」
思考が追いついていかない。
が、すぐに理解する。
この子は、いや、こいつはまさか………
「転生者か!?」
「お前もか!?」
思考がようやくちゃんと追いついてきた。
今こいつは渋谷、と明らかに俺と同じように、日本の地名を言った。
つまり、こいつは俺と同じ元日本人、もしくは日本に住んでいた可能性がある。
「おい、ちょっと話そうぜ」
「もちろん」
そうして話し始める。
↓
「いやー、お前思ってたより大変な思いしたみたいじゃねぇか」
「そっちこそ、すごい大変じゃないですか。こっちなんてそれに比べたらちゃっちいもんです」
この男の子、いやライナー・エクトルの過去は壮絶なものだった。もちろん転生してから。
貴族の生まれでありながら、生まれるとともに没落。待っていたのは、人間不信になるような地獄だった。
まず、親はライナーに八つ当たりを始めた。特に理由もなく暴力を振るわれた。
ついで、ライナー自身には何の相談もなく売られた。急に、何の前触れもなく。
なんか俺にはよく分からないが、とりあえず変態らしい。
そして、そいつから何とか逃げると冒険者に拾われるが、そいつにも捨てられ、力をつけ、今に至る、らしい。
しかもまだ年齢は一桁らしい。いや、これは転生者としての精神年齢がないとすぐに挫けてしまいそうだ。
もちろん全ての発言に嘘はなかった。
「壮絶だなぁ」
「まあ、確かにな。でも今は少し楽しいから」
「そうですか、それは良かった」
「おお、まあ心残りがないわけじゃないけどな」
「なんですか?」
「やってたゲームのランキングで1位になれなかった。ずっと2位だった。めちゃめちゃやりこんでたのに」
「ああー、それは悔しいですね。俺は1位になったことないな」
「まあゲームの公式なランキングじゃないからな」
「なんてゲームなんですか?」
「マスター・ソード・オンライン。MSOって呼ばれててな。1位はウィンドってやつだった」
「ん?」
あれ、俺そのゲームやったことあるぞ? しかも名前一緒だな。
でも、同じ名前ってだけだろ。俺関係ない。
「すごい低い確率で手に入る一番レアリティの高い武器を持っててな、それでごり押して、他の強い武具をいっぱい持ってた」
「……………………」
「どうかしたか?」
「すいませんでしたぁ!」
「ど、どうしたどうした?」
「それ、多分俺です」
「は?」
いや、ネットで面白いって書いてあったから、始めてみたらなんかその、一番レアリティが高い武器っていうのが出ちゃって、まあいいかって続けてたら強い武具が手に入ってしまったのだ。
ゲームの運はなぜか良かったので、そんな大層なものが手に入ってしまったが、まさかそこまで持ち上げられているとは。
そのことを伝えると、ライナーは怒りをどうにか抑えていた。
「そ、そうか。う、運でそこまで強くなったのか」
「申し訳ないです」
「いや、大丈夫だ。そうだよな、そういうこともあるよな」
「ほ、本当にすいません」
「謝らなくていい」
「そ、そういうわけには…………すいません」
「だあぁー! 謝らなくていいって言ってんだろうが!」
「ごめんなさいぃ」
「だから謝らなくていいって…………そうだ、なら俺とトーナメントで本気で戦え」
「えっ、トーナメント出るんですか?」
「ああ、出る。だから本気で戦え」
「でも、いつ当たるのかは分からないんじゃ……?」
「次だよ、次にお前と俺で戦うんだ」
「そうなんですか?」
と言いつつ、トーナメント表を思い出す。
……………あー、言われてみれば確かにライナーの名前が書いてあった気がするな。
うわ、面倒臭いより先に、よく対戦相手の名前覚えてたな、と言う感想が出てきた。
それだけトーナメントに真剣になっているってことか。
そう考えると一層俺みたいなトーナメントに対して不真面目なヤツと戦わせるのが忍びない。
「分かりました。自分にできる限り本気でやります」
「よろしく頼む。じゃあ、トーナメントで」
そう言うと、ライナーは歩いてどこかに行ってしまった。
俺はそれを見送った後に、ライナーと話すにあたって少し遠いところで待ってもらっていたルナ達を探しに行く。
魔力で感知して、ルナ達の居場所を把握すると、その方向に歩き出す。
その場所に行くと、普通にティータイムみたいになっていた。
「イフリート、どんな話したの?」
「まあ、あんまり公に話せないことばっかり話してた。そして成り行きで次の試合で本気で戦うことになった」
「ついに主様の本当の力を見せる時が!」
「俺の本当の力とやらはすごい弱いだけだぞ」
「そんなことないです!」
「イフリートさんは強いですよ」
「ありがとう」
お世辞でもありがとう。
はあ、もう約束してきちゃったからなぁ。
ライナーには前世で申し訳ないことしちゃったしな。約束破ってキレられるの嫌だし。
「はあ、一応ちゃんとやるか」
「頑張ってください」
「主様、相手をボコボコにしてやってください」
「頑張れ、私も頑張る」
皆から声をもらって、少しだけ頑張ろうと思った。
よし、ライナーと話していたおかげで時間は潰せた。トーナメント会場に向かおう。
↓
『それではトーナメント二日目を開始します! 一試合目、一回戦では幸運にも勝利した『龍人』VS神童と謳われる『人種』!』
「ふぅー」
「さあ、やろうぜ」
あー、すごい乗り気だ。
やる気に満ちてる。これは元々の実力が下の俺とはいえ、少しでも手を抜けば気づかれてキレられる気がする。
そして、この試合、平均身長が低い。
まあ、それはいいや。
「宜しくお願いします」
「ああ」
『開始!』
そうして試合が始まる。
「さあ、最初っから飛ばしていくぞ! 『雷弾』!」
「!」
突然肩に激痛が走った。攻撃を食らった!?
早い、全く見えなかった。
おそらく、魔法。名前からして………
「雷、か」
俺のステータスでは分が悪い敵かもしれない。




