八十一話 奴隷
『一回戦がすべて終了いたしました。結果はこちらです』
解説がそう言うと、トーナメント表が変化し、二回戦の組み合わせが表示された。
俺の二回戦の相手は『人種』か。あっ、ルナも『人種』だ。
ルナはまた、だが、俺にとってはこのトーナメントで初めての『人種』との戦いだ。
そして、もしかしてとは思うが、このまま二回戦、ってことないよな?
………………ありそうで怖い。
『というわけでこのまま二回戦! と行きたいところですが、体力の回復はそこまで早いものではないので、選手は1日に一試合とさせていただきます。そういうわけで今日は解散! 選手は明日、同じ時間にここに集合してください』
解説が言うと同時か、それより早く、勝った選手も負けた選手も解散しだした。
俺も街に戻るか。一回戦がすべて終わるまでにかかった時間が思っていたより短かったので、まだ太陽が高い。
なので、リルファーと話していた、家事をしてくれるお手伝い、というか奴隷を見に行くつもりだ。見に行く、見に行くだけ。
「今日は隣の席に座らせていただきありがとうございました」
「お礼しなくていいですよ」
「明日も来るのでまた隣の席を貸してください」
「あっ、どうぞどうぞ」
「それでは」
そう言って、お爺さんとそのお孫さん(本当はそういう関係ではない)が会場から出て行った。
よし、俺たちもそろそろ出よう。
「もう帰りたい人ー」
「どうしたんですか、急に?」
「いや、俺これから街で色々見たいんだけど、ルナは疲れてるかもしれないし、もう帰りたい人もいるだろうと思って、一応聞いてみた」
「全く疲れてないし、私はイフリートの護衛。ついていく」
無理は…………してなさそうか。
まあ、本人がこう言ってるわけだし、別にいいか。
うん、帰りたい人はいないか。
というわけで、これより街に戻る。
↓
街に戻ってきたのだが、人が多い。
街に来てすぐの時は、テンションが上がってて気づかなかった。
歩くのすら難しい量の人を配置するんじゃない。はぁ、進めない。
まあ、俺は比較的背が小さいから、人ごみに埋もれられて多少は動きやすくはあるんだけど。
「主様、はぐれないでくださいね!」
「分かってる! けど、これはちょっと辛くない!?」
うわっ、会話してたら、人混みが急に移動して流される。
しかも他の奴らとは完璧に別方向だ! まずい、これは本当にやばい! はぐれるなと言われたのに、それがフラグみたいになっちまってる。
あー、逆流できないー。助けてー。
「ぬ、主様!?」
「たーすーけーてー!」
「迎えに行くのであまり動かないでくださいね!?」
「分かったー!」
リルファーたちは、ただでさえほとんど見えなかったのに、さらに遠ざかって全く見えなくなった。
そして、この人混みの群れは一体どこまで続いているのか。正直このまま流されてったら、街から出てしまう気がするんだけど。
「邪魔だぞ、ちびっこ!」
「ぬおっ!」
急にキレられて、流れから弾き飛ばされた。
こうなると、もしかしたら早い段階でリルファーたちと合流できるかもしれない。
となると、俺がするべきはここで待機しておくことだ。
それにしても、大通りみたいなところの端に行くと、もう流れの影響がほとんどないな。
キョロキョロと周りを見回してみると、幸運なのか、弾き飛ばされたすぐそこの場所が奴隷が売られている場所だった。
立派な建物だな。なんかキラキラしてる。イメージしてたのと違うな。
うーん、建物の中に入りたい。リルファーには待ってろって言われてるから、流石に入らないけど。
はあ、早くリルファーたち来ないかな。
そう思いながら待っていると、後ろから声をかけられた。
「おい、お前。ここで何してる?」
「…………………」
「おいこら、無視するんじゃねぇよ」
い、いや別に無視してるわけじゃないんです、どちらかというと久しぶりにコミュ症が発動したと言いますか。
うわー、後ろを向きたくない。
が、さすがに見ないと。
声のした方向を向いて、頑張って言葉を絞り出す。
「ひ、人を、待って…………ます」
「おお、そうか。だが、ここで待つな。別の場所で待ってろ」
「で、できれば動きたくないです」
「泣き言言うな。今すぐ退かないとちょっと乱暴な手段になるぞ」
「そ、それは勘弁して欲しいんですけど………また、人ごみにもまれるのも嫌です」
「てんめぇっ!」
いわゆる美形の男性が思いっきりキレた。
なんで店の近くにいるだけでそんなキレられなくちゃいけないんだよ!
フードを掴まれて、引きずられる。
暴力反対。ステータス高いのに、弱いものいじめするんじゃないよ!
「ちょっと来い」
路地裏に連れて行かれる。
これは、ボコボコにされるやつだ。
なんてことだ、俺はただ店の近くで待ってただけなのに。
「騒がしいぞ、一体どうした?」
「ああ、頭。こいつが店の前でずっといるから、退けって言ったけど、退かねぇから一度ぶん殴ってやろうと思ってよぉ」
「はぁ、お前はもう少し我慢っていうのを覚えろよ。別に店の前にいるくらい構わねぇよ。悪いな、仮面の。うちのは血の気が多くてね」
「い、いえ大丈夫で、す」
やった親切な人だ、と思ってまた声のした方を向いてみると、そこにいたのはバリバリ悪人っぽい見た目をした人が立っていた。
や、やばいかもしれないぞ。奴隷を売っているところの一番トップだよな。
下手をすると、俺が奴隷にされるかもしれない。……………………さすがに被害妄想が激しすぎか。
「だが、ここがどういう店なのか分かった上での行動なら、それは少し俺たちを舐めすぎじゃねぇか?」
あれ、俺もしかして割とやばい?
う、今のうちに逃げる準備しておいたほうがいいか?
「まあ、さすがに暴力沙汰にするつもりないけどな」
「は、はあ」
「でもこういう店にはあんまり近づくなよ」
「あー、えっとご忠告ありがとうございます。あと、見ていってもいいですか?」
「…………てめぇ、俺の話を聞いた上で言ったのか?」
「言いました、すいません。これでも皆さんが思っている年齢より上なんで」
「……………………仕方ねぇ、ついてこい」
「か、頭! どうして!」
「嘘ついているわけでもなかったからな」
うーん、根は優しい人、か?
そして、なんでリルファーとの約束を破ったかというと、この機会………………いや、機会というのかは分からないが、とりあえずこのタイミングを逃すと、なんとなくダメな気がしたので破りました。
建物の中に入れてもらうと、俺は思わず固まった。
いや、だってさ。俺のイメージと全く合ってない高級感漂う内装なんだけど。
「おい、仮面。お前の要望を聞かせろ」
「家事全般ができる人」
「性別とかは?」
「特に気にしないです。でもあんまり先が短い人は嫌かなぁ」
「なるほど…………分かった。となるとこっちの区画か」
今、この人区画って言った?
ってことは他の区画もあるってこと。思ってたよりこの建物広いぞ。そしてこの人たち、想像以上に大手だぞ。
「家事のできる奴隷ってなるとこの辺りだな」
俺はまたもや固まる。
唐突に汚すぎだろ。衛生面が気になるけど、この世界だとこれが普通なのかもしれない。
まあ、極力気にしないようにしよう。
「なんかこういう基準で選んだ方がいいとかありますか?」
「あー、正直このあたりは家事がほぼ完璧にできる奴隷だからな。もう見た目で選んでもいいと思うぞ。決めたら言ってくれ」
お言葉に甘えて、奴隷を見ていく。
まさしく異世界の奴隷、という感じに、檻に入れられ、ぼろ切れみたいな服を着せられ、手首足首に枷がはまっていた。全員怯えていて、俺が見ると目をそらす。
嫌われてる、ってわけじゃないんだよな。そもそも人が怖いんだろう。
見た目で選んでいいと言われたので好き勝手に選ぶが、さすがに女の奴隷はダメだな。そんなことしたら、俺の家の女率がさらに高くなってしまう。それは避けたい。
そして、先が短い人が嫌だと言ったのは、亡くなってしまった時に、悲しい気持ちになるのが嫌だし、もう一度買いに来る、なんてことは避けたかったからだ。
俺の要望通り、全員若い人だ。
なんとなく見てはいるが、正直これといって見た目が嫌いな人はいないし、誰でもいいというか。
と思っていると、変なものが目に入った。
あれ、おかしいな。ここで、あんなものが目に入ると思ってなかったんだが。しかも檻の中で。どういうことだ?
興味が湧いたので、その檻を見てみると、二人いた。しかも一人は…………全然若くないな。だいぶご高齢なんだが。
俺が来た途端、ご高齢の方が、若い子をかばい出したよ。俺、嫌われてるんだなぁ。
「ああ、そいつは気にするな。何しても、いつまでたっても離れないから仕方なくそのままにしてるんだ。家事ができるのは歳のいってる方だ」
「なるほど…………………なるほど」
まあ、何となく分かった気がした。
見えたのは俺にしか見えないだろう色。
「話はしてもいいんですか?」
「構わねぇぞ」
OKが出たので、話す。
ただし、何となく大声で話せない内容が混じる気がするので、小声で話す。
「なあ、お二人さん。なんか隠してますよね…………ああ、別にバラしたいとかそういうわけじゃないので安心してください」
「なぜ、そう思った?」
「その、何というか表現しにくいんだけど、嘘が見えるというか、隠してあるのが見えるというか」
正直本当に言葉にしにくいんだが、事実が隠されていると、隠されている場所が形容しがたい青色みたいな色で見える。
例えば『森人』の森の場合は、本来ならあるはずなのに、魔道具のせいでほとんど認識できないようになっていた。それによって、森全体が形容しがたい青色で見えていた。だから、森を見つけられた、とそういうわけだ。
今回の場合は、普通なら『人種』として見えているだろう子供の背中に羽みたいなのが形容しがたい青色で出ている。
それが目にとまったわけだが。そして、それを守ってる高齢の方がいるんだから、そりゃなんかあるんだな、ってなるよな。
「とりあえず訳ありなのは分かりました。そして、それを踏まえてお願いしたいんですけど、俺の奴隷になってくれませんか?」
こんなセリフ吐くつもりなかったんだけどな。今日は見るだけにしておきたかったんだが、このまま不気味がられて高齢の方が亡くなって、男の子の方が一人になる、みたいなのは気の毒だと思った。
もちろんただのおせっかいだ。断ってくれても構わない。
だが、受け入れてくれても構わない。
まあ、受け入れてくれた場合、俺は支払いをどうすればいいのかという問題はあるが。
「別に無理にとは言わないので」
「…………………どうしたい?」
「この人は多分、嘘ついてないよ」
うんうん、二人で相談しててくれ。俺はその間に支払いをどうするのかを、取らぬ狸の皮算用になるかもしれないけど、必死に考えておくから。
『強欲』で金を取り寄せるか? いや、目立つからあんまり使いたくないな。…………………………他に方法あるか?
いや、あるんだけど、あるんだけど使っちゃいけない方法なのだ。
鱗と角は、商人である奴らに見せたら、どうやって入手したのかとかを問い詰められそうで怖い、ので出さない。
金がないので、つけといて! という方法。いや、ダメだろ。怒られる、最悪殺される。
今持ってる装備品とかで払う。もしくはそれで一旦払い、後日現金でもう一度払って、装備品は返してもらう。前者はブラクに悪いのでしない。後者はそもそも信用されない気がする。
あれ、もしかしてこれ詰んだ?
いや、まだどうにかできるはずだ。
「だが……種……バレ……私た………た追……ること………に……。…から見て…彼…信用……る…?」
「き…と大丈……と…う。僕………人…信用………」
「そ…か。なら…………信用……………」
他に、他に何かないか?
どうにかしてうまいこと払えないかな。考えろ、俺。頭をフル回転させるんだ。
ぐぬぬぬぬぬ……………、
「話が決まった」
「あっ、はい」
くそ、決めるまでにもう話が終わってる。
えっ、どうしよう。本当にどうしよう。
「一応君を信用する」
「一応ってどういうことですか?」
「私たちを買うのは構わない。だが、その後の動向を見て信用に値しないようなら私たちは逃げる」
「はあ」
それは……………奴隷という立場上言っていいのか。そもそもそんなことができるのか。
そして、そんな脅迫みたいに言われても。まだ俺、買ってないのに。
この人、老いてるのに怖いんだけど。
まあ、別に…………、
「大丈夫ですよ」
「はっ?」
「いや、だから別に大丈夫ですよ」
まあ、もう一度買いに来なきゃいけないという面倒ができることになるが。
俺がダメなことは俺が一番知ってるわけで、そんなダメな俺が信用できないのは割と普通のことなので、なんとなく『まあ、仕方ないか』ってなってしまう。
何より、今俺の格好は不審者そのもの。信用されなくて普通だ。怪しい仮面にローブ。不審者以外の何とする。
「そ、それでいいのか?」
「色々な要素を加味した結果、信用されなくて当然だという考えに至りました」
ポカンとした顔をするな。
そして、今になって思考が追いついてきたが、この流れはもしかしなくても俺、この二人を買わなきゃいけない流れでは? おい、待て。まだ支払いをどうするか、全く決めてないぞ!
ちょ、ちょっと待って。少し、もう少し考える時間をください!
「…………………………」
「ど、どうした? まさか、ここまで来て怖気づいたのか?」
「んなわけねぇだろ。ちょっと待ってろ」
思わずタメ口が飛び出すくらいには、テンパってる。
どうしようか? ……………………………………………………………………………何も思いつかん!
「おい、どうした頭抱えて? まさかその奴隷たちになんかされたか?」
「……………い、いやそういうわけでは」
「あー、これはなんかされたな」
えっ、別にそんなことないよ?
何、どうしたの? 深読みが過ぎるよ?
ちょっ、何でこっち向かって切るんだよ! しかも、なんか腕構えてるんだけど。
「悪いな、どうにも魔力封じの枷がうまく働いてないようだ」
おい、それはそっちのミスだろ。俺が予想したことをしたら俺が何するか分からないからな!?
とまれ!
「すぐに目ぇ覚ましてやるから、ちょっと待ってな」
振りかぶるな、振りかぶるな!
くそ、こいつマジでやる気だ。
なら俺も少し抵抗させてもらおう! 『身体硬化』で少しだけ硬化して、頭が潰れない程度に硬くする。
「歯ぁ食いしばれ!」
はい!
いっっっったぁぁぁっっ!
思わず頭を押さえる。うわ、涙出てきた。
「んな思いっきりぶん殴らなくたって!」
「こんくらいの強さで殴らないと正気に戻らないだろうが」
「そもそも正気だわ!」
な、何だと!? という顔をされる。
仕方ないだろうが、だって何もされてないんだから。
良かった、『身体硬化』しておいて。してなかったら、確実に頭潰れてた。多分治るけど。
そして、俺はこの一撃でムキになってしまった、情けないことに。
「おい!」
「何だよ、悪かったな」
「この二人買うぞ!」
「………ああ、毎度」
一瞬固まりながらも、すぐに返してくれた。
さすが商人。
それと同時に俺は、やってしまった、という後悔が押し寄せてきていた。
これ、俺支払いどうするんだよ。い、いやここまで来たら行くとこまで行ってやろう。
「それで、支払いは?」
「これで」
俺は特に躊躇せずに、鱗を出す。
何の負い目もない感じで、というか負い目もクソもないので、自信満々に見せてやる。
「おい、これなんだ? お前、こんな赤い石ころが金の代わりになると思ってるのか?」
むっ、さすがに『鑑定士』は使わないか。
でも『鑑定士』を使ってくれないと、これが何か分からないと思うんだが。
だが、でかい声で言うわけにもいかない。俺は至近距離まで近づいて、小声で言う。
「『龍人』の鱗です」
「はぁ、んなわけないだろ…………………………いや、最近噂になってたな。一応確認するか」
少しの静寂があってから、驚いた声が聞こえた。
うーん、毎回こんな反応されるな。まあ、それだけ珍しいものだってことなんだけど。
それはいいんだけど、これ毎回やられるのは面倒臭いな、って。
「これ………本物じゃねぇか! ダメ元で聞くが、お前、これどこで手に入れた?」
「それは秘密ですよ」
本当は体にすごいついてるだけなんだけどね。
だが、転生して割とすぐに思ったことだが、『自己再生』の効果もあって、俺は現在金のなる木状態。自分の体に鱗がついてます、なんて言えば確実に捕らえられて、どんどん鱗剥がされて、『自己再生』の効果もバレて、一生外に出れない生活が待ってる気がする。
これに関しては、被害妄想が激しいとかではなく、本当にあり得る可能性だからな。
ちなみに今、この状況で俺が龍人とバレることはない。なぜなら、ローブの影響で姿が『人種』に見えるようにしてあるからだ。
「まあ、それはそうだろうな。くそ、ただの噂だと思ってたんだがな」
「もう行ってもいいですか?」
「ああ、ちょっと待て。今の価値だと、奴隷二人の支払いに使っても釣りがいる。とってくるからちょっと待ってろ」
そんなに高いのか。この二人の値段聞いてなかったし、鱗がどれくらい高いのかも分からないから、釣りがいるいらないはよく分からん。
まあ、確かに鱗は数えられるくらいしか世に出してないけど。いや、そもそも出さないつもりだったんだけど。
金はルニーだった。ローブの中にあった適当な袋の中にしまっておく。
「悪い、待たせた。はい、これ釣りな」
「どうも。それでは」
「またのご利用をお待ちしてますよ」
「……………………………また来るかもしれませんので、その時はお願いします」
この二人、俺が信用できなかったら逃げるとか言ってるし。
信用されなかったら、また買いに来なくちゃいけないかもしれない。
そう思いながら、店から出た。
「寒くないですか?」
この二人、ぼろ切れみたいな服のままなのだ。肌寒くなってきているので、これで風邪でも引かれたら困るぞ。
特に何の返事もないのはやめてほしいんだけど。
でも、二人とも男だし、服くらいなら買えるかもしれない。ちょうどお釣りで硬化は手に入ったわけだし。
「よし、服買いに行きましょう」
「なっ、別に買う必要は………」
「ハクションっ!」
「いるでしょう?」
「…………分かった」
渋々といった感じで了承してくれた。
一応リルファーたちの場所を確認。
…………………まだ流されてるな。さすがのあいつらも圧倒的な数の暴力には勝てなかったか。しかもまだまだ流されてるな。
というわけでまだ時間がかかりそうだな。うん、別に服くらい買ってもバレなさそうだ。
ついでに服屋っぽい店の位置は、っと。
「あっちか」
俺が歩き出すと、一応ついてきてくれた。
今のところは、俺のことを主人と認めてくれていると。
とにかく服屋に行って、できる限り急ぐように頼んで、執事が着るような燕尾服を作ってもらった。
ものの10数分で服は出来た。
手際の良さに感謝しながら、支払いを済ませて店を出る。
そのタイミングで、男の子の方のお腹が鳴った。
あー、時間的にはもう昼時か。じゃあ、まあ腹も減るか。
「お昼にしましょう」
→
「ああああ……………ぁぁっっ! 邪魔、くさいっっ!」
「おいうるせぇぞ!」
ルファーが激怒し、大声を出し、怒られた。
街の人間からしたら、これが普通なのだが、街の外から来た人間にはどうにもストレスが溜まってしまう。
この鬱陶しい人混みを一掃してやろうかとも考えたが、後に生じるイフリートへの迷惑を考えると、どうしても実行には踏み出せなかった。
だからこそ、甘んじてイフリートと真逆の方向に流されているわけだが、そろそろ限界らしい。
イフリートなら見知らぬ輩に絡まれても上手く躱すだろうが、それでも心配してしまう。
それはルナ、リエルも同じ。
一瞬でも早く人混みが途切れる場所に到着することを祈るばかりだった。
そして、ついにその時が来た。
人混みが途切れる、その瞬間が訪れると同時に、即座にルファーは人の流れから外れ、建物の壁を蹴り、屋根に飛び乗った。そのまま今まで来たのと逆の方向へ走り出す。
それを見て、遅れながらもルナとリエルが同じことをしようとする。
が、ルナがリエルを止める。
「やめた方がいい」
「えっ、なんでですか?」
「服装」
ルナに指摘されて、リエルは自分の服装をもう一度見る。
そして、ルナの言わんとすることに気づく。
リエルの服装はスカートだった。ルナはスカートではない。
つまり、ルファーと同じことをしようとすると、リエルだけスカートの中が他人に見える可能性があるのだ。
リエルは気づいて、顔を赤くした。そして諦めた。
「できる限り早く行きますぅ」
「了解」
リエルは違うルートを探し始めた。
一瞬でも早くイフリートを探すために、ルナは最高速で駆ける。
が、ルファーの背中が見えない。
ルファーに負けないように全力で走った。
そして、見えてきたのは………………
「おお、お前ら。大丈夫だったか」
突っ伏すルファーと、普通に昼食を食べるイフリートと燕尾服を着た見知らぬ子供と老人だった。




